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[ふ、と口元が斜めに上がった。]
本当に、あなたが。
おおかみ、だったんだ。
[熱。痛み。苦痛。それから、すべて。]
エーリッヒ様――
[朦朧と]
逃げて――
[舞う紅。
それが示すものは容易に知れて。
過ぎるのは、『間に合わなかった』という思い。
それに急かされるよに、ユーディットへと駆け寄った]
ユーディ!
ユーディット、しっかりしろ!
[逃げて、という言葉は聞こえていたが。
それには答えず。
振り返る緑が見やるは、今、紅を散らしたもの]
……そういう、事かよ……!
[先程まで己を強く押さえつけていた女が容易く朱に染まる]
くははははははは!!
何もかも喰らってくれる!
我が力、とくと思い知れ!!
[白銀を朱に染め、その場で高らかに笑い声を上げる。
その瞳は鳶色から紅へと変わり、顔にはいつもの無表情ではなく、惨劇を望み愉しむ歪んだ笑みが張り付いていた]
[響く、笑い声。
左の腕が疼く]
……てめぇ……俺のいる場所で、そんな真似ができると思うなっ!
[宣する手、握られた銀を飾る紅は鮮やかに燃えて]
ユリアン…っ!
[猛り狂うユリアンを呆然と見ながら。]
ユリアン、ああ――――――。
[顔色は、蒼白。
それは信じていた人が狼だったという事ではなく、守られていた秘密が露呈してしまった事への恐怖。]
[渇きがそこにあった。耐え難い渇きが襲ってくる。]
この、じんろう、がっ……!!
[憎しみが瞬間的にユーディットに力を与える。
ポケットから、震える手が突き出された。]
[イレーネに渡したのはただの短剣、しかしこの手にあるのは――アーベルの。]
死ねええええええええッ!!
[狼の右眼に向け、銀の短剣は突き出される。
自分の名前を呼ぶ声が、遠い。]
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