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[はたして、先ほどあげた疑問は、答えを聞くよりも早く、結果を知ることが出来た]
[―――ぴき]
[それは、アーベルの力のせいなのか、それとも、ブリジットの力の余波か。
ナターリエの体が、凍らされたように重くなる]
……まずったかな。
今は、ただ。知りたい。
影で在りたいと思ったのは、属に縛られていたからか。
己で在りたいと思ったのは、彼女を写していたからか。
己が分からない。
< 近付く生命の竜へ、鎖を巻いた手を差し伸べる。
奪うならあっさりと奪えよう >
……いっそ、剣など壊れてしまえばいい。
そうすれば、きっと、理も乱れ、この影から解放されるのだから。
< 何時しか、口調は写しとは異なるものになる。
歪な願いを受けた聖魔の石が、軋むような高い音を鳴らした。
それはまた、神斬の石にも届こうか >
……エーリが、あやまることじゃ、ないよ?
ユル、えらかったんだね。
エーリが、だいじょうぶなら、ユルもよかったんだよ。
[頭へと触れる手を拒む事無く、仔の視線は真直ぐに機竜殿へと注がれたまま
告げられた言葉にはふると一度小さく首を振った。
友のした事が間違っている等と思わぬ、況してや機械竜にとって大事な者の危機で在ったのだろう事を思えば尚更。]
…だめ、なの?
[落ちた欠片に気を取られたか、視線が床へと下る。
何事かと機竜殿を再度見上げ――仔は何を思ったか、欠片を拾おうとしゃがみ込んだ。]
―東殿/氷破の部屋―
[封印を司り、青年の目を押さえるレンズを作っていた氷破の部屋。彼女が目覚めていたならば一筋縄ではいかないのはわかっている。
だからこそ、力そのものを押さえる腕輪と、一定の力の操作をする指輪を外してきたのだから]
――…っ!
[氷壁へと隠していた鱗を投げつける。青い光は同質の氷となり、高く澄んだ音を立ててぶつかり合った]
…んで…剣は…結界の中じゃ?
[それもまた、共鳴と呼べるのか?剣の力を負の方向に受ける身体が、床に崩れる]
ベアトリーチェ…離れ、て…
[触れること能わぬ力ある剣の呪いに等しい波動、傍にあるだけでも幼い竜を害するかもしれない、と]
…っ!
[機竜殿の声にか、びくりと肩が跳ねる。
苦痛げな声に対する困惑と、心配が入り混じる眼で幼子は相手を見やった。]
――エーリ、だいじょうぶ?
だれか、よんでくる?
[霞む視界に、翠樹の仔が、崩れた欠片に触れようとするのが見えた]
触っちゃ、駄目だっ!
[声は弱った者とは思えぬほど大きく、空気を震わせた]
……まだ、少しは時間あるかねぃ。
[体はうまく動かない。
だが、まだ少しは力を使う余力もありそうだ。
それに、アーベルが氷の壁を崩すまでの余裕も]
よいしょ……と。
[ブリジットを真似るように、氷の壁の裏側に、水鏡の壁を生み出した。
少なくともこれで、視線はさえぎることは出来よう。
うまくいくならば、跳ね返すことすら出来るだろうが、そこまで望むのは高望み過ぎるだろう]
[離れた場所で鳴りし高い音。それは耳ではなく意識へと届く]
──っ!
何じゃ、今の、は。
[悲鳴にも似た音。突如なる腕輪の共鳴。対たる剣が、軋む音]
何が起きておる…!
[先程まで感じられなかった対たる剣の共鳴を感じる。未だ腕輪が不安定であるのは変わらぬが、あちらからの劈きに腕輪が反応した。アーベルを前にして、視線が惑うように移ろう]
[―――どうにか、間に合ったかな?
そのような思いを抱いて、ナターリエの体が、眠りを欲して、崩れ落ちる。
元々、オトフリートとの戦闘で、ほとんどの力は使い果たしている。
少しは弾除けや、囮になれたのなら儲けものだ]
……後は、任せるわよー……。
…けん?
――…くびかざりの?
[機竜殿の言葉に、幼子が何かへと反応したかの様に顔を上げる。
ポツリと呟いた言葉はしかし其れも一寸の事、床に倒れた姿を見やれば
幼子の表情は、今度こそ困惑が狼狽へと変わる。]
…っ、エーリ!
えーり、…
[触れるなと謂われれば、硬直するしかなく。
幼子にはどうすれば良いのか判らぬ、ただ眉を歪めた]
―東殿・氷破の部屋―
[丁度、心竜の話を出し、対策を思案中だったのが幸いしたのか。
氷破の竜は、立て続けに術式を放っていく]
一枚じゃ防ぎきれないのは、分かってる!
