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[それから、幾つか話をしただろうか。
己の体調を気遣う言葉や、もしかすれば昔の話もあったかも知れない]
絵筆?
…ええ、これがそうですけど。
[ふと何気なく問われ、少し怪訝な顔をしたが。
キャンバスの前のそれを示した]
[そして、ほんの少し目を離した時に。
絵筆は男の懐に隠された。
消えたそれに気がついたのは、男が絵を残してアトリエを去り、暫くしてからのこと]
[腕の動きを目で追うアーベルに、くすりと笑う。]
ん。アーベルが気にすることねぇよ。
[そして、アーベルの問いかけに、んーと顎に指を当てて少し考えるが]
……あくまで俺にはチカラのカタチが『見え』て『封じ』られるだけで、その封じの絵を誰が描いたかとか、何処から描いたかとかはわかんねぇんだわ。
役に立たんでわりーな。
―図書館の前―
[オトフリートのことを待ちながら
歌っていると、気分が良くなったか
どんどん声は高くなる。]
♪ネッスン ドローレ、
ヴォラレ ヴェルソ イルシェーロ、
ペル アンダレ リベロ
[怪訝な顔をして
前を通る人が、見ていく。]
ふーん。そんなもんなんか。
[いうからにはそうなのだろう。その仕組みなどは知らないまでもユリアンが嘘をつく理由はなく]
いや、役に立たないなんてこたーねえが…まずいな。
[そうして、オトフリートが現れる。
笑顔で手を振ると、その手に布で包まれたものをそっと、
渡された。]
これ…?
[彼は、微笑んで頭を撫でてくれたかもしれない。
彼女もにっこりと満面の笑みを浮かべ、]
ありがとう!
[お礼を言った。
少女はそれをぎゅっと胸元に抱きしめて、
自宅への道を駆け出した。
そして彼は、図書館へと入っただろうか?
背中に、蜜蝋を噛む音が聞こえた気がした。]
[少し考える。心を封じる絵。というのは絵の描くものの趣味趣向で構わないのだろうか。それとも一定の描きかたでもあるのだろうか。エーリッヒは穏やかな顔をしていたが]
ここで考えてても仕方ないな…で、動けるか?動けないんなら寝てろよ。ああ、それとリディはそこな。
新しい話は…特にでてきてないはず…診療所にずっといたからわからんけど
[早口でそんな説明をユリアンにして、立ち上がったところでふと、止まり]
…なぁ?もしもの話だが、ユリアンが絵筆を持っていってたやつだったとして、だったらどこかに隠すか?それとも離さずに持ってるか?
ん。まずいって?
[アーベルの言葉に首を傾げる。続いた言葉には]
んあ。……ん。大丈夫、動ける。
それに寝てるわけにはいかないしな。
リディは……ん。大丈夫そうか。
ってか、はえぇ。寝起きにそんな一気にまくし立てるように言うなよ。
[苦笑いを浮かべる。しかし、続く言葉にスッと目を細め]
ああ、もしもの話だけどな。
もし俺が筆を持っていたら、絶対に誰にも探されねぇ場所に隠す。
自分で持っていたら、探られればすぐに露呈しちまうしな。
なら、目が届かないところでも普通探されねぇ場所に置いとく。
……その方が、逃げて追われてても、時間の勝負だが少なくとも絵を描く時間が確保できる可能性があるし、な。
[忌憚のない自分の考え。]
―自宅―
[軽い足取りで家へと入ると
大きなキャンパスを広げその脇に、
受け取ったばかりの布に包まれた絵筆を、置く。]
あ、そうだ、言われてた事をやらないと。
やる事があるってすてき、素敵ね。
[言いながら、鼻歌を歌いながら。
鳥と魚の彫り物のある絵筆を鞄から取り出し、
絵を描いていく。
単眼鏡の部分には、水晶花の花びらをはりつけて
空の青には、綿毛の雲。
描いていて、ふと昨日の事を思い出して
一瞬ぴくりとしたけれど、
どうやら何もないようで、ほうと息を吐き。
司書の絵を、描き終えた。]
[がたん。
椅子の倒れる音]
…嘘、だ。
まさか。
[見開かれた瞳は揺れる。
そんな筈はないと、信じていたから、周囲を必死に探して。
本当にない――盗まれたのだと理解した時には、大分時間が経っていただろうか]
ああ、率直に言ってまずい。
ギュンターのおっちゃんやベアトリーチェが…二人は年取ってたり、幼いしな。
[直接的な意味は口にはせず手短にいって]
だからはえーのも許せ。
俺はお前のような血族でもなければまして絵師でもなんでもないから焦っちまうんだよ。なにすりゃいいのかとかな
[そしてユリアンの考えをゆっくりと咀嚼するように聞いて]
そっか…それなら。ってこともないが、リディが犯人の一人だった。だったらもう一人もある程度知ってるやつかね?とも思う…絵を描いたのは多分リディだろうし、渡すにしろ隠すにしろ。連絡取れないと無理だろうしな
[それだと俺ら怪しいけど。なんて内心苦笑して]
そっから絞って探せばなんとかなっかねーっと…いつのまにかミハエルも絵師になってっし
[物理的な頭数はそこから、など、それでいいのかどうかわからないが出来ることと考えた上でそう思ったのだが]
ユリアンは何か考え…あるか?
