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冷徹なるは氷――、氷がもたらすは、封ッ!
[重ねた両の掌の上で、ひとつの氷の粒が踊るように回り始めた。
徐々にそれは、歯車の形を成して行き――回転速度を上げていく]
乱れし力よ凍て尽きて、暫し眠りに付き給え――!
[氷で出来た歯車は、徐々にその回転速度を落としていく。
回転が緩やかになるに連れ、力の暴走が少しずつ、少しずつ収まっていくだろうか]
[対なる剣の力の乱れにより、腐食は静かに進み、やがて有機と無機のはざまの命をも侵し始める]
[それを知るは、意識を喪い倒れ伏す機鋼の仔、そして彼に繋がる、兄弟達のみではあるが…**]
< 顔に手を当てたまま微かに首を振りかけ、紡がれた名に露な左の瞳が瞬く。
今度はゆっくりと、確り、左右に振る。
「知らない」の意ではなく >
……オトは、いないの。
中に、いっちゃたから。
―東殿・騒動元―
[アーベルが消えたのは分かった。が、その前に居たはずのもう一人が見当たらない。
だが死んだとは思っていない。生命が途切れれば、容易く感知出来るはず。
なら、何処へ。
そうこうしていれば氷竜は大地の元へとかけていき。
軽く、息をつく。
契約、ではないが。約束があった。
第一に己の力を優先的に使うと。
万一二人が傷を負っているなら、そちらに向かわなければならないのだが。
苛立ちを覚え軽く眉を顰める。]
[アーベルが消えたことにより、ほんの少しだけ、腕輪に籠る精神の力が弱まるか。それでも蠢く力は収まることは無く、尚も己が精神力は削られ行く]
……ぐ……。
……ブリ、ジット……?
[傍に駆け寄るブリジットの姿。座っても尚ふらつく視界でどうにかそれを捉え。己が手に添えられし手、紡がれる言葉。封印に呼応するかのように、増大した精神の力は少しずつ弱まり行く]
ぬ、ぅ……。
[僅かばかり、削られる精神力が減った。力んでいた全身から力が抜けて行く]
…、いないの?
[影の言葉に幼子は僅かに眼を見開いた。
想定こそしていたが、其れこそ信じるに足りぬと思っていた故に。
無意識にか、胸元が小さな手にぎゅうと握り締められようか。]
どうして?
――…ととさま、いっしょに出そうって、いったのに。
オトは、じぶんで行ったり、しないよ。
…だれが、とじこめちゃったの?
―東殿・騒動元―
[目の前で繰り広げられる、ザムエルとブリジットの剣を押さえ込もうとするそれと、倒れたエーリッヒ。
どちらも気にかかり、特にエーリッヒの方へは癒しを注ぎ込みたい所だったが。
何度かかけ続けていた声に、声が返った。]
……了解。
[それだけを口にし、その場からゆらと、消える。]
< 見上げる幼児、握り締められる手。
それを認め、腰を落として視線を合わす。覗き込むようにすると、乱れた髪の合間から闇にも似た黒の肌が覗いた >
たぶん、ね。
そう、オトは、リーチェにはそういったんだったね。
< 眼を伏せる >
願いを叶えるために。
< ならば、どうしてあのような強硬手段を。
停止しかけていた思考が巡る。
伝え聞いた、彼女を信用できると言ったものと、真名を呼んだもの >
[徐々に収まる剣の鳴動。しかしそれも完全ではなく。凍結により保つそれは、酷く綱渡り的な安定を作り上げるか]
ぐぬ……。
どう、にか…。
収まりは、したじゃろうか…。
[左手首に据えられた腕輪に視線を落とす。いつものような鈍い光は、今は感じられない]
[氷の歯車は、ややあって回転を停止した。
ゆっくりと、ブリジットの手の甲へと落ちてくる]
……はぁ、はぁ、……はぁ……。
[玉粒のような汗を浮かべながらも、氷の歯車をさらに凍気でコーティングする。
そのまま崩れるように――、床へと倒れこんだ]
[封印が終わり、礼を述べようとブリジットへ視線を向けると、床へと倒れ込む姿が目に入った]
っ、ブリジット!
