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―――…、っつー。
[左の人差指の脇から、緋色が流れ出る。
反射的に口に含むと、舌にざらりとした味を感じた。
塩味。俗に言う、鉄のような味、だろうか。
痛みは、現実に引き戻させる。
今が現実だと、知らせる。]
…後で、消毒しよ。
[面倒だと思いながら、油を敷いた鍋に材料を放る。
大人しく待機していた仔犬がピンと耳を立て、
調理室の中に駆け込んだ]
[血の匂い。甘い甘い匂い。
微かなそれにピクリと反応する]
リュウ?
[けれどそれより早く動き出したのは仔犬。
調理室に駆け込んでゆくのを見て、ゆっくりとその後を追う。
入り口から中を覗き込んで]
一之瀬先輩、どうしました?
[気付けば日は暮れていた。
殆ど動かずにいたとて、丸一日食わないでいるのは流石に辛い。喉が食物を受け付けるかは別として。
とにかく何か口に入れようかと階段を降りる途中、少女と擦れ違った。その様子に僅か違和感を覚えながらも、階下へと向かった。]
―寮2階→…―
…………うー、だってしょうがないじゃない
まさかあんなことが起こるなんて思ってもいなかったわけだし
おかげでお風呂に入るタイミングが遅れに遅れて
[そう言いながら椅子に座ると、ぐてーっと机に突っ伏し]
んぁ。
[外からかかる声に、鍋から視線を外す。
遅れて、足下に不安そうに擦り寄る仔犬]
大丈夫ー。
指、切っただけ。
リュウもそんなに心配すんなー?
[グラスを盆にのせ、冷蔵庫から麦茶の入ったポットを出し、戻ろうとする時にフユがこちらにやってくるのが見え、すれ違い様感情のこもらぬ声で一言。]
――昨日はどうも。
[そして、皆の待つテーブルの方へと。]
……まあ、それはそうだろうけど。
[昨日の出来事を思い返す刹那、僅か、表情は陰りを帯びるか]
とにかく、ちゃんと水分と栄養とって、ちゃんと休んで。
……医者にかかれる状態じゃないんだから。
[それでも、陰りは一瞬で振り払い。
いつもの調子で、こんな言葉を投げかけて]
…救急箱、持ってきた方が良さそうですね。
[血の流れている指をじっと見て。
小さく頭を降るとそう言って踵を返す]
皐月さんの部屋には、薬も確か置いてあったはず。
ちょっと取って来ます。
[足早に皐月の部屋へと向かう]
[ひとまずはぐったりと机に突っ伏しているツインテールの人の横に麦茶を注いだグラスを置き。各務の「医者にかかれる状態じゃない」、との言葉に怪訝そうな顔をし。]
……どういうこと?
[口を挟む間を与えずに立ち去るヨウコに瞬き、
こちらを見上げる仔犬に視線を下ろす]
…大丈夫だって、言ってんのになー。
[呟くショウを咎めるように、きゃん、と一声。
軽く目を瞑って、肩を竦めた。]
と、火っ!
[危うく目を離すところだった。
慌てて調理を再開して、手早く仕上げ、器に盛りつける]
あ、ありがとうございます、霧生先輩。
[麦茶を用意してくれたサヤカに、にこり、と笑んでこう言って。
投げられた問いには、ほんの少し、表情を険しくして]
……出られないんです……学園の、敷地内から。
外部との連絡も、取れなくなってるし……。
[だから、と。呟くような声は、苦いものを帯びて]
[給湯室の流し台に腰掛けて、ぼうっと宙を眺めている。]
……甘い。
[時々、水羊羹を口に運んだ。]
だが、まだ時じゃない。
[つう、と視線が動いて
サヤカの通っていった方を辿る。]
出られない……?
ますます現実味がない話だこと。
……ねぇ、いったい何がおきてるの?
あの桜や、あの女の子は一体何者なの?
そして……他に消えたのは誰?
[考えまいとしていた疑問が、つい言葉となりあふれ出ててしまった。]
佐久間先輩、こんばんは。
食堂に他の先輩達もいらっしゃいますよ。
[すれ違ったヨウスケには簡単な挨拶だけをしてその横を通り抜け、皐月の部屋へ。
目当ての物を見つければその中身を確認する。
消毒薬に絆創膏、風邪薬や鎮痛剤も入っているのを見て]
力、無駄にして欲しくないよね。
無駄にするくらいなら、くれればいいのに。
[クスリと笑うと、それを抱えて食堂へ戻る]
おーまーたーせっ、とー。
[ちょうどヒサタカが食堂に姿を現すのと同時、
調理室から大皿を運んで来て、テーブルに。]
ていうか、1人でやるの無理。
手伝え、お前らー。
(どうせ死ぬのなら、散々恐怖してから死ねば良い。
その方が美味いのだから。
あの小さい奴。
うまく動けば良いがな。)
[水羊羹が甘い。
そして、喚起される記憶の味もまた、甘い。
しかしその記憶は現実の味覚より尚甘美。]
(……まあ、おれの好みの話になるが
何にせよ
結局は願いを叶えることになるのだから。
おれは暫く静観だ。
どうせ、一人や二人殺せばすぐに自我も潰れて
消える。)
[マコトの言葉には軽く唸り声を上げ]
うー、わかった。つきましては何か食べやすいもの欲しいかも
[麦茶を入れてくれたサヤカには、まだこの人は温い思考に逃げてるのかという視線を向けるが]
…………ども
[軽く手を上げ、お礼の気持ちを示す]
[大皿を運んで来たショウを見ると、一瞬、目を瞬かせた]
………君が作ったのか?一ノ瀬先輩。
[相変わらずちぐはぐな口調と呼び方で問いかける]
…って、何かまた増えてるし。
ミズクラゲに、………天野か。
[声が鈍ったのは、
苦手としている相手だからと、
昨日の事を思い出したのと、両方。]
そーだけどー。
こー見えても調理部デスー。
[ふいっと視線を逸らすと、へたっているウミを見て]
………調子、悪そーだな。
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