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[殺されるわけではないのにと言うトビーの言葉は信じられなかった。其れは言葉の取り方の違いでもあり育った環境の信条の違いでも在った。
殺されると思い殺されなくても捕まりたくないと思った]
大丈夫。ええ。
ありがとうキャロルさん。
[そう言えたのは全てが終わって更に少し時間が経ってからだった。
少年は其れをどう見て居たのだろう。呆れて居ただろうか。何時かの様に自分とは違うものとして受け止めるだけだっただろうか]
[ラッセルの亡骸は自分の膝に横たえて、自分にささったナイフに手を添えたところでマンジローから自分の名前を呼ばれる]
……
[視線はそちらを向く。
悲しむでもなく、怯えるでもなく、痛みにわずかに顔はしかめていたかもしれない。
目元からはかすかに涙がこぼれていたかもしれない。]
マンジロウ…。
[全てが終わった後、遅れてきた来訪者に視線を向ける。だがどう説明すればいいのか。
そもそもの切欠は何だったか。
ヘンリエッタと、ラッセルが狼を言い当てて…それからヘンリエッタはラッセルに飛び掛り、ラッセルはそれを跳ね除け、シャーロットに襲い掛かって、それを庇ったが今度はシャーロットがラッセルに向かって…。
思考を纏めていたが、腕の痛みに眉が寄った。]
悪い、手当てを先にしたいから、状況は他の奴に聞いてくれ。
[短くそれだけ告げた。]
[やって来たマンジローには、軽く、視線を向ける。
彼が声をかけるトビーには、やや、睨むよな一瞥が向いた。
それでも、少年の態度は変わらぬか。
それが彼の幼いなりの人生観、価値観に基づくものであるのは理解しているが、今は感情での容認には至らない]
……よかった。
[それから、ヘンリエッタの返事にほっと安堵の息を漏らす]
……とりあえず、ここは殿方にお任せしましょう。
先に打った部分が痣になっているかも知れませんし、見ておいた方がいいでしょうから。
[できうる限りやわらかい笑みと共に、こんな言葉を投げかけた**]
[トビーの元に歩み寄ろうとして、ふとシャーロットと目が合う。だが彼女の瞳からは感情を読み取る事はできなかった。彼女を長く見ている事は耐えられず、すぐに視線を逸らす。
もしかしたら、その瞳にはかすかに涙が溢れていたかもしれない。だが、一種運の事ではそれを確認することはできなかった。]
我の事は構わぬよ、ハーヴェイ殿。
シャーロット殿を見てあげると良い。
[自分に気付いて話し掛けたハーヴェイにはそれだけ答えて、自分はトビーのほうと歩み寄った]
―二階廊下―
[青年の遺体を抱く少女が、こちらを見ていた。
唇が動くのが見えた。
沈黙の後、一度首を振り、顔を上げる。
真実が何れかは墓守には未だ分からないが、今は先にすべき仕事があった]
シャーロット様。
[名前を呼び、その傍で片膝をつく]
クラフ様を頂いても宜しいですか。
[彼の慕っていた雑貨屋も、未だ後ろに横たわったまま。
両腕を伸ばしながら、少女に尋ねた]
道具なら、使用人の部屋に。
[姿勢は変えないまま目を僅かに上げて、傍に立つ青年を見た。
常のような、静かな低音が問いに答える]
[マンジローがすぐに視線をそらし、自分の視線もユージーンの方に戻った。
ユージーンが首を振る様子に自分は何も返せず。]
……(こくり
[ユージーンの言葉にナイフから一度手を離し、
立ち上がり少し距離を置いた。ユージーンの邪魔にならないように。]
私は捕まりたくありません。
殺されない保証等無いではありませんか。
[深呼吸をしてトビーに言う]
貴方も信じられません。
星は見ておりませんが信じる事等出来ません。
近付かないで。
[正面から言えば彼は近付かないだろう。
マンジローと会話を始める様なら此方からも視線を切る]
キャロルさん。
此処から逃げる時も一緒に来て下さいませんか。お願い。
[手を握り懇願した]
はい。
[答えは如何だったか。
穏やかに提案されれば頷いて立ち上がる。
歩けない様な事は無かった]
失礼致します。
[トビーに向けなければマンジローにも向けられなかったかもしれない。ユージーンと視線が合えばその前に向けられた声を思い出して怯えを掠めさせたかもしれない。
何処か逃げる様にして其の場を*立ち去った*]
すまないな。
[そうマンジローに告げてから、ユージーンの言葉が届くと、ありがとうと返した。]
任せっきりですまない。
…行こうシャロ。
[考える事はいくらでもある。
だが今は彼女の怪我のない方の肩を抱き、使用人の部屋へと急ぎ向かっていった。]
ありがとうございます。
[離れる養女に頭を下げる。
その腕に刺さるナイフに触れようとしないのは、治癒の為の扱いを知らぬ故]
シャーロット様をお願いします。
レイさん。
[代わりに少女が慕う青年にそう言って、墓守は未だ温もりの残る死者を抱き上げる]
[ようやく周囲の様子に気づく余裕もできて、
ヘンリエッタ達とトビーが何かただならない雰囲気だったかもしれない。
何があったのか正確なことは知らない、けれどもヘンリエッタに害をなす存在だとは思った。
トビーの元にマンジローがよっていく。]
……(こくり
[ユージーンの礼の言葉には小さく頷く。
ハーヴェイに促されれば頷いて返し、素直にそのまま使用人の部屋へと連れて行かれる。]
―ラッセルの部屋の前→使用人の部屋―
[かけられた声に、少し遅れてああと頷いて返すのは、その名が普段呼びなれていないものだからか。
使用人の部屋に入ると、まずはシャーロットの肩口をきつく縛り、血の流れをおそめてから傷周りを消毒しナイフを抜いた。
かなり強引な手当てだったが、躊躇する事はない。
それから布を当て血止めをしてから、上を包帯でややきつめに巻いていき。
シャーロットの治療を終えた後、ほっとしたしたように]
………銀でなくて良かった。
[そう微笑みながら、*呟いた。*]
[実のところ、青年に触れるのはこれが初めてだった。
触れるのを厭うという話は使用人伝に聞かされていた為、自ら触れようとすることはなかったし、そもそも触れる理由も無かった]
[使用人の部屋へ去る二人を、何処か怯えたように視線を外す令嬢を静かな目で見送った後、墓守は開け放たれたままの扉の中に入って行った]
[トビーとともにキャロルとヘンリエッタが立ち去っていくのを眺め、軽く頭を下げる。去り際にトビーに向けられた、ヘンリエッタの言葉とキャロルの鋭い視線に、見送った後嘆息まじりに小さな声で話し掛ける]
童っぱ・・・。お主、彼女達に言ったでござるな、あの事を・・・
[それに対する返答は、いつもと同じく軽い調子であったろうか。これでおそらくトビーの依頼人から狙われる理由が増えたかとも考える。
だが、もとよりそれは覚悟の上だ。]
まぁ、過ぎた事を今更どうこう言ってもどうしようもあるまい。それに、どの道遠くに逃げるのであろう?
