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−客室−
[とろとろと。甘い、眠りの中。 夢を見た気がする。
――やがて、腹の虫が生きる為に激しく鳴いて。彼は目を覚ます。]
……んー。ごは…ん……。
[寝ぼけたまま、ぼんやりと辺りを見回す。
サイドテーブルに散るパンの欠片に、手を伸ばして。緩慢な動作で口に運び、]
……っ、けほっ…!
[咽て、涙目に。]
ネリー……
[迷いの表情][誰であるか分からない、と言った]
[黒尽くめの男が][花籠を差し出す其の動作に]
[びくっ][思わず後退り][懼れ]
ギルバートさんと仰るのね。
わたしのことはローズと呼んで?
[それから神父さまの言葉、ハーヴェイの言葉に]
ん、そうね。
ネリーさんに聞けば分かるでしょうけど……
浴室まわりにはありそうね
探してみる
[さしだされたその果実には]
ん、わたしはいいわ。あなたが食べて
―*→一階*―
[ハーヴェイの言葉は耳に入ったものの]
[近くに居る黒尽くめの男への]
[激しい嫌悪感][恐怖][の為に]
[返事をする余裕も無く]
お下げ髪の女性の方です。
色々と任せ切りで申し訳無いのですが。
[ 首を僅かに傾けた儘に男――ギルバートと名乗った彼に掛ける言葉は人当たりの好いもので、一階へと向かうローズマリーには服を抱え直し片手を振って見送る。]
……また脅えられていますね?
[ ルーサーに苦笑を零して、突き出された花籠には矢張り首を振る。]
俺も遠慮しておきます。
[堰が治まった時には、彼の目もしっかりと覚めて。]
……ぁれ? ボク、どうして……?
[温かな布団に包まれている自分に気が付き、小首を傾げて。
見渡せど室内にない、その姿を、呼ぶ。]
…お兄さん……?
[返事はなく、その視線は扉へと流れ、沈黙。]
――客室――
[少女が目を覚ますと、既にルーサーの姿は無く。
一瞬だけ不安に煽られ部屋を見渡せば、机には一枚の紙が動いた空気によってその存在をアピールする]
…神父…さま?
[かさり――]
[乾いた音を立てる紙を手に持ち――]
[少女はその紙と小さな契約を結ぶ]
やれやれ。すっかり嫌われたものですね。
おいしいのに、苺。
[花籠を引っ込め、肩を竦めて笑う。]
ま、私も考えたい事が色々御座いますので、失礼しますよ。
[会釈した後、ふらふらと一階へ。
花籠を持っていない方の手には、*やはり聖書が。*]
―廊下→一階―
[ ルーサーが立ち去るのも見送りはしたものの、視線は一瞬片手の聖書へと向けられたか。ギルバートが青年の名を紡ぐのに、緩やかに瞬いて頬笑む。]
……ええ。
[ 其の肯定が何を意味するのかは曖昧ではあれど、微かに返しながら然う声を零す。然し汗が引けば訪れるのは寒気で、つい立ち話をしてしまったがそろそろ着替えねば拙いかと思う。]
俺も、失礼しますね? 此処で待っていれば、大丈夫かと。
[そろり、そろり。
音を立てぬよう、扉へと近づいて。耳を当てる。]
『……だれ…?』
[青年が出て行った=内鍵は開けられたと気付かぬまま、夢で見た言葉を思い出して。その声を拾おうと。]
[身支度を整えながら、少女は昨夜広間からの帰り道の事を思い出す。]
[握られた大きな手。そして部屋での子守唄。
初老の、僅かに掠れたテノールに乗せられた歌声に、少女は在りし日の父親の面影を重ね――眠りに落ちていた]
モーツァルトの子守歌なんて…もう久しく聴いてなかったな…。
昔はよく父が…母が…歌ってくれてたけど…。
[くすり――]
[笑い声は日差しが差し込む室内へ――]
[ふわりと――]
[優しく宙を舞う――]
[――漏れ聞こえたのは。
渋い声の、失礼するという言葉と、遠ざかる足音。
よく知っている青年の、失礼しますねという声と…やがて扉が閉じる音。
それから、昨日少し聞いただけだから自信はないけれど――
怪我してるお兄さんの、こえ?]
……おにいさん…?
[扉に凭れるように呟けば、体重を預けられた扉は緩く軋んで、やや隙間を広げ。ぴょこと頭を覗かせたように見えるだろうか。]
[後ろから聞こえた][声]
[歳若い少年のもの]
[キイと][何かの軋む音]
[振り返ると][ひょっこりと覗く]
……トビー?
[しっかりと嵌めた手袋越しに錆びた鍵の重量が伝わる。
脳裏に“人狼審問”の言葉。
牧師――否、異端審問官を名乗っていたか、彼に頼り切るつもりは彼女にはなかった。第一あの男が人狼でないと誰が言い切れる?
けれど開かない扉は実際にあるのだし、武器庫の話は嘘ではないのだろう。
審問が、本当に行われるのであれば――]
[エプロンのポケットに、鍵を滑り込ませた。かさり、という音をたてて]
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