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─村の通り─
[悪くなった顔色を隠すようにやや俯き気味に、自宅へ戻る道を行く。]
ただ見てるだけしか出来ない……。
[反芻するように呟いて。]
……ちゃんと聞いておけばよかったな。母さんか、せめてお婆ちゃんに。
[周期のことも死神のことも、自分は何も知らなかった。
一度だけ、まだ母が健在だった時、『死神』という単語をどこかで耳に入れ、それを母に尋ねたら、泣かれてしまって。それ以上を尋ねる事は出来なかった。
それから何となくその言葉を避けてしまい。
そのうち父のように母も病で亡くなり、祖母に引き取られてあの店を継いで。
その祖母も死んで。]
…ああ、そういう事だったんだ。
[後悔しないようにという忠告は、こういう事だったんだと。今になって思い知る。]
─エーリッヒ宅─
[とてとて、といつもよりもゆっくりとしたペースで歩き、案内されたテーブルへ。
椅子に座り、何気なく見回すと作業場の様子が見えた]
……リィにいも、忙しいのかな?
[小さな声で呟いた所に、香草茶が出され、問いが向けられる]
んー、色の相談、じゃなくて。
……色染め、お願いできなくなるかもなんだ。
まだ、わかんないんだけど……糸紡ぎは、しばらくお休みしないとならないから。
―ギュンター宅―
[自らに向けられている視線にも気付かず見つめていた“それ”から、漸く視線が外れたのは、ユリアンの声が耳に届いた時。
けれど言葉は掛けられずに、彼が出ていくまで静かに見ていた。
不要となった薬に視線を落とすと、無意識に握りしめていた所為でくしゃくしゃになっていた]
……無駄足か。
[最近は調子がいいと笑っていた長の顔が浮かび、また手に力が籠った]
─ギュンターの家―
[イレーネが落ち着つくまでは、
同盟相手から兄を取り上げる気はなく]
…あ。
[ただ、出て行くユリアンに、はた。と気づいたように声をあげて、たっ、と、外に行く背中を追った。]
─自宅─
あれ、そうなんだ?
んー、そっか。
それじゃあ仕方ないな。
[香草茶を一口啜ったところで、告げられた言葉に軽く目を見開いた]
俺は構わないよ。
それじゃあまた目途がついたら教えてくれな。
[いつも通りの笑み、いつも通りの言葉。まるで平時を過ごすような、そんな態]
でも糸紡ぎの仕事をお休みって、何かあったのかい?
─道―
…ユリアン!
[おの背中に追いつけるなら、名前を呼んで、]
名前!
[端的に、用件を呼ぶように叫び]
緑湖茸と──、美人髪と。
どっちがいいと思う。
[先の発言には触れず、ギュンターのことにも触れず、
見上げて口にするのは、頼まれ事の名づけの話。]
─エーリッヒ宅─
ほんとは、楽しみにしてたんだよ。
糸が変わるの見るの、楽しいから。
[それは偽りない気持ちだから、素直に告げて。
休みの理由を問われると、僅かに俯いた]
……糸紡ぎより先に、ね。
じいちゃとの約束、果たしたいんだ。
勿忘草の壁掛け、作るの。
ディが、まだ、ディでいられる内に。
[視線は香草茶の小さな水面に落として。
小さな声で、ぽつぽつ、と理由を告げた]
―ギュンター宅前―
[ギュンター宅を後にして、すぐにミハエルがこちらに駆け寄ってくる。
立ち止まり追いつくのを待って]
ああ、きのこの。
早いな、ミハエル。
[すぐに何のことかはわかり頷いて]
その二つなら、
[一つの名前に一人の人物が思い浮かび、わずかに困ったような顔を見せただろうか]
両方、今はもらっておく、どっちもいい名前だから。
早めには、決めておくよ。
―ギュンター宅―
[出て行ったユリアンを追う足音を背中で聞いて、
それから首を傾けて、兄妹を見た]
……行くか?
[端的な問い。
視線を向けられていたことは知らず、表情は常通りに見えただろうか]
─自宅─
あはは、そっか。
俺の仕事で楽しんでもらえるのは嬉しいかな。
[言われた言葉には素直に喜んで。俯く様子には僅かに笑みを消した]
じっさまとの約束?
