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[女は手の下で笑みを浮かべたまま、瞼を物憂げに伏せる]
エェン…気の毒ですわネェ…。
怖いですわァ…。
[睫毛の影では、深紅の瞳が少女の真意を探ろうと見つめる]
─回想:ザムエルの部屋─
[どこか呆然と、渾然とした意識は、人の気配と名を呼ぶ声に現実へと引き戻される。
見やれば、魂を抜かれた老人の身体はベッドへと横たえられる所で]
……オルゴール……だよ、な。
[ぽつり、呟けば返るのは肯定。
そして、『封印』という言葉]
封印……。
[その言葉を口にする刹那、痛むはずのない傷痕がつきり、と疼くような心地がして。
その感触に煩わされていたためか、観察するような視線には、気づかなかった。
そして、休んだ方が、という言葉に続いて。
投げられた言葉に、翠が数回、瞬く]
[そして、執事は優雅な一礼と共に立ち去り。
部屋には、彼と真白の妖精だけが残される]
……あの者……我に、気づいている、か……。
[不意に零れた呟きは、彼のようで彼ではない響きを持つもの。
それと気づき、警戒するような声を上げるカーバンクルに、彼ならざる彼は、艶然と微笑んで見せた]
……案ずるな、幸運なる小さきもの。
我には、『彼』を喰らう事はできぬ……果たすべき盟約が未だ、告げられてはおらぬが故に。
[静かな言葉の後に、艶は陰を潜め。
ふるり、頭を振る仕種]
「……エーリ」
……ああ……騒がしくて……嫌になる、な。
[不安げに名を呼ぶカーバンクルに苦笑しつつこう言って。
とにかく、ここを離れよう、と廊下に出る]
[物憂げに瞼を伏せるヘルガを、僅かに冷めた目で見つめるが]
……何故、今日は二人でしたのでしょうか?
それに、犯人の意図は一体?
ヘルガ様はこのことについてどのようにお考えになっておられるのでしょうか?
参考程度にお伺いしてもよろしいですか?
[あえて、犯人の意図といった質問を彼女にぶつけ、こちらも彼女の腹を探ろうとする]
……なんだ?
[その騒ぎには、廊下に出てすぐに気づいた。
行き交う人々、その慌しさに、不安めいたものを覚えてそちらに──ナターリエの部屋へと近づいた]
……一体、何が……っ!?
[そこに在るのは、白と黒の花。
その光景に、しばし、息を飲んで]
……これ、は……まさか……。
[零れ落ちるのは、掠れた呟き。
僅か、蒼ざめた様子に、召使から気遣う声が投げられれば。
部屋で休むから大丈夫、と告げて、自室へと戻っていく]
─2階・客室─
[部屋に戻り、ベッドに倒れ込む]
……『 』。
[声にならない声が、誰かの名を紡ぐ]
どういう事……だ、あれは……。
[過去の事例に、こんな事はあったかと。
記憶を辿りつつ、虚空へと投げた問いに答えはなく。
ただ、短い言葉が意識の内に結ばれた]
……『暴走』?
[意を問えど、答えはなく。
それを考える内にいつか、*眠りに落ちて*]
サァネ…私には何もわかりませんわァ。
それを参考になんてェ、どうやってなさるのかしらネェ?
[少女の探りを、女は心の内で密やかに笑う]
……マァン、いいですわァ。
そうですわネェ…オルゴールがそれだけ貪欲だったと言う事ではないかしらァ?
それともォ、歌姫にィ老人の魂では対価がつりあわなかったのかしらネェ?
[同意を求めるように、小首を傾げてみせる]
……いえ、このような事態の場合、詳細な事情を知らない方の意見が存外、的を得ていることも少なくありませんので
[そう返し、ヘルガの意見を聞くと、スッと瞼を伏せ]
……なるほど、一理はあるかもしれませんね
[ただ、同意を求められても、それに反応を返すことはなく]
……ただ、それですと主人の時にも同じことが起こるべきだったのでしょうが
フゥン、そんなものですのォ…お役に立てればァ光栄ですわネェ。
[少女の冷静な分析にも感銘を受けることなく、女は手の影で笑う]
アラァ…?
もっと犠牲になって欲しいみたいネェ…「起こるべき」だなぁんてェ…
案外ィ、貴女が犯人なんじゃないのォ?