[両の手の内から、凍気が溢れる様に毀れ出る。
ナターリエが、水鏡の壁を氷壁の内側に張るのを見て]
二枚目――、
[二竜を少し下がらせた後、再度、氷壁を広げる。
より硬く、広げるようにして。
一枚目の氷壁は、音を立てて崩れようとするだろうか]
三枚――!
[三枚目の氷の壁を生み出した所で、その場に膝を着く]
ザムエル……、もう、これ以上は持たない……ッ、
退いて……ッ!
…くびかざり…?
[痛みに意識を奪われそうになりながら、しかし無機の半身はまだ崩れ切ってはおらず、幼竜の声を性格に認識する]
ベアトリーチェ…きみ、剣を、知ってる、の?
[不安が頭をもたげる、もしや、何かの間違いで、この幼竜の手に剣が?]
あれは、とても、危ないんだ…ユル、は、そのせいで…だから…持ってるなら…
[言葉は途切れ途切れに、幼竜に意味は伝わるか]
[移ろう視線は丁度倒れるナターリエの姿を映しだす。意識が現状へと引き戻された]
ぐぬぅ…!
聖魔剣の様子も気になるが…こちらを疎かにするわけにも行かんか。
[気を取り直したところにブリジットの声]
ブリジット!
…仕方あるまい…!
[アーベルが立つは窓際。なれば、と部屋の出入り口より回廊へと飛び出す。背には砂の翼。回廊内を滑るように駆けだした]
─東殿・ブリジットの部屋→回廊─
―東殿/氷破の部屋―
[眠れと命じたのと流水の竜の水鏡のどちらが早かったか。
跳ね返されるより前に膨れ上がる精神と影輝の力に赤紫の瞳はザムエルへと向かう]
――…貴方には『抑えられない』――…!
[赤紫は老竜の惑い移ろう視線を見つめ、青年の手は氷の歯車を、
ぱきん!
氷柱が割れるような高い音が響き、氷破の封が解ける]
―東殿・回廊―
泣くのにゃもう飽きたさ。
叫んで暴れて喉が枯れて。
今の俺になるまで、どれくらいかかったろうな。
…その顔は、少しうちの姐さんに似てるな。
[慈悲ににたノーラの微笑みに、微か笑んだ。何処か懐かしい、とも思うし、この笑みをみていたら、翠樹や陽光が近づいていたのも分かる気がした。]
俺からしてみりゃ、お前さんは会う人毎の口真似してちっと俺にゃ辛辣な、面白い影輝竜、って認識だったんだがな。
[分からないというノーラに軽く告げて。
その手に触れ、撒かれていた鎖を―――そっと取った。
軋むような高い音が耳を突き、流石に眉根を寄せ顔をゆがめるが。
鎖を落とす事はしなかった。]
…さて、どうなるんだろうな。願いを叶えたら壊れるのかね?
[それは、自らも未だ知らぬ所。]
けん、って。
くびかざりと、ノーラみたいな、わっか。
…そのふたつだって、リーチェ、知ってる。
[機竜の様子に困惑を滲ませながら、しかし投げられた問いには真直ぐに言葉を返す。
教えてもらったとは謂わぬ。それは闇竜殿と交わした約束を破る事に成るが故に。
尤も私はその事を知らぬ。首飾りが存在すとは初耳で在った。]
…ユルがこわれちゃったの、――けんのせい、なの?
でも、だって。
あぶなくないって、 きいたから。
[わたしちゃった。と。
機竜殿の言葉は拾えども逆にその事実を認知してか最後の言の葉は音に成らぬ。]
―東殿/回廊―
[眠る流水と膝を突く氷破を部屋に残し、青年は砂の翼を追う]
――…眠れ!
[赤紫の瞳の命令に、生まれ出る夢を渡り、大地の老竜の元へと]
そう。
泣くというのは、どういう気分だろう。
< 鎖が取られる間際、音に目を瞑った。
それから少し背伸びをして、生命の竜に手を伸ばす。
撫でるに及ぶかまでは分からないが、どちらにせよ、場に似つかわしくはない行為ではあった。
曖昧な微笑をつくり、そっと離れる >
……神斬剣に会いたい。
< 言った刹那、視線を転じる。影がざわめいた >
あぶないんだ、剣は、とても…
[すでに言葉はうわごとのように]
だから…渡して、俺に…持っているなら。
[手に入れたいとも、敢えて触れたいとも思わない剣ではあれど、すでにそれによって朽ちようとしている身ならば、却って安全かと口にする]
――――――――!
[酷く頭痛がした。
直前に触れていた、ノーラの起こした影響か。
剣が暴れるように、叫ぶように。
高い高い音をあげて。
周囲を舞う琥珀の粒子が、ゆらりゆらりと数を増やす。
痛みを和らげようと、怒りを抑えようと。
押さえ込もうと、鎖を潰す勢いで手は握り締められたが。
それは、ノーラが頭を撫でることによって、ふぃと和らいだ。
はっとするように、ノーラの微笑を見下ろす。
視線は、すでに別な方向に転じられていた。]
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