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[『死んだ』ではなく、『壊れた』と言葉を選ぶ女性達に、
やはり向ける表情は、困ったという風な微笑。
その言葉を選ぶ心理が、分かりすぎていたが為。]
……そう、ですね。
[令嬢の言葉にも、もう一人の女性の言葉にも、
曖昧に頷いて]
あっ、砂埃……。
[ハインリヒの促しに、慌ててベアトリーチェの口元を覆い、
もう片方の手で自身の口元を覆った。]
[ハインリヒの声に従い口元を覆うが
見慣れぬ老人――ギュンターが扉の向こうに消えていく]
お待ちなさい!
[鋭く呼び止めるが、足は止まらず。
ブリジットは彼を追いかけて扉に手を掛けるが
――開かない。]
[特効薬、と聴き内心笑う
しかし表情には一切出さない
微かに吐息を漏らすと]
……。
[物言わず、手で口と鼻を覆いながら
睡眠装置の並ぶ部屋へと戻っていく]
― 冷凍睡眠装置安置所 ―
[かつ、かつ、と長い間隔で靴音が響く
眠りについたままの棺達を一望した]
…まるで、
[洗面台へと進みながら]
墓地、みたい
[小さく掠れそうな声を漏らす]
……困りましたね。
[やがて女性達の留める言葉を意に介さず、
扉へと吸い込まれていく老人の姿。
けほっと咳をしながら、ハインリヒに目配せをする。
砂埃の所為でなく、肺が重い感じがする。
コールドスリープから目覚めて行く身体は、
思い出さなくて良い感覚まで溶かしだす。]
(僕の場合は、肺から来るのかな……)
[冷静に自分の症状を確かめながら]
あっ、新たに目覚めた人もいるんですね。
[去る女性の後姿と、新たに見える男性の姿に、
少しだけ微笑を浮かべた。]
どうも、ありがとうございますです。
[頭を下げて礼をする。
男性が見知らぬ女性に声を掛けるのを見ながら頭に巻いていた手拭を外し口に当てた]
[後ろから肩を叩かれて、
少しだけびくりとし、振り返る]
…… ミスター・ハインリヒ。
[口元を改めて覆いかけていた手をずらす、と
またもう一度小さく咳き込んだ。]
●業務連絡●
あと、縁故の件注意はいれていなかったのですが、
無作為に集められたことになっていますので、あまりスリープ前に縁故があるのは推奨できません。
もう作ってしまった縁故はそのままでいいので、今後考慮ください。
スリープに入る前に顔を見た程度はかまいませんのでよろしくお願いします。
[洗面台の傍に辿り着くと、
ゆっくりと腰を降ろし、息を吐く
身体が重いせいか一つ一つが、割と辛い]
ふぅ…
[面々は、どうしたのだろうか、と
大広間の方へ視線を向ける
自身には先を追うだけの
未知を追うだけの、勇気は無かった]
駄目、ね
[既知へと舞い戻り、堕ち続ける水を見る]
…ふぇ?
うん、ゲルダ…だけど。
[名乗っていないのに唐突に呼ばれた名前。
不思議そうに金髪の長身を見あげて…]
………あ。
白衣、着てた人だよね?確か。
[その姿だけはおぼろげに記憶にあったようだ。]
[先程の彼女が捻り出したまま、
蛇口はすっかり赤錆色を忘れた水を
下方へ向かい流し続けている]
……あのとき、
何も出来ない……まま、死んでしまうの…と
[水に触れる事無く、掠れ声が小さく漏れる
水を落し続ける洗面台を見上げる形になった]
可能性に賭けて……夢を、見て…
その先に絶望して……死んでしまうのと
[視界の端には共に来た人物が眠り、赤を灯す棺]
どちらが、良かったの?
[砂塵舞う中、口を押さえて、そのまま空気が澄むのを待っている。
やがて収まれば……広間を見渡し、何かないか探し始める。]
[いばらを掻き分けたいが、それは思ったよりもずっと鋭い棘を持っているようだ。容易に触ることはままならない。]
………
[考え込みつつ、部屋の構造を見る。見上げれば天窓……だけど、そこにも伸びる蔦。]
ん?
[ふと、その蔦に覆われた天窓の向こうで何かが動いたような気もしたが、……次に目を凝らした時にはもう何もなかった。
しばらくは凝視していたが、諦めて、また部屋を見渡す。]
あ、あってた。
うん。可愛い子だったから覚えてたんだ。
[軟派とまではいかない、微妙な匙加減で言葉を紡ぐ。
あの時は、彼女は水色のこの寝間着ではなくて。
胸元にネームプレートをつけていただろうか。
それとも直接名前を聞いたのだったろうか。]
僕の父は此処の研究者でね。
見学に来て、白衣を着てたときに、あったのかな。
[曖昧な記憶。
思考をめぐらせたところで、
はっと相手が自分の名前を知らない可能性に気がついて]
僕は、エーリッヒ=A=エンツェンベルガー。
よろしくね。
[人好きのする笑みを湛えながら、
改めてになるか、名乗った。]
[ハインリヒとブリジットが話してる横を通りドアの前へと立つ]
ここを、こうして……
ええっと、……
ぬ……
あららら、駄目そうです。
[鍵穴に工具を突っ込んで開けようとした。
さすがにピッキングの心得は無かったのでうまくいくことは無かった]
残念、ですね。
うん、よろしくね?エーリィ。
[笑顔に釣られて、こちらも自然と表情がほころぶけれど、]
そっちの扉も、ダメ?
[開かないと聞いて、また落胆。]
[現状を見て、
只管、前向きになれるほど子供では無く、
だからと気落ちを隠しきれるほど大人でも無かった]
――。
[理由を知ろうとも思わないが、
石化した者を壊した者が居た、のだ
其処を含めても希望的観測はし辛くて]
(………怖い)
[死と言う未知も、
見える光景も、聴こえる音も、怖かった
『救われる権利』を得た人を殺めてまでも、
欲しかった居場所だったのに――*。]
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