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どうかしたかな。
[旅人が名前を書き終えた頃、女の人が戻ってきて眠っている人にブランケットを掛けていました。
それから首を傾げているのを見て、旅人もまた首を傾げました。]
[きぃ、きぃ
森の方からこうもりの鳴く声が聞こえます。
牧師は扉の隙間から、暗いお空を見上げます]
何でしょうか。胸騒ぎがしますね。
[扉を閉めてしばらくすると、教会の入口から大きな声が聞こえます]
今日は来客の多い日ですね。
……もしかしたら、狼さんでしょうか?
[ゆっくりと扉を開けると、そこには屈強な木こりの姿が見えました。
牧師は木こりの申し出を聞いて、たいそう喜びます]
これはこれは、ありがとうございます。
貴方に神様の祝福がありますように。
ああ、なんでもありませんわ。
こちらの方、知っている人かしら、と思ったもので。
[旅人の問いかけに、振り返ってにっこりと笑います。]
それより、女将さんがお出かけしているようなので、わたくしでよろしければお茶をご用意いたしますけど……。
そうか。
村人ではないのかな。
[旅人は一つうなずいて、あらためて眠っている人の顔を見ます。
それから、女の人がお茶をいれてくれるというので、]
それはありがたい。
ちょうど、喉が渇いていたんだ。
[そう言いながら、とんがりぼうしをカウンターに置きました。]
[牧師の言葉に、厳つい髭面が照れ臭そうに横を向きます。]
そんな礼を言われるほどじゃねえさ。
ホラントがまーた噂してたからな。
獣避けに薪はあっても困んねえだろ?
[噂が本当かはともかく狼でも十分怖い。
森に出入りする木こりはそう考えて言いました。]
村を離れて、色んな場所を回っているのですわ。
……見間違いでないのなら、以前よりもずっと綺麗になっていますけれど。
はい、かしこまりました。
少々お待ちくださいませ。
[楽しげに言いながら、キッチンへと向かいます。
お茶を淹れるのは大事なお仕事の一つでもありますから、準備はてきぱきと。]
勝手にしたお詫びは、後でお菓子を差し入れればいいかしら……?
[なんて呟きながら、ロビーへ戻るのです。]
大変に助かります。
獣避けにも、暖を取るにも。
ドミニクさんも、獣のお話、聞かれたのですね。
[牧師は薪の束を受け取りに行きます]
お礼に、中に入って何かお飲み物でも……。
[牧師はそう言ってから、生憎と紅茶を切らしていることに気がつきました。
ついでに明日の分のパンもありません。
くぅ、くぅとお腹の虫が鳴きました。
牧師は大層困って、苦笑いを浮かべるのでした]
なるほど。
たしかに、きれいな人だ。
[納得したというように、旅人はうなずきます。]
ありがとう。
[旅人はことばに甘えることにして、カウンターのいすに座りました。]
無駄になんねえならいいさ。
獣除けでも暖でも。
[木こりはぶっきらぼうに言うと、薪の小束を渡します。]
いや、急ぎで届けに行かなきゃなんねえ……
こっちもまーたか。
ほれ行くぞ。
[人のざわめきが深い眠りから、ツィンカを呼び覚まします。
気が付くと暖かい物が掛けられていました。]
誰が掛けて下さったのかしら?
[不思議そうな顔をして、首を傾げました。]
[他にも誰か来るかも知れないから、お茶は多めに用意します。]
はい、お待たせしました……あら。
[ロビーに戻ると、ちょうど女の人が目を覚ました所でした。]
えっ、えっ?
[牧師は突然のことに目を丸くします。
手足をばたつかせるも、非力な牧師が、力で木こりに敵うはずもありません。
牧師は渡された薪を抱えたまま、引きずられて行きます]
はい、そういうことでしたら、喜んで。
……それで、そのぉ。
手を、離しては頂けませんでしょう、か?
[牧師は首根っこを掴まれたまま、小さな声でお願いをしました]
おや、起きたか。
[声がするのに気がついて、旅人はソファを振り返ります。]
ブランケットは、あちらの方が。
[旅人は女の人の名前を知らなかったので、かわりにキッチンのほうを手で示します。
ちょうど当の本人がこちらに戻ってきた頃でしょうか。]
[見知らぬ旅人が指差す先には、見知ったドロテアの姿。]
ドロテア、お久し振り。
貴女の作る美味しいお菓子が恋しくて、また来たの。
そして暖かい毛布掛けてくれて有難う。
[人なつっこい笑顔を浮かべます。]
[牧師の小さな声に、木こりは足を止めました。
自分の手と牧師を見比べます。]
そうだな、靴が磨り減る。
それに薪も置いてきた方がいいな。
[のんびり言って、ようやく手を放しました。]
[木こりの手から解放されると
牧師はほっと胸を撫で下ろします。
足元を見下ろして、靴が磨り減っていないか調べました]
はい、それではしばらくお待ち下さい。
[牧師はこまねずみのように
急いで教会へ薪を置きに行くと
ぱたぱた、と木こりの元へと駈け戻って来ました。
その後、宿へと続く道を、楽しそうに
小さな歩幅で、てくてくと歩いていきます]
ふふ、久しぶりね。
きっとそうだと思っていたけれど、前よりも綺麗になっていたから確信が持てませんでしたわ。
[ツィンカの挨拶に、楽しそうに笑いながらこう返します。]
毛布は気にしないで?
せっかく戻ってきたのに、お医者様のお世話になるようでは寂しいでしょう?
それより、あなたもお茶をいかが?
[尋ねながら、まずは旅人にお茶のカップを差し出すのでした。]
旅人さんは今晩は。
旅人さんは幸運よ、黒い森のさくらんぼの季節に来るなんて。
夜の蛍もとても綺麗よ。
樵さんは、相変わらずね。
可愛いお嫁さん貰えたのかしら。
[ニコニコと笑ってます。]
ありがとう。
何から何まですまない。
[旅人はそう感謝して、ドロテアと呼ばれた女の人からカップを受け取ります。
一口飲んで、ほっと息を吐きました。]
うん、綺麗……?
どうなんでしょう。
でもドロテアが作るお菓子が恋しくて恋しくて、胸焦がれる程に恋してるから、綺麗になっているかもしれないかも。
[上目遣いでおねだりをしている。]
おう。
…ちょこまかしてんなあ。
[ぱたぱたと行って戻る牧師をそう評して。
重い荷で遅めの大きな歩幅と小さな歩幅が並びます。]
そろそろ森はサクランボの季節だがなあ。
狼がいるなら一人で行くのは危ねえな。
[食料調達法を呟いて歩けば、宿から灯りと人の気配。]
さくらんぼがあるのか。
それに蛍まで。
噂のせいで少し不安になっていたが、いい村のようだな。
[もうひとり、起きたばかりの女の人に声をかけられて、旅人は少し目を細めました。]
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