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[無言の視線に息を詰まらせる。自分についてを明かすかどうかはまだ迷っている。明かすも明かさないもそれなりにメリットとデメリットを併せ持ち、最初は明かさぬことを選んだ。いつ明かすかのタイミングを、迷っていた。明かすことで疑う範囲を狭めることは出来るだろうから]
[ライヒアルトにそんな視線を向けられて居ても、それ以上を口にすることは無かった。何かしら問われれば、それについて答えはしたかも知れないが。
ライヒアルトの視線が自分から逸らされると、カウンターの下を見るようにして小さく息を吐く。再び顔を上げるとアーベルがタロットについて訊ねて来た]
ああ、構わんぜ。
[短く返し、その動向を見やる]
あぁ、そんなコトも言ってたな。
手紙を見に、わざわざ……か。
[返った問いに、後半は半ば独り言のように、けれども視線は逸れず。
暫しの間は学者と同じく沈黙したまま、二つの視線を向けて]
ん、おぅ。
[アーベルが来たことで、漸く意識はそちらに逸れた]
[フーゴーの様子に気が付いているのか居ないのか、
まだヴェルトが傍にいたなら、学者は指先で喉元を撫で]
…――?
[アーベルが何をするのだろうかと、
フーゴから完全に其方に意識を向け、その動向を窺う。]
[ぶち猫に先導されるように、廊下を進む。
ここ数日では、比較的マシな足取り。
酒場の入り口、先日崩れた場所に来た所で、一瞬足が止まる]
…………。
[突然の事を訝るように、足を止めたぶち猫がにぃ? と鳴く]
ん。
大丈夫。
[それに答えるように、小さく呟いて。
ゆっくり、酒場に足を踏み入れた]
[微かな息の音は聞こえたか、ちらと横目を向けはしたが、特に何か問うことはしなかった]
なんだ、何かおっ始めんのか?
[代わりに問いはアーベルへと向くか。
クロエが来たのに気がつけば、軽く片手だけを挙げた]
―酒場―
ありがとう。
[ケースを取り上げ、空いているテーブルに移動する。
カードを取り出した後、涙型の真珠を一粒横に置く]
…俺にも、出来る。
[低く呟くと、昨夜と同じように鮮やかな手付きでカードを捌き始めた]
―宿―
[しかしクロエがどの部屋にいるのかしらなかったから、一旦フーゴーに確認しに行こうと、酒場に戻る。
と、前を行く後姿に気づき]
クロエ。
[軽く傍へと寄りながら、声をかける。]
―酒場―
――Ich verfolge die Wahrheit.
[真剣な顔でカードを並べてゆく。
十二段を数える枚数を並べた後、中央付近の一枚を捲った。
そこには法衣を纏った人物が現れる]
教皇、正位置。
[睨んだまましばらく悩むよに動きが止まる。
それから手を伸ばし、一番上に置いたカードも捲った]
聖杯の王。
[唇を引き結んだまま、ケースの横に手を伸ばす。
表にされた教皇の札の上に乗せるが、特に何も変わったようには見えなかった]
[酒場に入りぐるり、と見回す。
ウェンデルが手を振るのに、軽く、手を振り返して。
アーベルがカードを捌く様子に、きょとり、と瞬いた直後、背後から声がかけられた]
あ……ゲルダ。
[振り返り、認めたのは幼馴染の姿]
ごめん、ね。
心配かけちゃって。
[ヴェルトはライヒアルトに喉元を撫でられ、ぐるる、と喉奥で鳴く。一通り撫でられればばさりと羽ばたき、止まり木へ戻って行くことだろう]
おぅ、クロエ。
ちゃんと休めたか?
[視線を一度アーベルからクロエへと転じ、訊ねかける。その後ろからゲルダの姿も見えたか]
[クロエへ訊ねかけた後に視線は再びアーベルへと。一連の所作が終わるのを待ち、安堵の笑みを浮かべる様子を見てから口を開いた]
……アーベル、”何”を占った?
