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[ ――黒百合の少女は頚を横に振る。
それを確かめた、ブリジットは
ふ、っ と
風に髪を揺らし 花びらが舞い散るように
その場に斃れこむと
白い花を胸元に咲かせて
*眼を閉じた*]
……お前が、何のために作られたのかは、知らんが。
[語りかけながら、端末に触れる。
プログラム的な操作は、石と化した少女の方が得意だろうに、と思いながら]
……とめさせてもらう。
先へ、進むために。
……とまった時間を、進めるために……。
[手を動かしてゆく。
知る限りを駆使しての、強制終了操作。
いくつかの抵抗を抜けて。
要求されたパスワードに、しばし、思い悩み。
打ち込む単語は、思いつきの導いたもの。
『Rosa multiflora』]
『旅立つ者に───清浄なる茨の王《ピューリトゥーイ》の祝福を』
[ひとつ][ふたつ]
[ほんのりと輝いて消えていく][幻想種達]
『失われた片方の翼』
[緩やかになった上昇気流に乗って]
『今は、安息の場所へ飛び立つための───翼であり風』
[───わらって]
『ありがとう』
[風は消える*]
[連れて行く、という声。寂しいと思った]
アーベルさんのこと、忘れない。
カ、インさんのことも。
[足はノーラのほうへ。たどり着くと、その身体を支えた]
[風が示す道筋を見た。]
カインが
アーベルを、
連れて行けるのなら、良い。
[随分と重くなった足は、示された道へと一歩進む。
──吹き抜ける風に、黄金の髪が乱れた。]
[不意にカインを見つめ、口の中でだけ、言った。
アーベルとカインの事も忘れないから、と。
カインが消えればライヒアルトの手を見てにこにこしている。]
[ “ありがとう”
そう聞こえたのは、 きっと
幻聴でも、 まぼろしでも なかった。
いばらは咲く。――咲いて、舞い散る。
身体が重い。
重いけれど、でも。
――薄く開いた霞がかった眼に 滲んだのは涙]
[胸に白い花を咲かせて倒れたブリジットの身体を抱え上げる。
ベアトリーチェとノーラが、寄り添いながら前に進む姿を横目に、随分と遅くなった足取りで、ライヒアルト達が居る方へと──。]
[打ち込んだのは、野茨を示す、学名。
直後、感じたのは、風の流れ]
……ん。
[いろを失わぬ天鵞絨は、消えゆくものたちを捉える。
じゃあな、と。
小さな呟きを、心の奥に、落とした]
[再度、向き直るのはモニター。
パスワードは、受け入れられていた。
終了の是非を問う、表示。
選ぶのは──終わりを、ねむりを、導く選択肢。
流れてゆく文字の連なり──それは、やがて、消えて。
銀なるものは。
その動きを、止めた]
……止まった。か。
[空白を経て、零れたのは、小さな呟き]
笑ってるのね。よかった。
よかった、のかな。
[涙がこぼれる。又いなくなってしまったと、思い]
ノーラさん、もう少しで、きっと治るから。
エーリッヒさんも、笑ってるかな。
[身体が浮いた感覚があった。
ぼんやりと、眼を開く。呼びかける声があった。]
……―― 、 ―ッ…、…
[頷き返そうとして咳き込み押さえる手のひらに
花びらと棘が落ちた。それがおさまれば、
手を握り締め小さく頷いて]
…… ――大事 ないの よ
[はたり、と 落ちる。
落ちる、落ちる 落ちる涙。
深く俯けば亜麻色の髪に隠れて見えないだろう。
眼を閉じて、流れるに任せる。
声を殺して、
しずかに。
静かに。]
…えぇ。
[ベアトリーチェの零れ落ちる涙を
そっと掌で拭ってあげようと手を伸ばす。]
きっと、良かったのよ。
[静かに諭すような声色で]
エーリッヒは…
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