大丈夫か!!
[傍に居たナターリエも、この時ばかりはブリジットを心配したことだろうか。己もだいぶ力は尽きていて、崩れるその身体を支えるまでには至らなかった。ブリジットの傍により、軽く肩を揺らしながら声をかける]
[高さの合う視線に、幼子は真直ぐに相手へと視線を注ぐ。
覚えのある影竜とは異なる肌の色。
幼子は不思議に思えど、それに怯える様子も無ければ問いはしなかった。]
…ねがい?
[幼子は父王に会いたいとばかりであった。
王と共に出そうと闇竜殿に謂われて居たが、其れとは又異なる願いが在ったのであろうか。
仔は考えど判るはずもなく、ただ困惑に眉を寄せた。]
……、ノーラ、
あのね、オトから、あずかってるよ。
リーチェ、もってるの。
[闇竜殿の真の名を知る者が何処か、幼子は知る由も無いが
ただ一人、頼まれた者の中に影竜殿の名が紛れていた事は記憶していた。
衣服の下へと収めた鎖を小さな手で引っ張り出す。]
オトの、ほんとうのなまえをしってるひとか
ノーラに、わたしてって。
そう、願い事。
そのために、剣が必要だったの。
< 不可解な科白と共に幼児の手が引き出したのは、灯りを弾いて微かに煌く鎖。中心に抱く石はまだ見えないが、清浄な輝きと静かな怒りを感じた気がした。
真実の名を知る者。
曖昧な示し方ではあれど、誰であるかを悟るには十分だ >
リーチェは、知っている?
……ほんとうの、なまえ。
―東殿・回廊―
……はぁ、……はぁ……、…………。
[老地竜か、それとも流水竜か。
誰かに声を掛けられた気がしたが、意識は朦朧としていて。
バランスが崩れたための頭痛と、上級の封印式を行った疲労が合わさり。
倒れ伏したまま、"封印"の鍵となる氷の歯車を硬く*握り締めている*]
リーチェ、しってる。
オトが、ないしょって、おしえてくれたの。
…オティーリエって、すっごく、きれいななまえ。
[周囲へと視線を巡らせ、他に人が居ない事を確認しやると
幼子は漸くに首へと通した鎖を解きて、衣服からその石を僅か見せるように引き上げる。
回廊の灯りを僅か弾けば、相手にも判ろうか。、]
――ノーラみたいなわっかじゃなくて、もういっこの方、だけど。
─東殿・回廊─
ぬぅ、いかん……無理をさせてしもうたようじゃ。
早く休ませてやらねば。
クレメンス、お主体力有り余っておるじゃろう。
ブリジットを部屋に……。
…クレメンス?
[共にブリジットと現れたはずのクレメンスの姿が無い。この場に残るは己とナターリエ、倒れ伏すブリジットとエーリッヒのみ]
あやつめ、どこに…。
仕方あるまい。
ナターリエよ、ブリジットを頼む。
エーリッヒは、儂がどうにか運ぶとしよう…。
[ナターリエは対たるブリジットを運ぶことを厭うやもしれぬか。嫌だと言うのであれば己がブリジットを運び、ナターリエにエーリッヒを頼むことになるだろう]
[消耗をおして運んだ先の部屋。ベッドに運んだまでは良いが、極度の疲労により部屋を出ること叶わず、床に倒れ込むことになるだろうか。左手首の腕輪は、未だ危うい均衡を*保ったまま*]
< 幼児の口にする名に、静かに頷く。
教えられていながら、一度として口にした事はなかった。揺らぎゆえに >
……オティーリエは、じぶんでありたかったんだって。
< 謎かけのような言葉は、仔竜には難しいだろうか。
天の光に似た静謐な真白と、深き海を模した不透明な碧の石。
悠久と変化、反しながらも何処か似通った性質を持つもの >
わたしも、わたしでありたい。
< それは、写しか、真意か。
黒曜石に色が映り込む >
エレオノーレでいたい。
< 伸ばした手は幼児の柔らかな金糸を撫ぜたのち、躊躇いを抱きながらも指先は輝きを放つ石へと伸びた >
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