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― 個室D→広間 ―
[アマンダと一緒に部屋を出て。
足の運びがいつも通りにならないよう、気をつけながら広間に向かう途中。
リネン室から飛び出してきた影に、驚き立ち止まる]
……何、いまの?
[何が起きたのかわからないまま、呆然としていれば。
それを追う人々も、広間の方へと駆けていっただろうか]
―広間―
[ミハエルが姿を現したのは騒動の先か後か。
先だったとしても、何か問いかける間は残念ながらなかったけれど。
程なく部屋の外で起きた喧騒。>>5
足音が近づいて来たかと思えば広間の扉が開かれて、見慣れた、けれどここ最近姿を見なかった金髪の少年が駆け抜けていく]
!
ウェン、にーちゃん!
[誰の制止があったとしても、この時ばかりは聞かなかった。
追いかける者たちの更に後を追いかけて、建物の外へ]
─ 集会場 外 ─
[外に出たなら、再び小雪が舞い散る景色。
外気の冷たさに戸惑ったのか、歩みを止めたウェンデルに追いつき、肩を掴む]
……お前、今まで何をしていた。
何故、あの場所に隠れていた?
……皆と顔を合わせられない理由でもあるのか?
[問い正す声は、静かで冷たいもの。
返されたのは、どんな言葉か。
何れにせよ、感情の先行したそれは、理の通ったものとはなり難かったろうが]
……説明、できぬというならば。
お前の魂に、直接、問うか。
死を持って本質を見定める力持つ者の審議を受け、それを己が身の証とするがいい。
[淡々と紡ぎつつ、外套の下から取り出すのは、先の銀十字。
かちり、と言う小さな音と共に、不自然な継ぎ目から鞘が払われ、銀の十字架は本来の姿──それを模した短剣へと形を変える]
……お前が闇の眷属であるならば、この刃は裁きのものとなる。
例え、異なったとしても、先を憂える事はない。
光の加護を受けし者であれば、等しく、神の許に導かれる。
[紡ぐ言葉は、一方的な理屈。
けれど、それを口にする事に違和を感じる事はなく。
恐慌を滲ませ後退りするウェンデルの肩を左手で掴むと、躊躇う事無く、右手の刃をその胸に突き立てた]
[銀によって裂かれる傷から溢れるのは、命の紅。
それを見つめる天鵞絨は、静かなまま。
その様子は、一種、異様な様相を呈するか。
刺されたウェンデルの瞳にあるのは、恐怖か怒りか、それとも──絶望か。
その何れであっても天鵞絨は揺らがず。
最後の抵抗か、首筋にウェンデルの手が伸びてきた時も、動く事はしなかった。
伸ばされた手は、服の襟を掴み、僅かにそこ乱してから、力を失して崩れ落ちる。
それによって、顕になった首筋に浮かぶのは、艶やかな朱の茨の蔦。
首を取り巻くように浮かんだその先端は、左の肩と胸の狭間に達し。
そこに、大輪の花──朱花を咲かせていた]
…………。
[崩れ落ちたウェンデルを見つめる天鵞絨は、静かなまま、揺らぐ素振りもなく。
遅れて追ってきた茶猫が、その様子に不安げな声でにぃぃ、と鳴いた。*]
―集会場 外―
[最初は元気だった。でも、追いつこうにも、どんどん離されていく。
理由もわかる。――無理が祟ったのだ。もともと体調があんまりよくなかった上に朝から歩いたり、あまり食べていなかったりと踏んだり蹴ったりがそのまま体力の消耗に繋がってるのだ]
[おいついたときは、>>16 あまりにも一方的な宣告があった後だった]
[先ほど、ラーイの覚悟はきいた。聞いたが――その覚悟、というのは面と向かって化け物退治するような戦いであって、武器を持ってない誰かを×すものではないと思ってた]
おい、ラーイ! 早まるんじゃねー!
確保でいいじゃねーか! とりあえずは……!