[あり得ない推論を述べて、艶やかな紅唇が弧を描く。
夕暮れの冷たい風が、二人の間を吹きぬけた]
―客間―
よくねたか…な
[昨夜、事件のことは聞いたが、それでも眠くなるときは眠くなる。腹が減れば腹は減る。
ホールで話を聞いた後、書庫にいって何冊か本を借り、本をぺらぺら。そして寝た。
一応ということも含めて、オルゴールのことについて少しぐらい知識を蓄えようと試みてみたものの。
真に美麗にて、長ったらしい文章。
想像力をかきたててくれるのかもしれないが、曖昧で要点をえない文章。
それに心浸る気分であるならば良いものかもしれないが、そんな状況じゃない。
結局は、エーリッヒ等が語ってくれたことはよくまとまっていてわかりやすいな。と見ていて感心したものだ。
それぐらいのものなのだから、真新しいものもなく、見つけるために材料もない。
……まあそもそもオルゴールの知識を増やすぐらいの目的で、一夜漬け程度でそんなものあるわけもないと思っていたからいいか。と思ったけど。]
[結局、専門家に任せるほうが速いというなんとも気の抜けた結論に達したのはいつだったか。
その後また違う本を見る。屋台の料理全集とかいうので…
しっかりよくわからない本を持ってきてしまっていたらしい。
ついにわたがしの作り方まで見てしまった。最も、作るきなど欠片もないが。]
んあ。
[日課の知恵の輪を出し、いじくる。
といってもやはりいつもほど寝ぼけていないのは自覚している。
今日はいつもよりすぐ外せそうだ。]
―客室―
……ぅーあー…。
[つっかれたー。と僅かうめき声を上げながら、身体を寝台へと投げ出す。
同時に、ぱた、と小さな音を立てて背表紙を閉じれば、
サイドテーブルへと積み上げたままの書物へ、手を伸ばそうとして。やめた。
…これで、漸く三冊。
昼過ぎには問題も無く手荷物や室内の探査も終えて。
空いた時間、執事に選んでもらった書物を読み漁っていたは良かったのだが]
[―――本を読む事自体は嫌いではない。
今回だって、手荷物の中に数冊の小説も持ってきていたし]
…だーから、何とかなるかと思ったんだけど。
[甘かった、と言わざるを得ない。
文献や論文を読み解くのは、小説を読み進めるより遥かに読解力を要したし
そもそも、元は興味の深くない論説を読み続けるのは
最早青年にとって苦行に等しかった。
…それでも、律儀に読みきろうとする辺りの行動は褒められるだろうか]
…ほんと、にーさん…すげぇ。
[…常々真似出来ないとは思っていたが。
恨めしそうにサイドテーブルへと視線を投げ、思わずぽつりと呟きが漏れる。]
[ぼんやりと。また屋敷が騒がしいな。と思っていると。
かちゃり。という静かな金属音とともに知恵の輪が外れ、その音を合図に思考も覚める
さて、なにをしようか。何気なくまた本をぺらぺらとめくろうとしていると、こんこん。とドアをノックする音が聞こえる]
あー、入っていいよ
[何かはわからないまでもそう答えると、数名の使用人がいた。用事は、便箋を届けにきたと言うことと、部屋や荷を調べるとのこと。そういえばそんなことしなければならなかったのだったな。と思い返し鷹揚に頷きながら、自分は手紙を書き、その間に不振なものがあるかどうか調べられることとなる]
……ご協力感謝します
[感情の篭らぬ感謝の意を伝え、軽く一礼する
もっと犠牲になってほしい、という言葉には僅かに眉を寄せるものの、すぐに緩めると]
……滅相もございません。ただ、1人が2人に増えた理由が気に掛かっただけでございますから
[身体を寝台へと投げ出したまま、暫く躊躇ったまま視線を送って。
それでも漸く。……ゆっくりとではあるが。
サイドテーブルへ積み上げられた新たな書物を手に取れば、
よ、と小さな掛け声を上げながら、身体を反転させる。
寝台の上へと本を開け、肘を突きながらも表紙を捲れば
オルゴールに関する記述が並ぶ頁へと手を進めた]
[まぁ…苦行の甲斐有ってか、執事の告げた通りの順序で書物を辿れば
逸話に関するある程度の知識は詰め込む事に成功はした。
まさか専門家に及ぶ程の知識は持ち合わせはしないだろうが
今の自分には十分だろう、昨夜の自分の知識よりは余程良い]
[緩く歩みを進めながら、執事は思考する。何故、今日は二人だったのか。
魂を奪うのが目的にせよ、音色を聴きたいが為にせよ、どうにも奇妙だ。
対価が足りなかったか――なれば、それは“犯人”に取っては予想外の事。
庭園に差しかかれば話し声が聞こえ、つい、歩みを止めた]
[女は薔薇を手折ろうと紅い爪を伸ばし――その棘に阻まれる]
ァツ…ゥ…、主に似て情の強いことォ…。
[白い指を染めた紅に唇を寄せ、舌先でチロリと舐め取る。
そして視線だけで感情の篭らぬ謝意に応え、*身を翻した*]
[疑って部屋を調べるとはいえそこはやはり使用人。荷を乱雑に扱うことはせず一つ一つ検分していっている。
それを背後に手紙を書く。
詫び状。店がしばらく閉店すること。父宛てに。
内容ごとにわけて、一つ一つかきあげる。その間。無言。
しばらく後。何事もなく荷物と部屋の検分を終えた。
手紙も書き終え、封をすることなく渡す。
後は勝手に処理してくれるだろう。届けばいいのだからそれでいい。
特に不振なことを書いていない手紙はすんなりと通ることだろう]
よいしょ、…っと。
[思わず上げた声に、うわ、俺ジジくさい!とか独りごちつつ
ぺら、と薄い音を立てて書物の半ばを開けば
『永遠のオルゴール』の名から始まる論文の表紙が現れて。
ここかと判断すれば、前の書物から挟んでいた栞を抜き出して
その頁へと差し込みながら、読み進めを開始する。
この姿勢では、直ぐにでも肩凝りで断念しそうな予感はするのだが
座りながら活字を追うのもそろそろキツかった。
主に首が。]
[窓外からの陽は既に沈みつつあった。
活字を追うのも、室内の明るさでは最早難しい筈なのだが
青年は、僅か目を細めるだけで。その視線は流れるように紙面を走っていく]
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