安心しろ。我が責任もって、必ず我の国まで送ってやろう。
[安心させるように力強く笑いかける。その言葉に、彼も笑みを返しただろうか]
―使用人の部屋―
[ハーヴェイの治療を受けながら消毒液にはわずかに顔をしかめて、
ナイフを抜かれるときには]
……んっ…
[痛みに微かな声を漏らす。
傷口を布でおさえられて血がある程度とまったところでその上に包帯を巻かれる。
少したった後に肩をきつく縛った布を解かれて]
…うん……(こくり
[ハーヴェイの銀じゃなくてという呟きには微かな声と頷きで答える。
微笑みかけられると、自分も微笑みを返す。]
……
[今度は自分がハーヴェイの右腕の傷の手当てをした。布を押し当ててぎゅっと止血をし包帯を巻く。
手当てが終わった後ハーヴェイに*微笑みかけた*]
―青年の部屋―
[先ずは青年を横たえ、廊下にあった雑貨屋の遺体を運び、その隣に並べた。
前の二人の時もそうしたようにシーツを剥がし、けれどすぐに被せることはしない]
申し訳ありません。
[謝罪に応えは無い。
頭を垂れ、暫くは動かなかった]
護るべきは、貴方だったかも知れないのに。
[意識が逸れた刹那、少年が告げた言葉は耳に残っている。
かの令嬢が、あの場で「笑って」いたと]
後程、訪ねてみましょうか。
[ゆっくりと頭を上げ、低音は呟く。
もう一度小さく頭を下げた後、並べた二人に一枚のシーツを被せる。
青年のいる左側が、長く放置されていた雑貨屋の方よりも早く染まって行く。
それを暫し眺めた後、深く礼をして、部屋の扉を*閉めた*]
―二階廊下―
[ユージーンはラッセルの亡骸を抱えて出て行き、ハーヴェイとシャーロットも手当のために下へと降りていった。トビーも皆がいなくなればまた広間へと戻っていくだろう]
・・・我も、部屋へ戻るといたそう。
[ただ1人その場に残されれば、忘れていた疲労感がたちどころに襲ってきた。もはや考える事も億劫になり、疲れた体を引きずるように自分の客室へと戻る。
ベッドに倒れこめば、泥のように*眠り込む事だろう*]
─2階・廊下─
[一緒に、という言葉。
女はひとつ瞬いた後、ゆる、と首を傾げ]
ええ。
エッタ様をお一人で放り出すような事はしませんわ。
[少年の言葉。
『連れ戻しに来る』。
それが望まれぬ事と感じたから、そうならぬよに、と。
それは、今の女にとってはごく自然な発想]
では、参りましょう?
墓守殿、申し訳ないけど、後はお願いするわ。
[去り際、墓守にはこんな言葉をかけ。
ひとまず、向かったのは自分の客間。
そこで、ヘンリエッタの背に打ち身の痕がないかを確かめたり、少女の気を紛らわせるために他愛ない物語を聞かせたりしている内に、大分時は過ぎていた]
……お茶をお持ちしましょうか。
あと、何か食べるものを。
あんな事の後で食欲はないかも知れませんけれど……何か、食べておきませんと。
[手伝う、といわれたなら、お疲れでしょうから、とやんわり遮って。
ひとり、部屋を出る。
廊下には、死者の姿も生者の姿もない。
静まり返った館内を、女はゆっくりと歩く]
さて……どこにいるかしら。
いつも通りなら、広間だろうけれど。
[小さく呟く。
ひとりで出てきたのは、少年に会うつもりだったから。
時間を置いたのは、自身の気を静め、冷静さを保つため。
少年が発した言葉。
その意を問わねばならない、という思いからの事だった]
[ヘンリエッタの抱える事情については、深くは知らぬ。
流浪の舞手が踏み込むべき領域ではない、と一線を引いていたが故に。
けれど]
……さすがに、この状況では、そうもいえないものね。
[少年が何をどこまで知っているのか。
それを、問いただしておきたかった。
彼は、何も知らぬと言っていたけれど。
追う者がいるというなら、その情報は得ておきたい。
話を聞き、その上で少年が己が目的を阻む要因となりうるならば取り除く事も視野に入れて]
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