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代価? それは…?
[エーリッヒの言葉に、首を傾げる。
しかし回答は他からあった。]
魂?
そうなの。これが?
…それでも、だから?
とても、綺麗で。
[再び見て、ほぅ、とため息。]
[きゅ。
次第に見つめている内に震えてきて…ソレを抑えようと自分自身を抱きしめるかの様に腕を回す。
そして、オトフリートの声に、ようやくオルゴールから目を離すことが出来]
…魂…を、対価に…?
[…何か嫌な予感がする。
部屋を出る前に感じていたのはコレのことだったのだろうか…
もう一度、オルゴールを見ると恐怖で目を離せなくなってしまいそうで…敢えて見ないようにオトフリートの方を向いた]
[――魂。]
・・・・っ
[その言葉を聞いた瞬間、前髪の下の双眸が僅かに見開かれた。]
[ほんの一瞬のことだったが、それが普段と正反対の色に染まるのに気付いた者はいるだろうか。]
[オルゴールを見つめながら、執事とエーリッヒの会話を耳で追う。
これにまつわる曰くが真実であるならば。
執事が言うように、魂を対価とするならば]
……鳴らしてはならぬ、か。
確かにの。
だからこそ、今まで人前に出さなかったのであろうしの。
[そう呟き、オルゴールを見つめたままいつしか*深く物思いに沈んでいく*]
[もったいぶった口上の後、取り払われるビロウド。
現れた銀の輝きや煌く金緑石、静謐な空気がその場を満たす]
マァァ…見事ですことォ…
[けれど、女はオルゴールではなく、それに魅入る皆の様子を睫毛の影で値踏みするように見やる。
否、薄明りの中、女と同じ色の金緑石にだけは反応したか]
昔、昔の物語。
[ぽつり、と。
呟かれるそれは、独り言めいた語り]
何よりも歌を愛した一人の歌姫。
彼女は自らの死に際し、ある魔の者と契り。
自身の魂を対価に、ずっと慈しんできたオルゴールに魔法をかけて、自身の歌を閉じ込めた……。
それ以来、このオルゴールは、歌う事無く。
ただ、魂を供された時のみ、その音色を響かせる……。
魂を……なー………
[オトフリートが言ったのは、冗談か本当か。いまいち判断しづらかったものの、傍らにいる、ギュンターの困ったような笑みを見て…そして今までの言葉と繋ぎ合わせると。
それはきっと、後者のほうだと容易に予想ができて]
そりゃ燃費が悪い
[そんな軽口をたたかずには入れない気分だった。]
[――冗談です。
少女に視線を返した執事の口から、その言葉は紡がれず。
研究家の青年が語る声ばかりが、静謐な空間に響く。
ふ、と目を細めると、白のテーブルから離れ、
ポケットチーフから取り出したハンケチを滴を零す侍女に渡す。
そして別の召使いに彼女を下がらせるようにとも言いつけるも、
その場から動こうとはしなかったかもしれない。
けれど執事は、それ以上彼女に関心は向けずに]
魂が。
それでも、それより。
このままで十分、これは、すごいわ。
[エーリッヒの呟きが耳に届いて、彼女はそう言う。]
大切に。
しまわれていたのね。
大切に、おもわれていたのね。
…音がなくとも、これだけで十分だわ。
これだけで。
全く、その通りですね。
[聞こえた軽口に返す言葉も、軽い。
浮かべられた笑みは変わらない――ように見えたか。
本当にそうなのかは、執事自身にしかわからないだろう]
…
[エーリッヒから聞こえてくる、独白のような声に瞳を揺らし…]
…物語…じゃ、無い、のかな…
本当に、あったら…怖い、ね。
[…どうしても、魂が対価、と言われると…少女には恐ろしく思えるらしい。
小さく呟くと、あはは、と苦笑めいた笑いを一つ。
…暫くして、視線を落とした]
……と、まあ。
それが、俺が、ずっと追いかけてきた伝承の一つ。
[一通り、語り終えれば口調はいつものものへと戻り]
事の真偽はわからないが、さすがに確かめる訳にはいかないからね。
……しかし、現物を見ると。
ただの御伽噺じゃないと思えるな……この……何とも表し難い、雰囲気は。
でも
[数人が、オルゴールから目を離す中。...はもう一度オルゴールを見る。
確かに、綺麗だと感じる。惹きつけられるのもわかるが、それだけではないと感じたのは
そこなのか。とも思うが、それはなんとなく違うような気がした。
オルゴールを鳴らすための燃料。稼動するためのシステム。などというものが、果たして、見た雰囲気に加わるものなのか。
燃料は音色に直接関わると思われるが……
そこに、エーリッヒの呟く声が静かなる空間に強調するように響き。
なにかわかったような気がした]
[オルゴールに再び視線を移す。銀の仄かな光に向ける、いつも通りの蒼い眸に浮かぶは恐れか畏れか。]
・・・・魂、が。
[呟く小さな声は何処か、震えていたかも*知れない。*]
[小さく零した息は、感嘆の…観念の吐息と聞こえただろうか]
…これほどの物であれば、さぞかし…でしょうにネェ。
なんとも勿体ない話ですわァ。
それとも…天にも昇る心地だと言い表しているのかしらァ?
