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[身を起こせば着衣に乱れはなく、枕元に置かれたショールが見える]
誰が運んでくれたのかしら……
[ゆるりと瞬き。
ショールを手に取れば意識が途切れる寸前までを思い返して]
……ああ、ベルナルトかも。
――そうだとしたらお礼をいわないとね。
[小さく呟いて、ゆっくりと動き出そうとしたとき。
廊下が酷くざわめいている気がしてそっと、顔をだす**]
―朝―
[今日もまた、目覚めてから目許を指で拭った。
ぼんやりと視線が赴いた先、鏡に映る己の姿。
夢の中で綺麗だと撫でられた髪が、くしゃりと乱れていた。
目を伏せ、また何時ものように身支度を整える。]
………イヴァン、
[間接的にとはいえ、己もニキータの死に関わっている。
一瞬でも彼への疑いを抱いてしまったのも事実。
だから言い訳も、下手な慰めも、考えてはいない。
ただ、先日までのニキータに対するイヴァンの姿を見て
漠然と思い抱いていたことがある。]
共に居たのは、彼だったの、かな。
[ナイフを腰のポケットに収めてから、もう一つだけ。
ふたつの人影映す月夜の湖を描いたスケッチブックを
片腕に抱え、廊下へ出る扉をキィと開けた。]
[昨日と変わらず、二階の空気は生臭い。
否、昨日よりも更に濃い色にさえ思われた。
自室より少し離れた、昨日よりも近い処から伝う
鉄錆に似た匂いに、胸がとくりと鳴っていた。]
まさか、……
[その匂いの元は、訪ねようとしていた人の部屋の前。
息を呑み――扉に手を掛け、開け放つ。]
――――…、イヴァン。
[あかいいろ。動くことなくそこにあるもの。
スケッチブックが、ぱさりと床に落ちる。
男はその場に膝を突き、ただひたすら茫然として
その場の惨状を、言葉も無く見詰めていた。**]
[それからその日は広間を掃除し、アナスタシアがいた部屋の片付けをしたりと時間は過ぎていった。
夜には湯を沸かして身体を拭き、やはり埃臭いままのベッドで睡眠を取る。
気が張り詰めていたのか、その日は夢を見ずにすんだのだけれど]
――?
[鼻を掠める血臭。嫌な予感がしてベッドから降りる。何かの落ちる音がした。
扉を開けると、廊下に立ったままのベルナルトの姿。
その部屋は誰の部屋だったか知らない]
ベルナルトさん……?
まさか、また――。
[その近くまで歩いていく。近づけば血臭は増して扉の向こうの光景に足を止めた]
イヴァン、さん……。
[小さく首を振る。タチアナが、彼は人だと言っていた。もちろん今も、甘い匂いなど少しもなく。
思い出されるのは昨日厨房で見せた笑顔]
―回想/広間―
そういわれても仕方のないことを言った、自分の責任だとは思わないのか。
[そんな風に言いながらも、手当をしていく。
何か言いたげな様子には気づいていたものの、自分から問う事はなかった。
小さな声は耳に入ってきて、その表情を伺おうと視線を向けた]
……お前は本当に馬鹿な奴だな。
[頭を一度、ぽふ、と撫でて。
救急箱をしまいに離れる。
タチアナが倒れたのを見て、ベルナルトが運ぶというのに頷いて]
任せる。
[見送った後、遺体を運ぶというのに協力はしなかった。
ただしっかりとその姿を目に焼き付けて]
戻れるか?
