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―焔竜の部屋―
[独特の香りが広がる部屋に少しだけ戸惑いながら、示された椅子に浅く腰掛けた]
…もっと早くに決断しておくのでした。
まさか皆のいるその場で問われるとは思いませんでしたけれど。
[苦笑して、ローブの胸元を止めている鉤を、一つ二つと外す]
―回廊―
[ゆるりと、巡る。
しとしとという雨の音を聞きながら、まわりを見て。]
[ため息を吐くと、そっと廊下の、椅子に座り込んだ。]
[暗い闇が、ある。
それに隠れて自分の姿は見えなかっただろう。
食堂から、二人、出てくる人影が見えた。]
ん、ずっと寝てたし、色々調べると疲れるし腹減るからっ!
[ザムエルの言葉には頷きました、力いっぱい。
入れ違うよに出て行く二人には、不思議そうな視線を向けるものの。
ともあれ、精神竜の示す皿に、青の目がきらきらしたのは、誰の目にもはっきり見えたはず]
…エルザ?
[服のボタンを外していく様子に、なんとなく視線をそらす。
いやいやいや、そんなことは無いんだろうとは思うけれども。]
そうかそうか。
ならばたんと食うが良かろうて。
……カレーは残ってなかったんじゃったかの。
[エーリッヒが持ってきたので最後だったか、と首を傾げる。デザートに目を輝かせるティルを見て、飴玉袋をもう一つ用意すべきじゃったか、と思ったり]
[ 駆け寄ってくる翠樹の仔竜に、思い返すのは陽光の仔竜の姿か。
ほんの一時、翳る表情は仔の眼には映ったろうか。後に入って来た三者の声に顔を上げた頃には、露と失せてはいたが。]
―食堂―
いえ、私が勝手に持って来ただけですから。
また後ほど必要になってから盛られた方がいいですね。
[天聖の謝罪に首を振り、出て行くニ竜を眼鏡奥の紫紺が見送る。
そして機鋼の仔の嬉しげな声に視線を戻し、その心の動きに違和感を覚え眉を少し寄せた]
……エルザ殿を。
どうしてかはお聞きになっていますか?
[中から取り出すのは宝飾の施された首飾り。
中心には強い力を持つ真珠と土耳古石が抱かれている]
違和感の元はこれだと思います。
私が天聖の気を欠きそうになり頼ったせいで、流水の力もまた表に出てしまったのでしょう。
…もう、お分かりですよね。
我君よりお預かりしたものです。最初の異変が起きたときに。
誰が「干渉されて」いるか分からない現状、下手な場所で口に出すわけには参りませんでしたので。これまでお伝えすることが出来ませんでした。
[目の前の相手に関しては、口を滑らすかも、などという懸念がもう一人との間にあったなどいうのは、内緒である]
[食堂の空気がまだ判らなかったので
厨房を覗き、うすらとする茉莉花茶の香りに少し目を細める。]
お茶、いりますか?
[お茶の葉のポットを見たり、
他に食べるものがあるかと冷蔵庫を覗いたりする。]
え、カレー。
残ってないの?
[がーん、とか。
背後に書き文字浮かんだかも知れません、ええ]
甘いものは、入るとこ違うんだけどなあ……。
[それでも、確保はしっかりしてます]
……ところで、なんかあったの?
なんか、深刻な雰囲気だったっぽいけど……。
[言いつつ、視線はちらりと入り口の方へ。
問いたいのは、先の二人の事らしい]
――?
ノーラ、げんき、ない?
[翳りの差した表情を眼に捉えたかそれとも幼子特有の勘か。
仔は影へと困惑の色にも似た眼差しを向けた。]
あめ、たべる?
――おじいちゃんに、もらったの。
……、あ。
[おじいちゃん。と呟く様を見るに、漸く出歩きの目的を思い出したかの様であった。
一つに夢中となれば事を忘れ易いのは仔だからと言え、少々思いやられる。]
は?
[緊張のままにそう告げてから、相手の態度に気が付いた]
あ、ええと、その。
失礼を致しました。
[真っ赤になると慌てて胸元を掻き合わせた。
胸の半分ほどまで開きかけていたローブの中には、左手よりもずっと複雑な刻印があるのが垣間見えただろうか]
ですから、ええと、その。
[自分のせいだがちょっとパニック]
―― 食堂 ――
[続けての精神竜の問いに、もぐもぐとデザートを頬張っていた右手を止める]
時空竜のユーディットさんが居なくなったのに、安定し過ぎているのが気になるんだとか。
対ならぬ対…とはいえ、厳密には影響し合っているわけではないから、ダーヴの気にし過ぎじゃないかとは思うんですけど。
否定出来る、強い要素もないんですよねえ。
[はあ、と溜め息。困ったような顔はいくらか普段の様子に戻っていた]
…あぁ。
[そこに在るのは、断つものにして刃ならざるもの。
驚愕に見開かれた目は、次の瞬間には柔らかく笑みへと変わる。]
そっか、それを隠してて…
[ごめん、と洩れる呟き。]
取られる訳にも行かないし、かといって振るう訳にも行かないしな。
…大変だったろ?
あー、儂にも茶ぁくれぃ。
[厨房に向かうミリィの背中に声をかけた。一応、冷めかけた緑茶は飲み切っている。
ショックを受けているらしいティルに苦笑を漏らすと]
いや、儂は見ておらんからはきとは分らんがの。
大半はダーヴィッドに食われておる。
[この辺りはおそらく相手の予想の範疇ではあるだろうか。続いて訊ねられたことには]
ダーヴィッドがエルザを調べたいと言うたのじゃが…エルザはその前に個人的に話があると言うてな。
それで部屋に向かったのじゃろう。
[中の声など聞こえるはずもなく、
そのまま、いいかと放置する。]
[ぎしぎしあんあん聞こえてきたら嫌だったのもある。]
[人の中にいるのもいやで、そっとその場を離れた]
―→玄関―
だいじょうぶ。
[ 幼児の眼差しに影は緩やかに首を左右に振り、申し出には少し困ったように沈黙を落とす。しかし、不意に発された短い声に、首を傾いだ。]
……どうか、した?
[大きく深呼吸。そんな場合ではないと、響いてくる声に言われるまでも無く分かってはいるのだ]
いいえ。
私も誰を信じればよいのかで迷っておりましたから。
それも結局はダーヴィッド様に更なる負担を掛けることに…。
はい、そもこれは仮契約にすぎぬと剣からも伝えられています。
この力を使って何かをすることは適いません。
そして、万一にも…奪われるわけには参りません。
……いいえ。私も天聖が竜族の一員。
託された命には全力で努めるだけです。
[最後はフワリと微笑んだ。
幼い頃と同じ、だが成長して確りとしたものを得た表情を]
……あー……。
[火炎の竜の名に、意識が遠くに行ったのは瞬間。
精神竜の気遣いに、すぐに浮上したりするのは、外見相応にお子様反応。
実年齢には、逆行してはいるのだが]
ふぅん……。
天聖竜が揺らされてるとかなってたら、ある意味泣けるけど。
……時空竜に干渉できる、なんてのがいるんじゃ、そこも疑問なるのは、ある意味不思議ないかあ。
―東殿・翠樹の個室―
んんん……。
[随分と深く寝入ってしまっていたようで、身体の節々が軋む様に感じられた。
少し身体を動かすと、毛布がふさりと床に落ちた]
……あら。
[しゃっきりとしない寝ぼけ眼のまま、毛布を丁寧に畳んで行く。
一連の動作を行ったところで、翠樹の仔の姿が見えないのに気付いて]
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