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[言い終えて、
目の前のブリジットの様子がおかしいことに気付き――
――悲鳴に戦慄する。]
ちょっと、待ってね。
[ティルに声をかけてから、ブリジットの元に急ぐ。]
どうしたんですか、ブリジットさん。
ブリジットさん!
[落ち着かせるように肩を抱く。]
[思わず上げた声。それと、そう遠くない場所で上がった叫びは重なったか。
声を聞きつけた自衛団が集まる怒号を聞きつつ、その場に膝を突く。
何があったかと、問いただす声は今は遠く]
……始まる……始まった。
[ただ、ぽつり、と。
そんな呟きが零れるのみ。
一方、自衛団の隊員の一部は診療所へと向かうか。
それは治療よりも、検死を求めているのだろうけれど]
うん。がんばろう。
諦めたらお仕舞い、だよね。
[ユーディッドの不安には気がつかずに、笑顔を向けていれば。
そこへブリジットの大きな叫び声が響き渡る]
ブリジット姉ちゃん!どうかしたの?大丈夫?!
[ユーディッドが駆け出すのについて、思わずそちらに向かい駆け出していた]
[やがて立ち上がり奥の部屋へ。
水音が響き、暫くすると戻ってきて薬の確認を始めた]
イザとなれば、誰か他の人にやってもらうしかありません。
とりあえず普通に使えば大丈夫そうなものを一覧にして…。
[カリカリとペンの音が響く]
[と、どこかでもうひとつ、叫ぶような声が聞こえた気がした。
それと共に、何かざわめきが、村の中を駆け抜けていくような。]
[ミリィの言葉には微かな困惑。
納得していないというよりは、どうしていいか分からず困っているという様子がみられたろうか。
悪意を背負うに事を思えば再び心は怯えを呼んだが。共にと言われた言葉に、抱きしめてくれた腕に、まずは戸惑い、だがすぐに嬉しそうに微笑んだ。]
うん、ありがとう、ミリィ。
…ありがとう。
[こちらからも手を背に回す。
常に熱は固く厚いものからしか与えられず。それを不満に思ったわけではなかったが。
親友の柔らかい体から伝わってくる、心地よい温かさが嬉しかった。]
…死ななければいいね、ううん、死なないように、頑張らないといけないんだね。
[ドンドンドンドン!
いきなり叩かれた扉にハッとして立ち上がる]
どうしました。
急変でも……
[扉を開けた向こうにいたのは、鉱夫達ではなく複数の自衛団員。
強張った表情と、有無を言わさぬ口調に顔が青褪める]
…分かりました。
鞄を取らせて下さい。
[睨みつける視線を背に受けながら、往診に使う鞄と上着を手に取った。急いで羽織ると、周囲を囲まれ促されるままに走る]
――!
[そこにあったのは、診断を下すまでもないであろう姿]
[叫び声が聞こえた気がした。
外がやけに騒がしい。]
…なにかあったのかしら?
ちょっと様子、みてくるね。
[止める姉に小さく首を振って、外へと。
風に乗ってくる微かな赤い薫りに、咽喉の奥が苦い。]
…や。
[足が竦むのは本能的なものだろうか。
口元を押さえた手も、身体を支える膝も震えていて。
それでも、何が起こったのかを見極めたいと路地へ。]
……どうして、だ。どうして。
ずっと……は。……なかった、のに。 また!
どうして。何故。滅亡、――黒き影!
[呻きのような呟きのような言葉に、時折叫びが混じる。幾分荒い呼吸をしながら肩を抱くユーディットと、奥のティルとを見、一時沈黙し]
……。
駄目だ。行かないと。祈らねば。
折れた塔を。落ちた星を。蓋は崩れ、……
行かねば。呼ぶだろう。何故か。
聞こえるからだ。
[断片的に言ってゆらと耳元から手を離し、腕で払うようにしてユーディットから離れる。おぼつかない足取りで歩き始め、数歩行ったところで走り出す。
広場と離れた場所――本来村の出入り口である、その付近へと]
[呆然としていた時間はどれほどのものか。
立ち上がり、場所を開ける──というか、開けさせられた。
まだどこか、ふらつくような感覚があるのは、立ち込める臭いと熱気のせいだろうか、などと考えつつ、脇に退いて]
……は。
冗談じゃ、ねぇ、よ。
[零れ落ちたのは、掠れた声]
…ねぇ、もしかして…
[慌しく駆け回る自警団の人々の中、膝を付いて座り込む幼馴染の姿。]
死んで…るの?