[まだ座ったままのアリョールに問いかけるのは、その後の事。
戻れないと言うのなら、暫く付き添うつもりではあった。
そして、その日は部屋に戻り、机の上のナイフの刀身を布で巻いた。
隣室におやすみ、なんて声をかけた後で、眠りに落ちていった]
―朝―
[目が覚める。
一番最初にしたことは、ナイフの確認だった。
刃はしっかりと保護してある。身支度を整えて、それを服の内側のポケットに入れた]
……。
[ドアを開けると、確かに匂う、昨日と同じ血のにおい。
またか、と。呟きはせずに視線を巡らせ、そこに居るフィグネリア、そして座り込むベルナルトを見つけると、歩を進めた]
――…イヴァン。
[中の光景を伺う事は出来た。
名を呟く声は掠れる。
友人、だった。食事の時の事を思い出し、目を伏せる。短い時間、アナスタシアよりも長い時間。
次に目を開けた時は、感情の波を抑えて]
ベルナルト、フィグネリア、広間に行っていろ。
周りに知らせて、地下に運ぶ。
お前らは休んでるんだ。
[二人に声を投げて、部屋をノックして回る。
イヴァンが死んだことを伝えるために。
冷静ぶった表情は、ヴィクトールの前だけでは僅かに剥がれる。
口唇をかみしめて、それでも自分は大丈夫だと、はっきりとした声で言った**]
―回想/自室―
[ 自室へ戻ると、扉に背をつけて荒く息を吐いた。
今更になって身体が震える。
アレクセイを殺さない為とはいえ、手を汚す覚悟もしたとはいえ、本当に最善だったかなど、今となっては分かりはしなかった。
そのまま、滑り落ち扉に背をつけ頭を預け、立てた膝に腕をかけ、もう片手で顔を覆う。
どれくらい経った頃だろうか。]
「おやすみ。」
[ ヴィクトールはアレクセイの声を聞く。]
ああ、おやすみ。
[ 返事を返す。
こんな状況でよく眠るようになどと言い出すことも出来ず、出来るだけ声で想いを込めることでその代わりとする。]
[ベルナルトが運んでいくタチアナに向ける視線は、痛みのせいかどこかとろりとしていた。
緩く頭を振る。
運べるのなら、タチアナは自分で運びたいとも想ったが、無理だと解っていたので口には出さなかった。
きつく巻かれた包帯の下、傷口が熱を帯びる。
フィグアリアが広間の掃除をするのを見遣り、これも出来ない、と今更ながら怪我をしたことへの後悔が浮かぶ]
――…大丈夫だ、戻れる。
[>>52アレクセイの問いかけに答えるも、立ち上がる気配は見せず。
それを察してか、付き添う様子のアレクセイに、シンプルな謝罪と礼を述べて。
ひと時が過ぎれば、自力で2階へ戻っていく]
―朝・2階客室―
[寝台の上、満ち足りた表情で眠る様子は、扉に隔てられ誰に見えることも無い。
緩やかに目覚めた後、ノックの音に気付き、扉を開ける。
寝乱れたのか、解け掛けた包帯を逆の手で押さえ、アレクセイの話を聞く]
そうか。
[ぽつり呟く声の感情は乏しい。
白かった筈の包帯に滲む血の色の方が、余程鮮明だった**]
[アリョールの部屋に行った時、彼女の様子に、眉が寄った。
昨日もいつもと調子が違ったのはわかっている。
こんな状況によるものなのか、それとも他の理由があるのか。
伝えなければならないことを伝える。
答えを得る。
更に眉間に皺が寄った]
後で傷口をもう一度見せろ。
手当をするぞ。
[不機嫌そうな様子でそう言った**]
[ベルナルトの手にスケッチブックを取らせて、膝をついたベルナルトの肩にそっと手を置いた]
ベルナルトさん、大丈夫です……か?
[声を掛けたところでアレクセイの姿が見えた。
広間にと言う声に頷いてから]
アレクセイさんも、無理はなさらずに。
……ベルナルトさん、立てますか?
[立ち上がれないなら肩を貸そうとして]
[ナイフはポケットに入っている。
未だ誰かを差すだけの決意はもてないが、護身用だと言い聞かせて。
ベルナルトと共に広間に辿り着くと、椅子に座らせてからお茶を入れる。
湯が沸くまでの間、ちらちらとベルナルトの様子を気に掛けた。
フィグネリア自身ショックは大きいが、動けないほどではない。
けれど、厨房に立てばどうしても先日のことが思い出されて、気は重くなる。
下ろした方が良いと言われた金糸を垂らし、スカーフは肩に掛けて。
滲んだ涙を手の甲で*拭った*]
――……
[もう、あたたかさのかけらもない冷たい頬へと手を伸ばす。
乾き始めた血がスカートの裾を濡らす事すら気にしないまま]
人狼、を……みつけなきゃ、ね……
[見つけられなくて、御免ね、とぽつりと呟き。
冷たい頬を撫でて、しばしそのままでいた]
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