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─二階・個室─
……いやだっ!
[絶叫。それが、夢想を破って。
繋がる意識。目の前にあるのは、少なくとも、それまで見ていたものではなくて]
あ……。
[呆けた声。身体の力が、一気に抜ける心地がした]
[オトフリート、アーベル、イレーネ。
皆がそのままだと告げる。
確かにアーベルが言う通り、外は危ないだろうけど]
幾ら雪が覆うからってさ。
あのまんまはやっぱ、寒いよな。
[カップを煽り、ワインを空にして。
イレーネの魂は鎮まったかもという言葉に少し首を傾げたけれど]
俺、ちょっと行ってくる。
[席を立ち、掛けられていた上着を取る。
恐らくは自衛団員の替えの物だったのであろう上着。
簡単に着込めば扉を開け、外へと]
―居間→集会場外―
私も、行きますよ
[ユリアンが行くのを見て、あわてて後を追う。]
[先ほどのワインがきいているのか、幾分かしっかりしたようで]
―→集会場外―
[心拍があがっているのがわかる。重度の発作。
右の肩が熱く、疼いて]
いやだ……俺は、もう……。
[震える左手で、右肩を掴む。仔猫の不安げな鳴き声も、今は届かなくて]
あ…待…
[彼は、外に出て行くユリアンとオトフリートを追おうと、立ちあがる。しかしその足からは再び力が抜けていて、かくりと、床に膝をついた]
う〜…
[俯いて、唇を噛み締める]
[人狼。またその単語が耳に残った。
連れてこられるその日にも、その単語は聞いていた]
…ちゃんと、聞いておけばよかったかな。
[広がる惨状。
視線の先には、自分を此処へ連れてきた自衛団員]
[後ろから追ってくる足音に振り返る]
オトフリート、大丈夫か?
何か…具合悪そうに見えたけど。
私は、大丈夫です。
[さっき、驚いただけですから、と]
[それから]
…埋めて、あげましょうか
[ぽつり、つぶやく。雪に目を落としたまま]
[出て行くユリアンとオトフリートを見送り]
[膝をついたアーベルを見、立ち上がり、傍にしゃがみ込んで]
………大丈夫……?
[不思議そうに、首を傾げて]
そっか…
[似たようなもんだな、と苦笑を零して]
……うん。
[何処からかスコップを調達して。
赤い雪に横たわる彼らを踏まないように移動する]
…何処がいいと思う?
[埋める場所、と付け足すように呟く]
…ここだと、誰も、近寄れなくなりそうですから
裏手にでも、穴を掘りますか?
石でも置いたり、木を目印にしたり…
お供えもしないといけませんね
[目を閉じて、一度、祈りを捧げる]
[彼はイレーネに声をかけられ、ふると頭を振って立ち上がる]
うん、大丈夫。ちょっとお腹が空きすぎちゃったかも。
[えへへ、と照れたように笑って]
イレーネはお腹すかない?目玉焼きくらいなら僕にも作れるからさ。
ん、じゃあ其処にしよう。
目印は俺が彫ったヤツでよければ、木がある。
あんま…見栄えいいヤツじゃないけど。
[足の下で雪が鳴る。
赤と白の混じった雪が足の形に踏み固められて残る]
―→集会場外・裏手―
[自分もスコップを持つと、雪の音をききながら、移動する]
―→集会場裏―
人が作ったものだったら、彼らも、喜ぶでしょう。
墓標、ですから
[そして、端の方に、スコップを突き立てる]
[彼女はしゃがみ込んだままに、アーベルを見上げて]
……ん…、空いて………る、かな……?
[曖昧な答え。]
[じ、と笑うの彼の顔を見詰め]
……………こわい?
[彼は丸く目を見開き、息を呑んで、イレーネの顔を見つめ返す]
………うん、怖いよ。
[吐息のように吐き出される言葉。嘘ではない笑みを浮かべて]
[オトフリートの横、少しずれた場所を掘る。
白い雪を掘り進めていけば、その内に土に辿り着く]
墓標、か…
……もう少しちゃんとしたの、彫ろうかな…
[練習用のあれじゃあ申し訳ない、と]
狼の群れが自衛団の人を襲ったんだ。
今、外でオトフリートとユリアンが御弔いしてる。
[端的に伝えながら、そういえばハインリヒは自衛団長と個人的な付き合いがあったのだと思い出し、彼は顔を曇らせる]
……………そう。
[ゆる、と立ち上がって。
幼馴染がよくするように、手を伸ばし、彼の頭を撫ぜて]
……怖い、ね………
うん、怖い……
………皆、怖いと………言う……声………
[視線は緋に染まった窓へと向けられ]
[ハインリヒの存在に気付くも、挨拶をする間もなく、飛び出していく]
時間が、かかるでしょう?
[ユリアンに、哀しげな微笑を向けて]
その気持ちだけでも、彼らには嬉しいと思います。
私には何もできませんから、後で、料理を供えましょうか
[たどり着いた土を、深く、掘り進める。冷たさに、手が赤くなる。それでも…]
[どれだけの間、震えてたのか、自分でもわからない。それでも、だいぶ震えは鎮まって]
……くっ……確かめ……ねぇと……。
[周囲のものに掴まりつつ、立ち上がる。
今、起きている事。それが、消せない『記憶』と合致するのか。何としても確かめないと。
そんな思いから、部屋を出ようとするものの]
……っ……!
[ドアまでもう少し、という所で足がふらついた。がたん、と。派手な物音を立てつつ、扉にぶつかってその前に座り込む]
……ザマ、ねぇな……。
[嘆息。それでも、どうにか扉を少し開け]
……ペルレ、下行け……誰かは、メシ、作ってくれるだろうから。
[心配そうな仔猫に静かにこう言って、下へと送り出す。自分はその場に座り込み、嘆息]
[頭を撫ぜられて、僅かに顔が歪む。イレーネの手を押しとどめるように掴み、彼は首を振る]
違う…ダメだ。僕は違うから、イレーネ。
[飛び出していくハインリヒを見送り、目を伏せる]
…ごめんなさい…
[アーベルの声が耳に届くと同じくらいに、開けたドアからの惨状。]
…な……。
[雪を染めあげるいくつもの遺体。
…そのなかにある、見知った顔。
思わず膝がくずおれる。]
ちっ…く…しょぉぉぉぉぉぉ!!!!
[*握り拳を叩きつけても、ただ白い雪が舞うばかり。*]
そりゃま、確かに。
[丸三日かけてようやく一本。それが限界。
痛みを訴え始めた指先に息を吐きかけるだけで誤魔化して、更に深く、暖かな大地へと]
料理、喜ぶと思うな。
[ざく、とスコップを突き立て、一度手を止める]
…皆一緒のが、あったかいかな?
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