[ごく小さな囁きは、傍に居る者の耳にしか届かなかっただろう]
だね。鑑賞するだけならいいのだろうけど。
さすがにそこまでして聞きたくもない
[それがどれだけ綺麗な音色でも。魂を喰らって放つ音色などおぞましいことこの上ない。と気持ちの上で付け加えつつ、オトフリートの浮かべた笑みは当然...もわからない。]
……それでも、こうして見れたのは、良かったかな。
形や意匠……その辺りの詳細は、見ないとどうしてもわからないからね。
[呟く表情はいつしか、研究家としての彼のそれへと変わり]
御大、毎度の事だけど、少しメモ取らせてもらうよ?
……ああ、わかってる。
手は触れないから、御心配なく?
[にこり、と笑いつつ、どこからともなく取り出したペンとノートで、オルゴールの外見的特長を書き出して行く。
それらが一段落すれば、魅入られたように銀の煌めきを見つめ。
それでも、お開きの合図を聞けば、*真っ先にそこを離れようとするだろうか*]
そうは致しましても。
折角皆様方にお越し頂いたのに、
お聴かせ出来ずに申し訳ございません。
[代わって陳謝する執事に、主は苦笑を浮かべようか。
招待したのは他ならぬ自分なのだから、と。
言っても、執事は聞きはしないだろうが]
[白の卓上、銀のオルゴールは静かに*佇んでいた*]
[またオルゴールを見つめる。
それは危険に魅入られるものではなく、冷静なものの眼差し。
オルゴールの伝承を聞いた...は最初からの疑問の答えがわかった気がした。
今なら言葉にできる。
オルゴールを見た。それは確かに魅力的だとは思う。
そして魅力的なものを見ると、それに触発されて自分も何か作りたい衝動に駆られるのだが…このオルゴールからはそれがなかった。
もう一つ。魅力を感じながらもなぜか怖れも抱いたのは、きっと、こめられている歌姫とやらの念が純粋だったから。
その逸話が本当かどうかは知らないが、中身は純粋だ。
純粋なものは確かに惹かれるが、なんのまじりけもないのはむしろ怖くも感じる。混じりけないものなど、はたして存在するのかどうか。はっきりいって異物だ。
そう、見るだけ。触れたくもないのだ。
きっと、それが...の感じた疑問なのだろう
そんな純粋なもの作れもしなければ、作りたくもない。そう...は思った]
…あの、すいません…
[俯きながら近くにいた侍女に声をかけ]
…気分が、優れなくなったので…部屋に、戻らせていただきますね…
ギュンターさんには、その…折角、見せていただいたのに、ゴメンナサイ、って…言っておいて、下さい…
[少女は自分の胸元に手を当て…視線は出口へと向いていた。
ふと、イレーネが震えていることに気付けば、一緒に部屋に戻らないかと肩を*揺すっていた*]
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