…勿忘草の壁掛け、か…。
[自分が自分で居られるうちに。その言葉に軽く眉を顰める]
───そうだね。
今のうちにやれることをやっておかないとな。
いつどうなるか分からないんだし。
[その言葉で何が起きているのかに気付いていると言うのは伝わるだろうか。顰めた眉根を消し、ゆっくりと香草茶に口を付けた]
─道―
[とん。と追いついて、ユリアンに並ぶ。]
ユリアンが言ったんだろう。
折角、頼まれたもの。
果たせなくなると、悔やみそうだからな。
[急いだ理由を告げて、苦笑するように笑う。]
───。
[僅かなユリアンの表情の変化に、目を細めて]
─エーリッヒ宅─
……うん。
じいちゃは、消えちゃったけど、約束は約束だから。
[下を向いていたから、エーリッヒの表情の変化には気づけない、けれど。
告げられた言葉から、『周期』の事は知っているんだな、というのは感じ取れて]
そだ、ね。
一番やりたい事は、きっと、難しいから。
今、やりたい事はちゃんとやるんだ。
……うん。
ユリアンが、決めてくれるといい。
急がなくてもいいのだよ。
ちゃんと。
伝えられただけでも、ボクとしては、満足だ。
[ふふ。と、笑って]
──…、ありがとう。
[感謝の言葉を、短く付け加えた。]
そうだな。
[そっとミハエルの頭に手を伸ばし、避けられなければその頭を撫でて]
もし、決まる前に何かあったら、前者で頼む。
ありがとう、ミハエル。
─自宅─
──…じっさまが?
そっか、じっさま、消えちまったのか……。
依頼、果たせず終いになっちまったな。
[ギュンターが消えたと言うことは初耳だったため、最初は驚いた。けれど驚きはそこまでで、声は軽く残念そうなものが載るのみだった]
今を大事に、後悔しないように。
…で、一番やりたいことって?
[神妙に言葉を紡いだが、次いで出た声は興味ありげな平時のものへと変わり。興味を引いた話題に、軽く首を傾げながら訊ねた]
―回想:村の通り―
[微笑む様子に、こちらもまた笑顔を返した。]
んー、そういう心配はしなくても大丈夫だよ。
僕は誰が来ても、仕事中は気付かないから。
[真剣に言った。]
え、何。いいの?
それはすごい嬉しいなぁ。
美味しかったし。
[心底楽しみだという顔で言って、別れたのだった。]
─ギュン爺の家─
[肩を抱く兄の穏やかな声に、声を出せばともすればそのまま泣いてしまいそうだったのでただ頷くだけで返事をして。
ゼルはこちらの視線に気付いていないようで、けれど何もないはずの一点を見つめるその様子に声をかけることが出来ず。
ユリアンの声に気付いた後、ようやく視線を外した彼に話しかけようとしたが、手に持っていたものに視線を落とす様に、また何も言えなくなってしまって。
どう声をかけたらいいだろうと悩む間もなく、こちらを向いたゼルの表情はすでにいつもと変わらない様子になっていた。
行くか、と問われてもすぐに声が出ず。
一拍ほど置いた後、頷いた。]
…うん、行く。
兄さん、あたしゼルに薬頼んでたんだ。
これ、ゲルダのパン持って先に準備しててくれる?
向こうで食べてって、準備してくれたの。
─道―
[ぽん。と手がおかれて、視線が少し俯く>>391。]
…わかった。
[もし。と続く言葉に、ぐ。と横に下ろした手を握る。]
─エーリッヒ宅─
……うん、消えちゃったんだ、って。
リィにいも、じいちゃに何か、頼まれてたの?
[依頼、という言葉に視線を上げて、不思議そうに問うも束の間]
ふにっ……。
[投げかけられた問いに、上擦った声を上げた]
え、と、えと、それは……。
お……教えないんだ、よっ!
[どうしようか、と悩んだ果てに返した答えは声がひっくり返っていた]
─ギュン爺の家─
[もう一つの包みの中身は、まだ完成していなかったから。
手元から手放したくなくて、ゲルダからもらったパンの包みだけを兄に渡した。
胸元で結ばれたスカーフを軽く握るようにして、お願い、と微笑みを作った。]
―自宅―
[それからは何も気にせず自宅へと戻り、せめてキッチンだけでも片付けようかと、
久しぶりの運動を開始するのだった。
が、ふと首を捻り、背の方を眺め見る。
服の下に何があるかは見えないが、首を元に戻すと、とりあえず食器類だけはまとめるのに専念するのであった。]
――ん。
こんなもんか。
よしよし。これで水くらいは出せる。
[真剣ながら内容の程度はかなり低い。]
―道―
ミハエルの悔いが一つでも減るならそれに越したことは無い。
[頭を撫でていた手を引っ込め]
ウェンに伝えてくる、長老のこと。
エーリには、ミハエルにお願いした方がはやそうか。
[引っ込めた、その手を振り]
少しだけ、妹がいる二人が羨ましくもあるな。
じゃあ、また。
[最後にそんな言葉を残して、何もなければそのままウェンの家に向かうだろう]
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