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[アーベルに手を握られながら、遠巻きに見える状況。
かけられた言葉]
どっちが…エーファを……
[少しばかり、声に感情がこもっただろうか。
それは、あまりいい方向の感情ではなかったけども。
手にはこちらも返すように少し力がこもっただろうか]
[離れていたが故に良く見える顛末。
飛び出したナターリエは逆にライヒアルトに押し退けられていて。
ライヒアルトがゼルギウスへと襲いかかったと同時に、ゼルギウスが隠し持っていたもう一つのナイフが煌めいたのが見えた]
っく!
[ライヒアルトの動き、ゼルギウスの動き。
その先に何が待つかは容易に想像が出来る。
だから、オレはゲルダがその凄惨な場面を直視しないように視界を塞ごうと身を動かした]
[大輪の華が咲さいた反対側。
煌めきは腕を振り抜いたライヒアルトの心臓へと吸い込まれる。
先に腹部にナイフを受けていたのもあってか、ライヒアルトに避ける余裕は無かったように見えた。
ゼルギウスとは対照的に散らす赤は少ない。
けれど、煌めきは確実にライヒアルトの生を奪っていた。
ライヒアルトの身体が後方へと倒れて行く]
…っは。
ぁ……。
[固唾を飲んでいた居たオレは、ブリジットの悲痛な叫びでようやく我に返ったのだった]
ぁ…あ、ぁ……
……ゼ、ル───…
[どれだけ名を呼んでも、返事なんて返ってこなくて。
それどころか、身体のぬくもりが、どんどん冷たくなっていって。
抱きしめる手は、力が徐々に抜けていき、横たわるゼルの身体に縋りつくような体勢になって。
胸元に顔を伏して、泣き崩れた。]
―二階廊下―
[動きの先になにがあるのかなんて、想像がつかないはずもない。
ただ、そちらを見ていたら、エルゼリートが影になった。
動くことはできなかった。だから見ることもなかった。
ブリジットの悲鳴が聞こえる。
ライヒアルトの死は見えていなくて、それでもただ、感じるのは、歓喜。
どちらかは、人狼だ。
人狼が殺された、死んだ。
今は痛みがない――笑みが浮かんで]
[事が終わり、主の悲痛な叫びが聞こえれば、群青は少し細まった。
フォルカーの手を引いて、こちらがわに引き寄せ後ろから肩を抱いて。]
フォルカー、ちょっとうちのお嬢の所に行ってくるヨ。
発作が起きたら困るからネ。
……人狼を、その目で見ておいで。
気が済んだら、他の人の事を見ててくれると嬉しいかナ。
シスターも気落ちするだろうしね。
でもエーファの事があるし、辛いようだったら部屋でエーファと一緒にいな?
[そう優しく囁いてから、体を離して、主の方へと向かった。]
[慌てて、自分の手でその口許を押さえた。
変わってゆく感覚。
嗚咽が聞こえても、それを悲しいと確かに思うはずだけれど。
どうしてか、そういう感情が、出てこない。
その事実に気付いてしまえば、目を伏せて、それからどうしようもなくなって、前に立つエルゼリートの服を掴んだ]
―二階・双子部屋前―
[手は握られたまま、かけられる言葉に逆らうつもりはなかった。
そもそもアーベルがいなければ自分はあの時死んでいたはずだし、感情で動いた結果迷惑をかけることにもなっていたのもあり]
うん……
[なにより、今の自分にとって頼れる相手は彼一人であったから。
自分の空虚になった心を、彼の言葉は満たしてくれるものを感じていた。それが、どんなものであれ]
行ってくる……
[血が飛び散るのは見えたが、それがどちらのものかはよく見えない。
背の低い自分は他の人の姿などに隠れてよく見えなかったから。
事がすべて終わったらしく、アーベルに促される言葉、それに従い歩みだす。
エーファのことが話題にあがり、より憎しみの思いは強まったかもしれない]
[しばらくは茫然と、倒れる二人やゼルギウスに縋るブリジットを見詰めていたけど。
服を掴まれる感覚>>14に、オレは我に返って後ろを見るように首を巡らせた]
ゲルダ…?
見ちまったのか?
[視界を遮るのは失敗したかと、不安げにオレは声をかける。
その時は既に口許を押さえていたから、笑っていたなんてことには気付かなかった]
[ブリジットの悲痛な声が聞こえる。
けれど眸はライヒアルトの姿を追い映る光景に凍りつくよう。
何よりも大事だった存在に刺さるナイフ]
……………ラーイ?
[その光景が信じられなくて不思議そうに名を呼んだ]
う、そ…………。
[倒れ行くライヒアルトに女は駆け寄ろうとする。
痛む左足が其れを縺れさせて転びそうになりながら
やっとのことで傍にゆけば彼の頬へと手を宛がうと
おとうとのあたたかさが其処から伝わった]
目を、あけて……。
ひとりに、しないで……。
[突き刺さる刃は致命傷であると知れるのに
彼の吐息が触れぬことを知れるのに其れを認めたくは無かった]
―二階・廊下―
[自分の動きに気付くものはいたかどうか、それぞれに死を悲しむ様子で近くに行くまでは気付かれなかったかもしれない。
二つの死体がよく見える位置に立つ。
ひとつは、昨日自分の治療をしてくれた人だったもの、首を鋭いもので切り裂かれていた。それを行った凶器らしき武器は傍にはない。
もうひとつは、教会の関係者の人だったもの、胸にナイフが突き刺さっている。
その目と爪は人ならざるものの形をとったままだっただろうか?
