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[水が。
堰き止められていた水が。
少しずつ溢れ始める。
最初は少しだけ足元を濡らす水が。
次には通路を覆うようにあふれ出す水が]
[―――外に降り続いている雨が、段々と強くなる]
[体から水が噴出す。
それは、小さな穴から、水を弾き飛ばすように。
すさまじい勢いで吹き飛んでは、壁に極少の穴を開けていった]
―東殿・回廊 焔側―
[ブリジットの言葉に一番耳を疑って吹きかけたのは、嘘を振りまいた張本人。
思わず片手で口元を塞ぐのは、ある種考え込んでいる様子に見えなくもないが。]
―東殿・回廊 焔側―
[剣を持っている、という月闇竜の言葉には、抱きかかえた翠樹の仔が
不思議そうな顔を浮かべているかもしれない。
ただ、ブリジットには仔の心境は分からずに]
……剣の力で、"揺らされたもの"に、対抗できたのね……
良かったと安心するべきか、もっと、早く対処して貰いたかったと言うべきか……
色々と、制約などが、あるのかも、しれないけれど……
[どこか苦しそうに告げる。
苦笑のような表情だが、いささかどこか、安心した様でもあり]
─東殿・回廊─
[倒れるエーリッヒを床に座るようにして支えた状態で、回廊奥から現れるノーラとアーベルの姿を見つける。何事か口にしようとして、それはナターリエの叫びに掻き消された]
ナタ───……いかん!
[名を呼ぼうとして、危険を察知した。ナターリエの身体から飛び出した水が目の前を横切り、傍の壁に小さな穴を開ける。咄嗟に砂の翼を広げ、壁を作り。エーリッヒを背負うと低空飛行状態のまま近くから離れた]
一体何が…。
そう言えば、ダーヴィッドがどうと、エーリッヒが言って居ったかの。
……よもや、あやつまで……!?
[そうであるとするならば、このナターリエの暴走っぷりも頷ける。剣の影響で増大した力に、更に対の一つが欠けたのだ。抑えきれなくなったのだろう]
―東殿・回廊 焔側―
……、クレメンス?
[考え込むようにしている命竜を見て、覗うように名を呼んだ。
吹きかけているとは露知らず、何か思うところがあったのだろうかと]
[波がうねる。
大波が逆巻く。
ナターリエは、半分暴走状態のまま、自らの形態を波へと変化させて移動。
移動する場所は、当然、流水の気を感じる方向へと]
[海原が荒れる。
激しい渦を巻いて、波が高く高く上がった]
[波は高速で移動。
通路いっぱいに残っている混沌のカケラを巻き込み、蹴散らしながら。
―――そうして、移動した先に見えるのは、月と氷。それから、生命の姿。
ナターリエは、波の移動を止め、天井近くで上半身だけを元の形態に戻して、叫ぶ]
誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!誰が!
[言葉は言葉にならない。
意味の無い言葉をただ叫び続けるのみ]
え、ええ。
[どうしてそういう結論なのか。
と、いうのを、問い詰めたい。
が、問い詰められない。]
[はっと仔の視線に気付いて、]
ブリジット殿、すこし、良いですか?
[逃げた。]
ベアトリーチェ殿。
[名を呼んで、近付く。
そうして、そっと、囁いた。]
後で、ちゃんとお話しますね。
一緒に、王様を、お出ししましょう?
―東殿・回廊 焔側―
あ、いや。
[すぅと息を吸ってから手を放せば、辛うじて体裁だけは取り繕えた。
氷竜に覗き込まれたので、思わず頭を撫でておいた。ええ思わず。]
いや、こうも簡単に見つかるとは思ってなかったから、よ。
[何が、とは今は言わない。他の竜の気配が近づいてきているからだ。]
―東殿・回廊 焔側―
[とそこに現われたナターリエの様相に、若干の危機感を感じ半歩下がった。]
うぉぁ!?
な、何だぁ?どうしたナタ!?
[あまりの様子に、眉を潜め。]
―東殿・回廊 焔側―
[何故だろう。月闇竜と生命竜が自分を見る目がおかしい気がする。
もう一度、自分の情報を整理してみた。
うん、間違ってない、多分。きっと。恐らく。――多分。
ただ、そんな風に思うのも、脳の随分かなり隅っこの方でのこと。
今は大きな頭痛が大半を占めており、それを抑えるのが精一杯]
……、オトフリート?
[翠樹の仔へのひそひそ話や、ばれたら怒られる、という言葉には、
素直に頷くのみ。
命竜に撫でられれば、不可思議そうに睨みつけただろうか]
―東殿・回廊 焔側―
――ッ!?
[頭痛がさらに酷くなった時。回廊の奥から、通路いっぱいの荒波が押し寄せてきた。
幾分離れたところで波が止まると、はるか高みに見覚えのある上半身が出で生まれ]
流水のナターリエ……!?
[暴走しても見える、彼女の容貌。そして、声に、驚きを隠せない]
─東殿・回廊─
[目の前にあり得ぬ光景が広がる。高波が、頭を擡げていた。それはナターリエであったもの。波へと転じたナターリエは、通路いっぱいに身を広げながら何処かへと流れ行く。こちらへ来なかったのは僥倖であったろうか]
ぬぅ……あのまま放っておくわけにも行くまい。
が…まずはこ奴をどうにかせねば。
[背に抱えたエーリッヒに視線をやり、彼の個室へ向かおうとする。途中アーベル達に声をかけられたなら、後にしてくれんかの、と断りを入れて、低空飛行で回廊を進み始める]
─東殿・エーリッヒの部屋─
[ナターリエの怒号は止まらない]
「流水」が泣いている!
嘆き悲しんでいる!
聖なるものとして作られたものが、本来と逆の使われ方をして泣いている!
誰が!誰が!
そのようなことをした!
何故泣かせる!
何故悲しませる!
誰が!誰が!
流水を、眠らせていない!
[エーリッヒの部屋に着くと扉をあけ、ベッドへその身体を横たわらせる。顔は未だ青ざめていて昏睡しているらしく、目覚める気配は無かった]
一体何があったと言うのじゃ…。
流石に後で聞きださねばなるまい。
[孫のように接する存在。その彼が倒れしに心配しないはずもなく。倒れた時に感じた機構の力の増大と、あの光は一体何だったのだろうか。流石に聞かぬと言うわけには行かなくなって来た]
[エーリッヒの身体に毛布をかけてやっていると、開け放たれたままの扉から機械竜が入って来て、エーリッヒの傍へと降り立った]
お主は確か……エーリッヒが作りし機械竜じゃったか。
……後で様子を見に来る故、しばらくエーリッヒのことを頼むぞぃ。
[機械竜の頭を撫でるように触れ、傍を離れると部屋の外へと足を向けた]
さて…あやつはどこへ行ったやら。
[次に気になるのは、波となり駆けて行ったナターリエのこと]
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