[狐に荒らされた鶏小屋を思わず思い浮かべた。
アレはまだ幼い頃のことだろうか。
けれど、そこでずたずたに引き裂かれた残骸は、鶏なんかじゃなく…人間。
人狼への危機を最も危惧していた人物。]
…ぅっ。
[こみ上げてくるものを押さえたって、ろくに何も口に出来ていないんじゃ出るものも無いのだけど。
震える膝は、何とか立っているのがやっとで。]
…あんな風に、されちゃうなんて……
[死を認識していくうちに、込み上げてくるのは恐怖。]
これ、は。
[息を飲み、だがすぐに頭を振って近くへと寄る。
自衛団員に促されて脇へと避けるエーリッヒをチラリと見てから]
…最初に脇から。
ついで首を。最後に改めて腹を、というところですか。
[傷口や出血の仕方を確かめながら、低く呟く。
翠は冷たく一つ一つを見つめ、手を紅に染めて確認してゆく]
首の傷など。どう見ても「食われて」いますね。
[酷く乾いた冷たい声で断じる]
ブリジットさん、落ち着いてください。
一体何が……
[間近で聞いている筈なのに、その口から発される言葉は、内容はまるで聞き取れず。困惑して聞き返そうとしたところで、腕を払われた。]
行く、って、どこへ。
[呆然と。置いていかれた形になって、その背中を見送る。
そこに、宿から出てきたノーラがふらふらと同じ方向――村の入り口――に向かう姿が見え。]
……ノーラ?
……どうしたんだろう。
[首をその方角に向ける。騒がしい。ざわめきが聞こえる。
ややして、後ろにいたティルを振り返った。]
ティル。私たちも、行こう。
[決然とした表情。声をかけて、二人の後を追う。]
ブリジット姉ちゃん、どうしたのさ。
[様子のおかしいブリジットに困惑しながらも。
駆け出していく姿を、追いかけて駆けていく。
程なくして、凄惨な光景を見ることに*なるのだろう*]
[耳に届く、聞きなれた声には、とそちらを振り返る]
……って、ノーラ!
大丈夫かよ、おい!
[大丈夫なはずはない、とわかっていても。
そう、声をかけずにはおれず。
近づいて、震える身体を支えようと手を伸ばし]
[イレーネの体を抱きしめながら、小さくイレーネに言葉を返す]
大丈夫……きっと、大丈夫だよ。
いつかまた、今までと同じ様に、何もなかった頃へ戻れるよ。
だって、私達は、幸せになれるんだから。
[思いを馳せるのは、あの日見た緑色の空。
幸せを呼ぶという空]
あの空に負けないようなすっごいの描くの。
ちゃんと、完成したら、真っ先に知らせてあげる。
だから、待ってて。
私の最初の作品パワーで、事件なんか解決するに決まってるわ。
[少しだけ涙をにじませながら、*幸せそうにミリィは笑った*]
っ。
[声に振り向けばそこには、震えるノーラの姿]
早く彼女を向こうへ!
この場を長く見せるんじゃない!!
[叱咤の声は自衛団員やエーリッヒに向けたもの]
[そのうちにそこへと辿り着いた。自衛団員を含む人物らが集まり、小さな人垣を作り出している。場を満たすのは、様々な種類の負の気配と、血液の臭い]
……。
[ふらふらと。その中心へと近付いていく。制止の声があったとしても反応すらせずに。自衛団員を幾人か押し切るようにして]
[ティルを連れて、騒々しさの中心地に辿り着く。
自警団員たちが立ち塞がり、右往左往している中を、すみません、と声をかけ、ティルの手を繋いで抜けていく。近づくにつれ、かつて嗅ぎ慣れた匂いが鼻をついた。
だから、そこに何があるのか、予想できていなかったわけではない。
けれど実際それを目にした瞬間は、さすがに顔が蒼褪めた。]
ティル、見ちゃ駄目。
[首を伸ばす少年の目を手で覆い隠す。]
[叱咤の声に、知らずそれを見つめ続けていた視線をあげる。]
……先生。
[次いで、ノーラと、それを支えるエーリッヒの姿も目に入った。
そして、中心へ向かうブリジットの背中も。]
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