いずれにせよどちらが人狼だったかは明白に見えた]
ライヒアルトさんが、エーファを、殺した……?
[ぽつりと、呟いて落とす言葉、その死体をじっと見つめる目は冷たいものだった]
[見てないと首を横に振るゲルダ>>19に、オレは少しホッとした。
けれど、弱い声に心配の色は消えないでいる]
………うん。
二人とも、死んじゃった。
[オレの眉尻は下がり、声のトーンも落ちた。
ぽつり、呟くように告げて、オレの視線は倒れる二人へと向く。
ライヒアルトに駆け寄るナターリエの姿に翡翠を細めた]
[徐々に失われてゆくぬくもりが知りたくない現実を伝える。
頬を撫でるようにすれば首筋へとその手が触れて]
――…ラーイまで、私を、おいてく。
[脈打たぬ其れを認めポツと零した言葉。
何も考えたくない。
壊れかけたこころは哀しみに満ちているというのに
女に流れる血は見出した獣の死を悦ぶかのよう。
誰にも彼の事を告げられないと思ったから
彼を死なせたくないと思ったから
自らの命を差し出そうとしたのにそれは叶わず。
目の前で大事な者の命が失われる様を見詰める事しか出来なかった。
其の手が刃に傷つくことも厭わずにライヒアルトの胸に縋りつき
顔を埋め声を殺して泣いた]
― 二階廊下 ―
[返事をしないと言う>>21主には、ただ背を撫でるだけで。
確認するような言葉には、はっきりと]
ああ、そうだネ。
人狼に殺された。
[ライヒアルトとは呼ばずに、人狼と呼んだ。
変わってしまっていた金の瞳と、獣のように伸びた爪はそう呼ぶに相応しかったから。
今も、変わっているのだろうか。
ブリジットの表情を悼むように見ながらも、頭の一部は冷静に顔色やその翠に宿る光を探る。今の所は、大事ないように見えたが。]
お嬢、体の方は大丈夫?
もし少しでも悪くなりそうだったら、薬を先に飲むんだよ。
じゃないと、ゼルがきっと悲しむからネ。
[ゼルギウスを引き合いに出してそう告げて。]
[心配をかけてしまう。そう思っても、片手は口許から離せない。
知らずに笑みを作るのを、止めたいのに止められない。
少し経てば落ち着くだろうか。
そう思うからこそ、ただ、服を握って、視線を落として、耐える]
……そっか。
それじゃあ、もう、終わったかな?
人狼、は。
……人狼、に…殺され、た。
………ゼルに、言わないでいれば、良かった。
[アーベルの言葉を繰り返しながら、後悔が胸を埋める。
ライヒアルトのことを言わなければ、ゼルは彼を殺そうとしなかっただろう。
そうしていれば、ゼルも殺されることはなかったかも、しれないのに。
自分の言葉が、彼を死に追いやったと、そう思った。
ゼルが悲しむと言われれば、ふる、と力なく頭を振って。]
ううん、そんな資格、ない。
私が、ゼルを…死なせたんだもの。
[蒼花の言葉だけは辛うじて耳に届いた]
――…まだ、です。
ラーイが、教えてくれた。
彼以外にも、人狼が居ること。
だから、名乗り出てはダメ、って。
まだ……居る、の…?
[ナターリエが告げる言葉に、呆然と問うような声を落とした。
それはつまり、まだ、誰かが死ななければならないという事実を受け入れたくなくて。]
終わった……終わった、のかな。
[オレには判断出来なかったから、ゲルダ>>25には曖昧な答えしか返せなかった。
でも、ナターリエの言葉>>27を聞いて、オレは翡翠を丸くする]
まだ、居る?
……そうなんだ。
…でもナターリエ。
そうやって言うってことは、ライヒアルトが人狼だってこと、知ってたのか?
[丸くしたオレの翡翠は、怪訝の色を宿した]
[乱れた心が知らず双子の片割れの少女を見極めてしまう]
ヴィリーさんが人狼でないのは事実、です。
[ライヒアルトの口からは語られた結果。
けれどゼルギウスの口からは語られなかったそれ]
それから……、フォルカーさんも、牙を持たぬ、人。
…そっか。
[ナターリエをじっと見詰めた後、頷いた。
彼女の言葉は、ライヒアルトが人狼だと知っていたと言っているようなものだ。
そう思ったけれど、今はそれは些細なことだった。
人狼が死んだ、と分かったのだから]
わかった。
ありがとう、シスター。
……それじゃあ、他の人狼も
[言いかけた言葉は止めて、唇を引き結ぶ。
何を言えばいいのかわからなくなって、ただそのまま黙った]
― 二階廊下 ―
[先のやりとりと、ブリジットの弁から何となく何があったかは読めた。
それでなくても、長年の付き合いから、ブリジットの思考は読み取りやすい。]
言わなかったら、ゼルだけじゃなくて、お嬢も、俺も他の皆も死んでたかもネ。
お嬢はどっちがよかった?
[残酷にも思える問いをかけた。だが事実でもあり。]
口を噤む事は簡単だネ。
だけど、黙って何もしなかったら、きっと余計に後悔したヨ。
お嬢だけじゃない、ゼルギウスがね。
死ぬ可能性はみんなに有ったんだから。
お嬢がゼルを殺したって事は、無いね。
…っていうか、ほら。
あんまそういう事言ってると、ほんとにゼルの奴が心配するヨ?
患者には目敏く気を使いすぎるくらい使ってたでしょ?
向こうは向こうで、自分の所為でお嬢が泣く、ってへこんでるよ、きっとネ。
[それでも気の済むまで泣き止むまでは、背中を撫でた。]
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