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[――妙に暖かいそれは、粘性を含んだそれは、水?
ああなんでどうしてこんなに、]
……ゆ、り?
[今度こそ、しっかりと肩を掴んで抱き起こす。
仰向けになったその瞳からは色が失われていて、制服の左胸は何かにちぎられたかのように穴を空けられ。
其処から、
あかい水が止め処なく、]
―屋内プール―
[そこに自然と足が向いたのは、本能だったのだろうか?]
―――純ねぇっ!!!
[思わず口に出たのは、子供の頃の呼び名。]
[プールの中に早乙女は、浮かんだまま顔を彼女へと向け悠然と笑う。]
『どうしたの?珍しいじゃ…。』
[1歩、近づく。
男が、倒れる。
もう1歩、近づく。
男が、―――斃れた]
なん、
…あかい、
………血?
[とめないと。
その言葉は、声になっただろうか]
いっつ……。
[違和感の消滅を確かめるのと同時に感じる、頭痛。
いまのはなにこれはなになにがおきてじぶんはどうなって。
そんな思考は、長くは続かなくて。
ただ、意識の一部は。
起きた事を至極冷静に──過ぎるくらいに冷静に受け止めていた。
まるで、『自分の中に最初から刻まれていた事』のように]
[「ゆめじゃ、ない」と、背後で呟いた声が聞こえて、ゆるりと振り返る]
…………夢じゃ、ない?
[呆然と呟く。…ざわりと、桜が蠢いたように、見えた]
なにいってるんですか
わたるったらわるふざけがすぎるから、はやくおきてよねぇそうじゃないとせんぱいがしんぱいするから
[声にほとんど抑揚はなく]
わたる、わたる
おき――――
――ああ、またお前、こんなに怪我して。
昔からそそっかしいとこは変わってないな。
[ややあって、口唇から洩れた言葉は、]
ほら、動けないのか?仕方ないな。
保健室に連れてってやるから。
[あかい水溜りの中から、その身体を抱きかかえ、]
軽いな。
お前ちゃんと食べてるか?皐月さんも心配してたぞ。
[笑う目は虚ろで、現実を見ていなくて、]
……ちょっと……待て……よ。
[そんな冷静な一部分が]
俺……こんなの、知らない……。
[言いようもなく怖くて]
こんな……の……。
[ふ……と。
泳いだ視線が、校庭の桜の大樹を捉えた]
……さくら……。
[昨日、登って転寝をしていた時は、青々としていたそれは。今は、季節にありえない様相で。
そこから感じる力の意味を、冷静な一部分はしっかりと理解しているのが、わかった]
”餌”ども。
たとえ
此処から逃げようとしたとて
[左右に誰も居ない、男子寮と向かい合ったベランダで
俯いた、唇から零れる
フユの声に依る独白]
……………………無駄だ。
…あ、
ハルヒ。
ハルヒは。
[震える手で、黒携帯を再び、取り出す。
ビニール袋が、風に揺られて、不快な音を立てる。
何かが、ざわつく。
短縮ボタンを押して、通話を、
―――繋がらない。
耳から離して、携帯の画面を、見る。
圏外。
今までそんな事、一度だって、なかったのに。]
[戸惑いの渦中にある生徒達は未だ知らねど
学園はいまは外界と遮断された異界と化していた]
しかし…………。
[顔を上げた。]
おれ以外にもう一匹。
どうやら、紛れ込んだらしいな……
……それにこいつはどうやら
随分と。
弱い。
[早乙女の瞳は彼女に向けられたままで、水面は朱に侵食されていく。]
[千切れとんだ腕と足が、水母のようにたゆたっている。]
[胸元は深く抉られて、それに伴い水着もかろうじて上半身に引っかかっている様な状態。]
[其れは、現実感のない風景。]
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