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[そう、本能的というより、職業的な勘で]
[わかる、何か不穏な空気……]
[こんな状態でも、]
[失われていない感覚]
[離れる手に、零れるため息]
……一緒に行く、という選択肢はないのか、そこで。
俺は、もう。
手を、離したくはないんだが。
今までに。
手を離したものを、悉く失ってきたから。
[困ったように言うのは。
先の記憶の交差のためか]
[休憩室へと向かう途中、ハインリヒの石像の傍、ブリジットの姿。その声。何を言っているのかは聞き取れなかった]
待って、ノーラさん、ツヴァイさんに、お別れを言っていくの。
[足を止めて。先ほど首を絞められた、場所。ハインリヒの虚ろな目も、表情も、何も見えていなかったけれど。
その温かさは、覚えている]
ツヴァイさん、あのね。
……。
ありがとう。
[手を離したのは、他のおんなのひとを見るライヒアルトが見たくなかったから。でも。視線を感じて見れば、ノーラがこちらを見ていて聞こえる言葉。
ぎゅっとライヒアルトの手を握り治した。]
行く。あたしも離れたくない。だから。
[ノーラ達が休憩室から出てくれば、入れ替わるように休憩室へ。イレーネのところへ。]
……。
…………。ツヴァイさんのこと、忘れない。忘れられるはず、ないの。
だって、、。
[言わない、言えない。言った気もしたけれど]
……じゃあ、もう時間がないから、……さよなら、だよ。
[頭を下げる。
そして歩き出した]
[祈るような、ノーラの言葉。
天鵞絨を細め、そちらを見やる]
……わかってる。
決めた事だから。
[短い答えは届くか否か。
握り直される手。
向かう先は、ピアノの傍で石と化した少女の元。
鍵盤に触れるものがないためか他に理由があるのか。
周囲は、静かだった]
……そういや、言うのを忘れてた、な。
お前の演奏。
綺麗だった。
[紡いだのは、ごく短い言葉]
[散っていく人々]
[其々思うところがあるのだろう]
[この城に遺される"未練"たち]
───。
[瞳を細めた]
[僅かな羨望]
[自分には]
[解りえない、感情]
[だから]
[足はゆっくりゆっくり]
[屋上に向かう]
[まるで]
[自分の居場所を求めるように]
[休憩室、その階段の傍にその石像はあった。あの時と同じ姿のまま佇む、エーリッヒの姿。
近寄って、手を伸ばす。
触れるとやはり硬く冷たいまま]
エーリッヒさん、ノーラさん、連れてきたよ?
でも、今からここから連れて行くから、ごめんなさい。
エーリッヒさんの声、好きだった。
色々助けてもらったの。
まだ、エーリッヒさんのところにはいけないから。
[足音が遠くなる。
たたずんで、白い石と化したハインリヒから
眼を離さなかった。
虚ろを秘めた常緑の、いばらのいろをした眼。
いばらの花は咲く。
いばらの花は――咲く
ちいさく、唇が動いた。
撫ぜて離れた手。
落ちた雫。
幾粒か、幾筋か。]
─ 実験室 ─
[眠りに落ちると言うより、徐々に天国の階段をのぼって行くようなダーヴィッドの様子に、沈黙していた。
自分が伝えた意思を。腕の中で落ちる途中、ダーヴィッドが彼に伝えようとした言葉を。ぐるぐると考える。選択を迷う。
当たり前の事だが、自分自身の命は一つしかなかった。
瞬きの回数が多くなり、金の巻き毛は蛍光灯に反射してキラキラ光り、自分では邪魔に感じられる。]
ダーヴィッド?
何かが、起きて──いる。
[そう言いたいのか。実験室まで音は響いていなかったが、時間が無い事は理解していた。]
[2階、階段を下りれば、すぐにオトフリートの姿があるだろう。それでも、足の悪いノーラにそこまで無理はいえなかった]
先生、温かい言葉を、ありがとう。
[いつも、温かかった、その手のぬくもりを忘れないように]
−屋上−
[風が強い]
[嵐の前の静けさ]
[なんだろう]
[胸騒ぎ]
[鋼鉄の羽根を見上げる]
[四枚羽]
[かしゃん]
[ファインダーを覗く]
[写真を撮る]
[風に、煽られて]
[ライヒアルトのノーラへの返事に、唇がほころぶ。
ライヒアルトと手を繋いでイレーネの傍、ただ黙っている。
すん、と鼻をすする。涙があふれる。
休憩室を立ち去る時、振り返る。傍にある石像と化した人達、ここにいない人達にも向けて最後の言葉を。]
忘れないから。さよなら。
[そして、ライヒアルトを見上げてから前を見て、屋上へ向かって歩き出す。誰もたどり着いてないなら、実験室へ寄って声をかける。]
>>214
[ぼんやりとした表情だろうか。少し眠ったおかげか、さっきより少し、いい。
そして、
何かが、の何かがわかったので、それをヘルムートに伝える。]
…ここは、崩壊するそうです……。
タイムリミットは30分…。もう、だいぶたったから、残り、少ないでしょう。
[大変なことを言っているのに、いまいち、実感がない。]
[ハインリヒへ向けたのは視線だけ。
想う言葉は胸の内だけに秘めて―――
少女が向かった先は、あの人の場所で]
……エーリッヒ
[ありがとう、なんて言葉では言い表せない。
欠けていたものを沢山くれた。]
星が巡り…
私達を導いてくれるなら
また、会えるわ。
[貰った思いを込めて、まだぎこちないけれど
表情を緩めて少しだけ笑みを浮かべて見上げた。]
[左はもう]
[背骨を蝕む痛み]
[五指のうち三指が欠けた]
[親指と人差し指だけが残る]
[一瞬の判断]
[砕けた指を踏んで破砕する]
[圧砕]
[足をゆっくりとどかせば]
[指の破片は風に消えた]
[蛇――いばらの間に、這う蛇は
危機を察知してのことだろうか。
実験室の前。
――ピューリトゥーイ。
過ぎる言葉――静かに声をかけた]
……ミスター・エルーラー
……ダーヴィッド
其処にいるのでしょう。
この城は、崩れる。
もうまもなくですわ。
―― いきたいのなら 、…屋上へいらして。
[立ち去り際。
空いているほうの手で、ぽふり、とイレーネの頭を撫でた。
彼女がまだ、石と化す前に。
半ば無意識の内に、これをやっていたのは、多分。
『彼女』と少し似ていたから]
……じゃあ、な。
[短い言葉。
天鵞絨はふ、と階下への階段の方へと移ろう。
そこに至るには、時間が足りないが。
リディに向けて、同じ言葉を心の奥で落として]
さて、行くか。
[歩き出す。
先へ、進むために]
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