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[最初は昨日のクローディアの血の匂いが残っているのかと思ったが。違う。これはあの匂いではない。もっと微かで、とろりと濃くて、そして獣のような――
その匂いは同じ階の。――奥の客室から?]
[ディーノの話しかける声に構わず、ぱっと弾かれたように1階客室、ノブの部屋へ走る。]
[軋む階段の音に視線を向ければ、シャロンが2階から降りてくるのが見えて]
こんばんはシャロン。
…大丈夫?
[彼女はクローディアと懇意にしていたはずだ。昨日、あんなことが起こって気落ちしているのではないか。そんな考えが浮かんで、遠慮がちに訊ねてみた]
[匂いは微弱。きっといつもならパトラッシュだって嗅ぎ逃してしまうような、嗅いだとしても気にもとめないぐらいの。
けれど今は昨日と同じ感覚が。突き刺さる。厭な予感。
ノブの部屋、閉ざされた扉の前に立つと、勢い良く吠え立てた。ドアノブを前足で回そうと立ち上がる。]
[食堂には、他にも何人かチラホラいて、その中の一人、ディーノに声をかけられ、シャロンはゆっくりと微笑んだ]
こんばんわ、ディーノ。
ええ。
もう大丈夫よ。
クローディアから、形見の品も受け継ぎましたからね。
うふふ。
[そう言えば。とシャロンが気づいた。
最初見たときは男性にしか思えなかったけど、改めてこう面と向かい合ってみると、女性にも見えた。
格好、喋り方、態度。それらは男性で。
声、顔、体つき。それらは女性]
(まあ、どうでもいいわ)
[と、シャロンは思考を締めくくった]
[ディーノとの話が終わるか、終わらないかというときに、ディーノは立ち上がり、どこかに駆け出していった。
何事かと、視線を向けてみると、その終着場所は一つの部屋で。
その前で、しきりにパトラッシュが吼えていた]
・・・?
[シャロンは、訳も分からずその光景を眺めた]
[追いかけて辿り着いたのは1階にある客室。誰か使ってたっけ?などと考えるも、今気になるのはパトラッシュの異変]
ここに、何かあるの?
[扉を開けようとしているパトラッシュを見て、代わりにドアノブに手をかける。
がちゃ。
恐る恐る、その扉を開けて行き]
やぁ、いらっしゃい♪
ただ、次からは、もうちょっと優しいノックをしてくれると嬉しいかもだよー?
にゃははははは。
[唇に乾いた血の跡、腕の中にはぐったりとしたリディア]
…誤解しないでね?
[扉が開くか開かないかのうちに中に滑り込む。
外から判っていた気配は2つ。
ノブと、そして何故かリディア。
車輪のついた奇妙な椅子に座るノブ。
抱きかかえられるようにして、彼の膝の上で目を閉じるリディア。
暢気に喋るノブに向けて、グルル、と警戒の唸り声を発した。]
ノブに…リディア?
これ…どういう…。
[目の前に広がる光景に目を丸くし。しばしの逡巡の後に部屋の中へと足を踏み入れる。2人に近付き、ノブの腕の中でぐったりしているリディアに声をかける]
…リディア?
ねぇ、リディア大丈夫?
─浴室─
[軽く湯を浴びて、絡みつくような汗の感触を拭い去る。
華奢な左の肩には、歪に引き裂かれたような痕が浮かび、そこだけ異様な様相を織り成すだろうか]
……落ち着かない……。
[ぽつり、呟く。
身体はさっぱりとしたものの、何か、引っかかるような心地がして。
でも、それが何か、確かめるのは怖いような気がしていた]
[ディーノの声に]
[目を瞬かせて]
リディちゃんが、どうかしたの?
そこはノブの部屋でしょ。
[ノブの声は]
[部屋の外にまで届いた]
……え?
……なんなんだろ……さっきの目眩と、関係あるの……かな?
[呟いて、用意してきた着替えに身を包む。
髪は濡れたままだけど、仕方ないか、と呟いて、浴室から出て]
……? なに?
[廊下に出て、ふと感じたのは、どこか張り詰めたような空気]
死ん、で…。
ううん、殺したって、何でそんなこと…!
[顔が驚愕の表情に歪む。しゃがんだ状態、ノブを見上げる形で問い詰めるように]
……今……なんて?
[微かに聞こえたのは、誰の声か。
そして何を言っているのか。
その意味を、確かめたいような、確かめたくないような。
そんな思いに揺れながら、ゆっくりと、そちらへ足を向ける]
……ぅ……。
[微かにまた、目眩を感じるものの、それは押さえ込んで]
〔宿のベッドは清潔で気持ちよかった。そのおかげか、目が覚めたのは外が暑くなり始める手前だった〕
〔宿屋の主人に鍵を返す〕
ありがとよ。
…はは、心配いらねぇよ。俺みたいなおっさん襲ってもしょうがねえだろうから。
じゃ、また夕飯食いにくるから残しておいてくれよな。
〔広場を通り、雑貨屋の前を通る。大繁盛で忙しそうにしているフランの姿に安心する〕
〔俺も俺のなすべきことをしよう、そう思い、自分の工房に向かった〕
リディアが人狼…?
理由としては、正当かも知れないけど、その証拠は…?
[眉間に皺を寄せ、ノブを見つめる]
彼女が人狼だって証拠は、どこに?
……え?
[目眩を堪えつつ、たどり着いた部屋の前。
そこから聞こえてきた言葉。
それは、困惑を呼び起こすに十分なもので]
リディア……が?
[掠れた呟きが、零れ落ちる]
[ノブが、リディアを、殺した。
ああそうだ、実に簡単明白な事実だ。
問題は。どちらが敵で、どちらが味方か?
ニンマリ顔のノブの視線を真正面から受け止め。
唸り声は止めず。]
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