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[涙を流し抑揚のない声で呟き続けるマイコに、僅かに目を逸らしたが]
……そうやって現実から逃げてると、死んだ人間が浮かばれない
…………わかってるんでしょ、もうその子、ワタルだっけか、が目を覚まさないこと
[マイコの目を見据え、そう言い放つ]
……始まった……始まったら……。
……止める?
[小さく呟いて、空へ向けて手をかざす]
……もう……『閉ざされてる』、のか……。
[確かめるような呟きに応えるが如く、その周囲に風が舞う。
風はさながら付き従うように、ごく自然にそこにあった]
[携帯が、手から滑り落ちた。]
オレ、
………行って、来る。
[声には、力はなくて。
けれど足は、地を蹴って。
駆け出す。
きっと、体育館にいる。
自分の携帯は壊れていて。
練習に夢中で、気づかないだけだ。
遠くから聞こえる声。啼き声。無き、声。]
[一度、その目が離れて
再び向いたときに、口唇が最後の名前を呟いた。
涙はもう止まらずに。]
ど、して…………?
[小さな声は耳に届くだろうか。]
なん、で……?
なんで、なんで、なんで……?
[ぎゅうと、その抉れた背を抱きしめる。
深い、ふかい、きずあと。
なにも、ない。
あぁと小さく口唇が動いた瞬間――その手のおもみが、まぼろしのように消えた]
だからっ……。
何を言ってるんだよ、俺っ……。
[翳した手を握り締め、それでベランダの手すりを殴りつける。
風が、案ずるように揺らいだ。
その感触に、気が鎮まるのを感じつつ]
わけ……わかんない……けど。
やらなきゃ……ならない……?
[確かめるように、呟く]
それが……『役目』?
[共用スペースにいる人の気配にも、その入り口に立つ少女にすら気づかない様子で。
通路を通り、何時ものように靴を履いて。
腕には亡骸を抱えたままで。]
[相変わらず滴りおちるあかが自分のシャツを染めても、一向に気にも止めないで。]
[夢じゃない、と自分の声で呟いても、やはり現実感は戻らず、駆け出すショウを呆然としたまま、見送って、再び、緋に染まった男に視線を戻す]
………先生………
[答えは返らないと判っていて、そう、呼び、ゆっくりと近付く]
[目の前の光景に唖然とする。なんせさっきまでいたはずのワタルが跡形もなく消えたのだから]
…………何これ。消えた? これってどういう原理
[理解不能でぽかーん]
[辿り着いた先、体育館には、灯りが点っていた。
―――けれど、音は、 無かった。
ここの扉は、少し、開き難くて。
何処を叩けば直ぐに開くのか。
後輩に教えたのは、自分だった。
それなのに、今は、どうやればいいのか想い出せなくて、
何度かガタガタと鳴らした後、両手で無理矢理に開けた。]
[鼻を突く、臭い。
昼にスケさんと、プールの塩素臭さは嫌だなんて話をしたっけ。
ああ、違う、それとは、違う臭いで、
視界を彩る、緋色。
そう、夏なのに桜が咲いたんだ、とても綺麗な薄紅色をしていて。
ああ、違う、それとは、違う彩りで、
何処からか、転がって来たボールが、足に当たった。
べっとりと、赤い手形がついていた。]
……どこ?
あ、れ?なに?どこ?
[あかを吸っていた服も元の白をとりもどし、
体にかかっていた重みはもうなく
起き上がって、立ち上がる]
どこ?
どこいったの……?
[きょろきょろとあたりを見回して――その端にあかをみつけて、扉へと走りよる。
視界の先には亘はいなかった。]
[だが、その身体に触れる前に、緋色の華は、白く閃く固まりとなって]
………な?!
[風が、白い花弁を舞い上げる。ざわざわざわ、と桜が嬉しげに揺れた]
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