[それは先日と同じような問い。意味合いは、別のものを含んでいたが]
あ、うん。
ちゃんと、眠れたよ。
だから、大丈夫。
[フーゴーの声に、そちらを見やり、こくりと頷く]
旦那にも、ごめんね。
なんか、物凄く、営業妨害しちゃった気分。
[冗談めいた口調で返した後。
フーゴーがアーベルと向けた問いに、軽く、首を傾げた]
[酒場に足を踏み入れた時には、何やらアーベルがタロットに向かっていて。
誰に声をかける様子も見せずにそれを見つめていた]
[無表情のまま、近くのカウンターに腰をおろし。
誰かに気がついて声をかけられれば手をあげて答えた。
目線はそらさぬまま]
―酒場―
[クロエの後からフーゴーが見えれば軽く手を上げて。
こちらを振り向いたクロエにほっとしたような笑みを向ける。]
んや、無事ならよかった。
[ぽんと肩をたたき、ごそごそとポケットを探る。]
クロエ、お守りあげる。
これもってたら一回ぐらいは身を守ってくれるかもしれない。
[ポケットから取り出したのは銀糸で全てを縫われた小さな袋。
中にはこれまた銀糸でペンタクルが描かれた一般的なお守りだった。]
―酒場―
[何かを押さえ込むように、左手で口元を覆う。
何度か深呼吸を繰り返してから手を離す。
クロエとゲルダの声が聞こえて、笑みを取り戻した]
…ああ。
親父さんをじゃないよ。
[そこに”何”をと問われ、反射的に返した。
”誰”とは言われなかったのに。小さく舌打ちする]
[いつの間にかヴェルトは止まり木へ戻ったようだ。
アーベルが何かを占い終えた結果が出ると、
チュチュンっと名もなき小鳥が鳥籠の中で一つ囀った。
ゆるりと動いた視線はクロエを捕え、
傾ぐ首は、言葉なしに大丈夫そうか?と問う。
そして、視界にユリアンが入れば]
そろそろ今晩はで間違いないでしょうかね。
ユリアンさん。
[律儀に挨拶は欠かさなかった。
そして、視線はゆるりと「フーゴーでない」と云った、
アーベルへと戻される。]
無事、って、大げさだなぁ、もぉ。
ちょっと、いろいろに驚いて滅入ってただけなんに。
[ほっとしたような笑みと共に向けられた言葉に、返すのはこんな言葉。
自身の力について知られているとは、未だ知らぬが故に]
……お守り……って。
いいの?
こんなときだし、自分で持ってた方がいいんじゃない?
[取り出されたそれに、一つ瞬きつつ。
つい、こんな言葉を返すのは、幼馴染を案ずるが故に]
[無言のユリアンや、見えたならゲルダにも片手を挙げるのみで挨拶をし]
……占い?
[フーゴーの声をなぞるように呟き、再びアーベルを見た。
問いの答えに、僅かに目が細まる]
そうか…大丈夫なら、それで良い。
営業妨害とかは気にするな。
元より客はほとんど来てねぇ。
[団長からの説明があった時から客足は遠退いている。今ここに来るのはもはや『容疑者』と定められた者達だけとなっていた。
クロエへそう返した後、アーベルからの返答を聞いて小さく息を吐いた]
そうかい……。
[自分では無い、そう言われて漏らしたのはその一言。続いて問うか悩み、しばしの沈黙が落ちる。カウンターに来たユリアンに気付いては居たが、考えながらのために声をかけることは無かった]
[当人の意識が、今は幼馴染に向いていたから……というわけでもないのだろうけれど。
首を傾げるライヒアルトには、そちらに気づいたぶち猫がにぃあ、と一声鳴いて答える。
落ち着いたよな声の響きは、肯定の意思を帯びて響くか]
[視線はアーベルの方に向いていたが、
ぶち猫の鳴き声には、ツィンだけに分かるだろう、
生物学者は微かな唇の端の微笑みを返した。
――まるで、分かったという風に。]
だって……自警団長発見して倒れたって聞いたから……
[年下の幼馴染に大袈裟じゃない、と首を振り。
力については無闇に口にするつもりはもともとないから、お互い意思の疎通などできるはずもなかった。]
ん、いいの。
あたしよりクロエに持っててほしいし。
[あたしは大丈夫だから、と笑ってみせる。
なかなか受け取ろうとしなくても、クロエの手に押し付けるように手渡した。]
……ん。
そ、か。
[客は来ていない、というフーゴーの言葉に、小さく呟く。
この状況では、それも無理ないか、と。
そう思うと小さなため息が零れた。
恐らく、店の方も余り変わらないのだろう。
それはそれで、母の身体的な負担は軽いのだろうけれど]
[一方、笑みを返されたぶち猫は、意を察したかのように一度尾を振った]
うん、まあ、そだけど……。
[それにしたって、と呟く]
ん、もう。
カヤもゲルダも、ホントに、過保護だよぉ。
ウチ、そんなに頼りないかなぁ……確かに、一番下だけどさぁ。
[やや大げさなため息を交えて言うものの。
笑いながらお守りを手渡されると、しばし、銀の刺繍を見つめ]
ん……ありがと、ね。
[両手でそれをぎゅ、と握り締めつつ、微かに笑んで見せた]
そ。折角道具があるならと思い立ちまして?
本職のようにはできないけど。
[カードの上に乗せていた真珠を懐へと仕舞いながら、ウェンデルの視線を感じて言った]
やっぱ疲れるわ。
親父さん、何か一杯くれ。
[広げていたカードも纏めてケースへと戻し。
手元というには遠い場所へと置き直した]
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