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[大きな影が、目の前に。
銀色の獣との間に]
――ごめんなさい。
[二つの意味を込めて謝罪の言葉を紡ぐ]
もっと早く気付いていれば。
ちゃんと、話せたかもしれないのに。
一緒に、頑張ろ…!
[衝撃。言葉が途切れた]
ぁあん?喰うだと…できなかったんじゃねえの?
[酷く殺気だつ銀狼を前にしても、飄々と、いや、むしろ、挑発するような物言いをしながら
ドゥンケルの前に立ち塞がり、床に刺さった剣を抜く]
にしてもブリジットの姿からこんなんになるとはなぁ。御伽噺とかいって馬鹿にできんな…とはいえ、そういうのは、俺の国にもあったんだから…ま、不思議でもねえか
教会の…
[この「システム」は教会が作ったものだから]
だけど、わたくしは何も知りません。
わたくしも利用された、と言うことになるのでしょうかね…。
生きてもらうつもりだった、というのは…
誰のことですか?
うん。そうだね。
[立場は違っても、同じだった]
殺したんなら、生きなよ。
……生きてよ。
死ぬなんて、赦してやらない。
僕だって、もう、人殺しだ。
何も、変わらない。
何が、違うっていうのさ。
[自らに潜む狂気に負けて、一つの命を奪った。
どう言いつくろったところで、それは変わらない、真実だ]
そうでしょうねえ。
というより、あの上の人たち、シスターはご存知ないでしょう?
[苦笑する]
法王って奴です。
正確にいえばその周辺ですかねぇ。あのあたりが勝手にやってるのかもしれませんね。
ああ、生きてもらうというのは。
人狼の二人にですよ。
場が完成されないまま、人狼としての血の定めを知らぬまま、ずっと生きてもらうつもりだったんです。
もう大分昔のものですから、変質しているかもしれないと思いまして。
その記録をとりたかったんですけど…
悪趣味なのに邪魔されて、今こんな状況ってわけでしょうね。
近いデスね。せっかく体、痛そうだっていうから丁度いいなぁとか思ってたのに。
旦那、なかなか寝てくれねぇからさ。
かわりに美人な奥さん喰っちまった。
嗚呼…おいしかった。
[その声は明るく。][彼女の中に住まういくつものコエ。][壊れたように。][紡ぎ続けて。]
くす、くす…あははははは…………。
あはははははははあはあああああああああああああああああああああああ!!!!!
[小さな笑いは高らかとした咆哮となり。][集会場を振るわせる。]
[咆哮は周囲に狼をも呼び寄せただろうか。]
[集会所に戻ると、...は先程と同じく正面ではなく裏口から建物の中へと戻った]
ふぅ……。
後は兄上が来るのを待っている間に、これ以上の犠牲者が出ないようにするだけですか。
[そう考えて、顎に手を当てる。
と、言っても、そうなった場合に該当しそうな人は、マテウスくらいしか想像つかなかった]
マテウスさんに、今後の事について相談しましょう。
[そう思い立つや、マテウスを探して集会所を歩き始めた]
作られたものであったのは確かですけど、
人狼だって、何もなければただの人なんですよ?
[シスターに言う]
こうやって場の完成があると、人を喰らってしまうだけ。
そう設定されているんです。
たとえ誰でも。
肉親でも
恋人でも
そして双子だとしても。
血は固まっている可能性もあるから、兄弟だって人狼かもしれないわけです。
食べたくなくても、食べなければならない。
そうでなければ死んでしまいたくなるほど、苦しむ。
…知らなければ毎日が幸せでいられましたのにねぇ。
[集会所を歩き始めてすぐに、建物を震わせるような激しい高笑いを耳にし、...は驚いて身をちぢ込ませながら両耳を塞いだ]
な、何だ?
[...はそう呟いてから、笑い声のほうへと歩を進めていく]
……だから、言ってんだろ?
そのために、生きるために。
俺は、逆らってんだ、って。
[掠めるのは、苦笑]
かわんない……か。
ああ……。
[それならいいな、と。
言おうとした言葉が途切れ]
………………ブリス?
[代わりに零れたのは、この場にいない、少女の名前]
……そうか…ま、よかったじゃねえの?
俺よりは確実に旨いんだろうからな
[くすくすと笑うのに対してこちらも獰猛な笑みを浮かべた
そして、咆哮を挙げるドゥンケル
それを前にして懐の中のコインを真上に弾き、結果を見ることもなく斬りかかる]
…法王……そんな。
[クレメンスの口から出た名前に、一瞬絶句する]
[だけど、続く話にまた別の驚を]
……二人?ブリジットのほかに、もう一人?
二人のため、ではなく、あなたのために、ですか?
実験のために……。
そのために生きていて欲しい、と。
あなたは、自分の事だけで動いているのですか?
人狼に、なんの感情も持たずに、実験のために……
[マテウスの剣をひらと避ける。][狼の身体能力は人のそれを凌駕し。]
頑張る?何を?
頑張ったって、何も変わらない。
兄も、奴も、あの風…ヴィントも。
抗っても駄目だった。
血には逆らえん。事実は変わらない。
薬師の一族が義理立てして、脈々と保ち続けていた血族のその最後のツケを払わされた!
それが、我等。
だから、あそぼ?
[言って狼はマテウスへと飛び掛かり、その肩を爪で切り裂いて。]
知らなければ…
[思い出していた、古の月の少女]
[場の内にありながら人を喰らうことなく逃げ延びた、人狼]
もう、手遅れですか?
ここにいるという二人は…。
ま、あそこらへんに関わってしまったんですよねぇ。
というより、あそこらへんじゃないとその研究が出来なかったんですかね。
[シスターの思うことが手に取るようにわかった]
[苦笑して]
ええ、二人ですよ。
二人とも、食べたくはなかったでしょうにね…
[痛ましそうな顔をして]
おや、彼らのためでもありますよ。
誰だって死にたくはないでしょう?
他人をたくさん殺した人も、死ぬ間際は死にたくないと言うんです。
彼らが平穏無事に生きていたら、彼らもうれしく、俺も嬉しい。
それでいいじゃないですか。
……おまいは、本気で俺をなんだと……。
[ため息をついたのは、一瞬。
ふるり、と首が左右に振られ]
……コエが。
届いてない……?
緋色のなかに、あいつらが、いない……。
[あいつら、が、誰を意味するか。
他者には知る由もないとは気づかぬままに、呟く]
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