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………っは、
[何かが動く気配があった。
緩く首を振って、桜から視線を外すと、
校舎を目指して駆け出す。
佇む桜の大樹に、
傍らに咲く緋色に、
裏庭へと走り去る影に
気を取られていたものは見る事はなかったろう。
靴を履きかえる間すら惜しく、土足で校内に踏み入る。
明かりを点ければ目立ってしまうから、
自然の光を頼りに内部を歩む。
3年間親しんだ校舎は、静かだった。]
[階下に駆け降り、玄関を出ると、ショウの部屋の窓の下へと走る。探す姿は既になく、見上げた窓にカーテンだけが揺れていた]
………どこへ………
[呟いた声は、苦く響いたろうか。……どこへも逃げる場所などありはしないのに、と……]
[大樹に近付きつつある目的の相手の背中を捕らえ
僅かに安堵しながら、再び意識を奥の影へと向ける。
焼け付くような感覚が、強まって、足が、止まる。
そのまま校舎の角を曲がる影の正体は、
夜の闇に紛れて見ることは適わずに。
しかしその姿が、壁の向こうへと消えた瞬間
自分の周囲を取り巻く空気が、僅かに薄らいだのが判った。
無意識に詰めていた息を、僅かに零して。]
……っ、…各務!
[片膝をつく相手を認めると、ふるりと頭を振って、
止めていた足を動かして、傍へと駆け寄り]
[フユの姿が遠くなれば、疼きはだいぶ、静まり。
無意識の内に左腕を掴んでいた右手の力を緩めつつ、はあ、と息を吐く]
……だいじょうぶ。
[アズマの声が聞こえれば、短く返して]
……制御、上手く、できてない、から……。
反動、受けてる、だけ。
[苦労して、肩ほどの位置まで持ち上げてから
窓ガラスに叩き付けた。
その勢いのまま、石は校舎内へ転がり込んだ。
割れた窓から室内に入る。
窓枠に残ったガラスの破片で手足のあちこちに幾らか小さな傷が出来た。]
……それは、大丈夫って言わねぇ。
[傍へ駆け寄った直後に返されるマコトの言葉に、
安堵とも呆れとも取れる溜息を一つ零して。]
…悪いけど、手は貸せねーかんな。
静電気バッチバチに来てもいいなら別だけど。
……あれ、誰。
[良く見えなかった、と。
人影の消えたほうへ視線を向けて。ぽつりと]
……そう、かな?
気絶してないだけ、マシだと思うけど……。
[比較対象が明らかにおかしい返事をしつつ、額の汗を拭って]
静電気……って?
[唐突といえば唐突な言葉にきょとん、とするものの。
続いた問いにとぼけた表情は消え、険しさが浮かぶ]
……榎本先輩……だった。
[返す言葉は、こちらもぽつりと]
…や、マシっちゃーマシなんだろうけど。
気絶してたら、返事も出来ねー状態でしょーよ。
…それを大丈夫かどうかの基準にすんのは、多分間違ってる。
[膝をついたままの相手を見下ろしながら、
再び、今度は呆れの多く滲んだ溜息を零す。
続く問いには、気にすんな。と短く返して、
しかし、言葉通りやはり手を貸そうとはせずに。]
……榎本、センパイ。
[各務の言葉に、鸚鵡返しの様にぽつりと呟く。
何度か喋ったことはあるけれど。あの先輩が──
影の消えた方へ視線を向けたまま、緩く瞬いて。
と、ふと響く声に、校舎の向こうに
送っていた視線をゆるりと外して。]
……えっと、…タチ、モリ?
気絶してたら、大丈夫以前に大惨事だけどね……。
[物騒な事をさらりと言いつつ、ゆっくりと息を吐いて、立ち上がる。
『憑魔』の気配が遠のいた事と、同じ『司』の存在故か、心身の落ち着きは戻っていたが]
『こんなんじゃ……憑魔を浄めるどころか……』
[暗い予測に、瞳が陰るが。
その陰りは、やって来た少女の笑顔により、困惑に変わる]
どうしたって……君こそ、どうした、の?
[暫しの逡巡の後、結局、桜の木の方へと歩き出す。寮内に残っているはずのヨウスケのことが、ちらりと頭に浮かびはしたが、事の元凶は未だあちらにあると、自分の中の何かが告げていた]
[薄暗い中を、躓かないように慎重に歩み、
リュックから下ろした仔犬も隣を進んでいく。
爪の音と、自らの息遣いが辺りを支配していた。
ようやっと暗闇に目が慣れた頃、
目的の部屋―――職員室の前に辿り着く。
扉は、開け放たれたままだった。
恐らく、鍵を閉める間もなかったのだろう。
手間が省けた事に、内心感謝しながら中へと入る。
しかし目が慣れたとは言え小さな文字までは見えず、
探し物をするには、聊か都合が悪かった。
カーテンを閉めてからにしようにも、
明かりのスイッチとは場所が遠い。
…少しなら大丈夫かと、素直に灯りを点ける事にした]
……なんか、ええと、セイサン?
[よくわからなかったらしい。首を捻って]
私は、桜にききにきたんですー
ええと、桜花でしたっけ?
[具合の悪そうなマコトに、だいじょうぶですかー?なんて]
イタイ。
いたい。
イタイ。
ひどい。
ヒドイ。
ひどい。
[泣きながら走る。
校舎裏から校内へ。
向かう先は、葉子が慣れ親しんでいた、生徒会室。
どうしてそこを目指したのかは、自分でも知らなかった]
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