やめろ、やめてく……げっほがっほ……
[無理に走りこんで、内臓がでんぐりがえりをしているかのような鈍痛。微かに嘔吐した。そんなのだから、リーチェがついてきて、見ていることに気付かない]
― 広間 ―
ウェンデルが?
[広間で足を緩めた伯父の説明を聞けば、驚いて。
ベアトリーチェが駆け出すのを見て、自分も駆け出そうとしたが、慣れない格好に裾を踏んで転びかけ。
自分は、とっさにティーポットを放り出してまで支えてくれたユーディットによって転ぶのを免れたのだが]
…だ、大丈夫ですか。ゼルギウスさん。
[駆けていった面々より、ゼルギウスが心配になった。
多分、親近感もある]
[一通り、吐くものなくなってから(もとより、胃にあんまり食べ物入ってない) 、すっぱい臭いをさせつつ立ち上がり……、ウェンデルの遺体の前で、屈む]
[事切れていた。
今もライヒアルトを見つめる目を、もう憎まなくてもいいのだと教えるように、そっと閉じさせた]
大丈夫か、ラーイ……、その、首。腫れてる?
つかまれたのか?
[あまりにも独特な蚯蚓腫れにも見えなくもない茨を見て、ぽつり]
― →集会場 外 ―
[追いかけたところで止められはしない。ベアトリーチェにもそれは分かっていたが。
制止の声>>14も転ぶ音>>19も聞こえないふりをして、飛び出した。
その脇をすり抜けて、タオは一足早く主人の元へと駆けて行く]
……はあ、……は、
[息を切らせながらそこへ辿り着いたのは、猫が鳴いた直後>>18のこと。
つまりは、何もかもが終わった後で。
見開かれたみどりいろに映り込んだものは――
それ以上は近づけずに、雪の上に座り込んだ]
……ウェン、にい、ちゃ……っ
[ベアトリーチェが見るのは、二度と動くことはないそればかり。
雪の上に落ちた色と似ているようで異なる、朱い色>>17には気付けなかった]
ふ、ぇ……っく、
[それすら滲む視界が邪魔をして見えなくなる。
拭っても拭っても頬は濡れる。
必死に唇を引き結んでも、嗚咽は止まらない]
─ 集会場 外 ─
[やって来たエーリッヒ>>23がウェンデルの目を閉じさせるのを、無言で見守り。
声をかけられると、数回、瞬いた]
……ああ、俺は、大丈夫。
[返す口調は淡々としていたが、声に冷たさはなく。
首、と指摘され、もう一度瞬いた]
いや、掴まれては、いない……けど。
[左手で、軽く、自分の首に触れる。
感じるのは、微かな熱。
視線をずらせば、目に入るのは、朱花一輪。
ああ、と。
わからなかった幾つかの事が、それで繋がった]
つまりは、これが。
俺がここに呼ばれた理由……というわけ、か。
う、 あ ――――………!
[やがて頬を拭うのも、我慢することも諦めたベアトリーチェは、声を張り上げて泣き出した。
きっと広間にまで届いただろう。
エーリッヒの声>>28は聞こえていたが自分で動く力はない。
誰かに手を引かれるなら抵抗する力もないが、疲れて意識を落とすまで、涙は止まらなかった**]
―集会場 外―
そっか。腫れてるんじゃねーのか、それ
じんましん?
[それが花のようには自分からはよくは見えなくてわからずで。
みるみるうちに血色をなくし、色彩をなくしていくウェンデルの顔を見下ろした。彼の妹分だったリーチェの嗚咽が物悲しい>>29]
……なぁ、ウェンデル、弔ってやんねーとな。
団長の横でいいかな。
人狼か人間かはわかんねーけれど、でも、大事な雪合戦仲間だったから。
[よろよろながらも立ち上がる。毎年冬は子供らを集めてはゲリラ戦して遊んでた。その中で、時々痛い雪玉だと思えばキャンディ入れて投げてきた、悪戯好きの少年。でも、もう彼と遊ぶことは二度とないのだ。
一日に二度の、永遠の別れに、体に何かがまとわりついて動けないようにも感じた。が、生きているからには、前にいかなくては。ラーイがそうしている、ように。]
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