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[昨日のことを思い出す。ふる、と一瞬体が震える。]
[けれど]
…平気。
…じゃ、全然ないけど。でも隠れててもきっと何も解決しないよ。
ううん、多分もっと悪くなる。
…負けちゃ、いけないんだ…。
ウェンデルか、ライヒアルトが食べられると思った。
[ためいきをつくライヒアルトに、子供はやはり淡々と告げる]
ぼくのことを、たぶん、人狼は知らないから。
―厨房―
作る気はするけど、食べる気はしないな。
[呟きの通り、火にかけたハムとザワークラウトのスープも、味見をしたきりそのままで]
果物だけとか。
[置いてあった袋の中から、手ごろな大きさの林檎を取り出して机に置く]
[ライヒアルトの内心は、知る由もない。
彼の答えを期待しているわけでもなかった。
あの力の事を言われるだけと思ったから。
端的に答える子供の、視線を受け止める]
…そうですか。
付いて来ても、何もありませんよ。
貴方の命が危なくなるだけだ。
[言ってすぐに顔を背け、階段へと歩みだす。
食べられる。
その台詞を受け、肩が僅か震えたが、歩は緩めなかった]
[歩き出すウェンデルを子供は黙って見送る。夜が終わり、今はまだ人狼の動く時ではないと知っていたから]
……気をつけて。
[そうと知っていながら、口にした言葉の意味を子供は知らない]
直接、確かめたわけではないが。
……今の所、生命が消える気配を感じては、いない。
[ウェンデルの問いに、返す言葉は簡潔。
しかし、階段へ向かう背に答えは届いたか否か。
子供の答えには、また、大げさにため息をついて]
……知る知らないの問題じゃないだろうが……。
―回想・ライヒアルトの部屋―
そんな言い方をするな。
[タチが悪い。同じ力を持っていた人物の顔が重なりかける。
短く断じたその言葉だけは迷いがなかった。
最後に返されたのは聞こえぬ振りで]
さて…。
[脳裏に浮かぶものがあった。
その場で暫しの逡巡。一つ頷き自室へと戻る。
考え事をしながらの歩みは、他者の存在に気付くことなく]
…うん。
ベアタは違うんだから。
隠れる必要なんてない。
イヴァンが嘘をついてるなら、それを暴かないと大変なことになる。
[ベアトリーチェが人狼であろうが無かろうが関係は無い]
[野放しに出来ないのは、ベアトリーチェに害をなそうとする者]
[自分にとって重要なのは、ただそれだけ]
じゃあ行こうか。
食器も片付けなきゃ。
[食事を終えた皿やカップをトレイに乗せると、それを持ち部屋を出ようと足を向けた]
……守護者……守り手。
[ため息をスルーする様子に、可愛げねぇ、と思ったのは一瞬。
こちらを見つめながらの言葉に、微か、表情は険しさを帯びる]
なるほど、な。
それならば、納得できるか。
[林檎を剥くのに果物ナイフを探す。
これまで使っていた料理用のものでは、僅かにやりにくいだろうと思って]
…折り畳みのも、あるんだ。
[掌に収まる大きさのそれは確かに使い勝手がよさそうで。
一度、滑らかに刃が取り出せる事を確認してから、エプロンのポケットへと入れた]
あ、果物ナイフ。有った。
[改めて、もう一つのナイフを取り出して、それで林檎を剥き始める。
手の動くまま、一個の林檎は8匹の兎へと]
[ライヒアルトの声は届けど、子供の台詞は届かず。
力在るものの事は知れど、ウェンデルは『場』の事は知らない]
…本当にいないのなら、彼が人狼だった?
いや、しかし、それなら、……あの騒ぎは。
[まだ認められずにいる。
罪なきものを殺めたと。
逃げ場を捜すように、呟きを零した]
[広間の近くで歩みを止める。
床板の色とは異なる染みは、残されたまま]
―現在・二階自室―
[木を削る音が響く。何度も何度も]
こんなところか。
[木片を払う。掌大のそこに彫り込まれたのは白百合の花。
本業ではなく趣味の範囲だった。
作品に細工をするのは本来、細工師の仕事で]
師匠のようにもいかないが。
[下に名前を刻んでゆく。Abel=Arendt]
全てが判明するまで、きっと何もしてくれないだろうから。
今はどうかこれで。…許してくれとも、言えないけどな。
[絶望に染まっていた瞳が今更ながらに思い出される。
そう、人間だというのが真実に聞こえるのは。
あの色を見てしまったからもあるのだろう]
……それは、間違いなかろうな。
守り手の存在は、疎ましいはず。
[眉を寄せる様子に、小さく呟いて]
誰、か。
……力の事を知るならば、俺以上に慎重に動くだろうから。
早々、姿は見せんと思うが……。
[窓際に置かれた標。
外にとも思ったが、見咎められるのも面倒だった]
そういや、ご同類だったっけ。
[ポケットから取り出した箱の中身を一本添えて。
もう一本に火をつけると、暫し無言のまま煙を揺らした]
[万年筆は片隅に転がっていた。
しゃがみ、拾い上げる。
暗がりでは、黒ずんだそれは、インクにも見えたが。
それとは異なる、乾き、こびりついた液体]
[結局のところ口に出来たのはたったのひとかけらだけ。
残りは色止めをして、皿に載せる]
今の状態で、人が作ったもの…食べられる人居るのかな。
[呟きは今更のようでもあったけれど。
それを手にして、向かう先は広間]
―→広間前―
ウェンデル。
[広間に程近い所。
柔らかそうな金の髪を見て、名前を呼ぶも。
それ以上は、言の葉に詰まったように口を開けず]
そう簡単にわかるようでは、守り手としてどうかと主うんたが。
……っと。
[あっさりとした様子で、階段へ向かう様子に。
はあ、と零れるのは、ため息]
……態度は正反対だが。
自分に無頓着としか思えん所は……ユーリィそっくりだな。
[ため息混じりに、呟く。
亡き友の愛称を言葉に織り込んだのは、無意識か]
[見るには、ちょうどこちらに向かってきていたようだから。
手に持った林檎の皿に翠玉の眼差しを落とす]
スープ…作ってあるよ。要らないなら良いけど。
[僅かに挟まれる沈黙は、躊躇いの形]
一緒に、広間で食べない?
-回想・廊下-
[ライヒアルトに対するゼルギウスの返答は大方予想もしていた答えで]
あのときのアーベルは普通じゃなかったしな、俺からはなんともいえん。
話はもう聞けない…、死人は口聞かないしな。
[イヴァンの話を聞けば]
たしかに初めて能力?使ったとか言うとき、
エーリッヒが人間じゃないっていったときもいつもと違った様子だったな。
[そう感想を述べて、イヴァンとライヒアルトを信用していない旨を聞けば]
その気持ちはよくわかるわ。
[と応えて、立ち去るゼルギウスを見送った]
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