[向かった先は図書館。
いつも通りの挨拶も忘れて、戸口から中を見渡し。
やはり中には人がいて、驚いたような目で見て来るが、その中に目的の人物がいないと知れば、早足で中を進む。
そうして、書庫の扉を勢いよく開き]
……そういうことか。なるほど、確かにまじぃな。
[事情を把握して、チッと舌打ち。]
てか、俺だってそんな大したもんじゃねぇよ。
……リディの変化にも気づいてやれなかった間抜け野郎、だしな。
[自嘲気味に呟き。だが、気を取り直すと]
……しかしもう一人、か。
確かに連絡はとれねぇとかなると、未だ筆がみつからねぇ道理が通んねぇしな。
となると、限られてくる、か。
[ふむと思考に沈みかけるところでアーベルに問いかけられ]
ん? ……考えね。
…………いや。わりぃ。
[倒れ伏す男の姿。
一瞬、己が何をしにきたのかを忘れた]
…っ、
[慌てて傍へ。
程なく、それが絵筆で封じた者と同じ状態であると悟る]
…これは。
どういうこと、だろう。
[絵筆を盗めるとしたら、彼しかいない筈だった。
だかその彼は眠り。
困惑し、眉を寄せる]
ま、初めっから悠長にできるようなものでもなかったけどな
[単にこの中ではその二人が危険になるのが速いというだけ、いずれは]
そうはいってもなぁ。俺は不安になって体調崩したのやら喧嘩したのやらの世話するブリジットの手伝いばっかしてっしなぁ。すっげー裏方だ…仕方ねえけど
……言ってくれないもんはそうそうわかんねーよ。
[自嘲的にいうユリアンには、己への言い訳めいた慰めをぼそりといって]
リディが逃げたときからは誰かに渡すこともどっかに隠すこともできなかったろうし、リディを封じられてから、ミハエルは襲われたんだろ…こっから何かわかるのかわからんのかは考えながらいくか
[そう促しつつ、向かうのは診療所より出てアトリエの方向]
―自宅―
[それから、オトフリートから預かった布をゆっくり開いた。
鈍く光る、つがいの片割れ。
にこりと、これほど無い笑みを浮かべて、暫くみつめる。]
[思考が巡る。
リディが兄の絵を描いて、けれど絵筆は見つからず。
オトフリートが絵筆を持ち出して、けれどこうして封じられて]
じゃあ。
…誰か、別の人が?
[小さく、言葉を洩らし]
[床に散らばった綿毛を取り、布に居れ。
そうっと絵筆を2本、揃えて。]
これで、さみしくないわ?
つがいだもの、ね。
[笑いながら話しかけていたが、はたと思い出し、
鞄からエーリッヒから借りたままのハンカチを取り出して包む。]
これでもっと、寂しくないわ?
[嬉しそうに言うと、鞄へとそっと閉まった。
それから、描き終えた(といっても大した出来では無いのだけれど)絵を見て、首を傾げる。]
これで、良いのかしら?
そっか。…………ありがとな。
[ポツリと呟き]
ん。そだな、行動しねぇとわかるもんもわかんなくなっちまうしな。
[そう言って、アーベルとともにアトリエへ。]
[書庫から出て、館内にいた男性に倒れた司書を頼み。
誰かが彼と接触していなかったか、1人1人に尋ねる。
そうして得たのは]
…エルザ、さんが?
[1人の少女の名前]
まぁな。行動してわかるんなら俺としてはありがてぇ
[そしてブリジットに告げてから診療所を出てユリアンとともに真っ直ぐアトリエまで向かって]
―アトリエ―
[アトリエには見張りなのかなんなのか。そのものに止められ]
ミハエルに会いてえんだけど…あ?オトフリート先生が尋ねてきてその後しばらくしてから出た?どこに向かった?
…なんか変な様子だったって…
[そんなので黙って見送ったのかとばかりに睨みつけるが、そういってもはじまらないと、いった道を聞いて]
図書館…かね。やっぱ
[と言うかそれ以外該当するのが浮かばないが確認するようにいって同意が帰れば今度は図書館へと]
―自宅前―
[自宅の中、奥の扉を開き。
桃色の花の上にそっと、絵を置いた。
小脇に抱えられる程のサイズのキャンパスだが、
何処かに誰にも見られずに運ぶ自身が無かったから。
そうして、鞄に大事に絵筆を入れたまま、家を出る。
鍵もかけずに出るのは何時もの習慣。
誰かが家に入れば、綿毛を敷き詰められた床の向こう、
中庭へと通じる扉を開けば、
くらりとする程の良いとはあまり言えない芳香を放つ桃色の花の中、
まだ染料の乾かないキャンパスが見付かるだろう。
少女は、ゆっくりと自宅を離れて歩く。]
[図書館の前で楽しげに歌う彼女を、何人もが覚えていて。
何かを手渡していたようだ、という者もいて。
疑念は確信に変わる。
少女の自宅の場所を聞き出すと、即座に駆け出した]
[アーベルと連れ立ってアトリエにやってきたわけだが、]
んだよ使えねーな。
[アーベルが目で訴えてることをこっちは口に出して言ってみる。
行った道とアーベルの言葉には]
だな。…………つーことはまさか。
……とりあえず俺らも行くか。
[そう言って、図書館へと歩き出す。]
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