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アーベル、ありがとー。修道士さんも、また。今度は何か買いに来て下さいね。
[露店から去る二人を見送って]
師匠、その鈴しばらく借りてもいいですか?
[アーベルが演奏に使った鈴を指差して。許可が出れば、露店で売り子をしながら時折、鈴から鈍い音を*鳴らすだろう*]
こちらこそよろしく。
[音楽を楽しもうとする人が増えるのは純粋に嬉しい]
[だから笑顔には笑顔を返すことができた]
[去ってゆく二人の青年には挨拶を返し見送って]
ああいいよ。
[鈍い音は広場に響き渡るとまでいかないが]
[何度か通るものの足を止めたりも*するのだろう*]
―宿屋/食堂―
[ピークからは、やや外れた時間。
カウンターではなく隅の一席に腰を下ろしたエリザベートは、結わえた髪を肩上に通して前へと流し、指先に絡めていた]
あ、枝毛。
[片手を添えて、ぴっと裂く。躊躇いもなく抜いた。
摘まんで弄っていると、軽食を運んで来た宿の主に「手入れをしろ」と忠告されて肩を竦めた。混雑時には給仕があくせくと働いているが、今は彼一人でも十分なようだった。
楽団の休憩時間からは外れた時間の注文に、彼は何も言わず去っていく。こちらが言わなければ、相手は何も言わない。昔から、変わらなかった]
[外の喧騒は遠い。
パンを齧りミルクで喉を潤した。
焼きたてからは大分経っていて、少し硬い]
[指先が机を叩く。一定のリズムを取っていた。
簡素な食事はすぐ終わり、皿の上は空になる]
ねえ、フーゴーさん。
どうして、この仕事に就いたの。
[――親父の真似だよ。
一拍の沈黙の後に素っ気なく言い、主は食器を片付けていく。続きはあるようだったが、語られることはなかった]
楽しい?
[組んだ両の手に顎を乗せ、窓の外を眺めやる。
弟はもう練習所に戻っているだろうか。
太陽が角度を変え、自衛団長失踪の報が告げられるのは、*まだ先の事*]
―どこかの屋根の上―
[広場を離れた後、練習所に戻る気にもなれず。選んだ居場所は屋根の上]
……。
[ただ、鈴を鳴らしただけの演奏。
それでも、それは楽しくて。
集まっていた人たちの声や表情が、嬉しかったという実感。
それらが余韻として残っていた]
俺は……。
[奏でるのが、それで導けるものが好きで。
でも、それと共に求められる『形』は嫌で。
目を閉じて漏らすのは、嘆息]
いい加減……決めないと、か。
[小さな呟きを聞くのは、傍らの隼だけ]
……ん?
[不意に感じたのは落ち着かないざわめき。
閉じていた目を開き、そ、と手を上に差しのべる]
……どした?
[短い問い。向ける相手は揺らぐ風。
明確な答えはない。
伝わるのは、ただ、不安]
……なんか、あったのかな……?
[呟きは、不安の陰りを帯びる。
伝わる不安が、いつか感じたものと*似ている気がして*]
─広場・噴水傍─
[手巻きタバコを一本、吸いきるまでそこで休息を取る]
[頭の疲れと身体のだるさ]
[休息によりそれらはだいぶ楽になってきた]
…そろそろ行くか。
ったく、制約やら疲労やら、代償がでかいもん寄越しやがってあの婆。
[短くなった手巻きタバコを弾き燃やし尽くしながら舌打ちをした]
[尤も、その代償の分の能力を有しているのもまた事実である]
[新たな手巻きタバコを作って咥え、火を灯し]
[徐に立ち上がると両手をジーンズのポケットへと捻じ込み]
[ゆっくりとした足取りで広場を出て行く]
[向かう先は、自衛団詰所]
─ →自衛団詰所─
[一応二度のノックの後に詰所の扉を開け]
[中に居た団員に隻眸を投げる]
……団長は居るか?
[ぴり、とした空気にいつもの挨拶もせず本題を切り出した]
[返ってきたのは否定]
[ある時を境に誰も見ていない、と]
……嫌な予感ほど的中すると言うが。
なぁ、誰か目撃者とか居ねぇのか?
[動揺の走る詰所の中]
[一人冷静に情報を集めようと]
[詰所に居る団員に*訊ねかけて行く*]
―どこかの屋根の上―
[落ち着かない風の感触。
それが掻き立てる不安は、じっとしている事を良しとせず]
……爺様んとこ、行ってみるか。
何か起きてるなら、あそこに流れてるはず。
[口にした当人に異変が起きているとも知らず。
花弁舞い散る風の中、最短ルートで詰所へと走り出した]
― →自衛団詰所―
[屋根の上を身軽に駆け、目的地の屋根もわずかに踏んづけてから、路上へ飛び降りる。
一歩遅れて、ついて来た隼が肩に舞い降りた。
どこか慌ただしい雰囲気の詰所、その扉を開いて]
爺様、いるかっ!?
[開口一番、問いを投げかける。
返されるのは、否定。
逆に、団長を見かけなかったか、と問われ、困惑する]
え? 見かけなかったか、って、見かけてたらここに会いに来るかよ!
……なんか、あったの?
[問いに答え、更に問いを重ねる。
答えとしてなされた説明に。
蒼に浮かぶは、*不安と困惑*]
─自衛団詰所─
[居る団員から粗方の話を聞き]
[少し整理すると言って椅子を一つ借り腰を下ろす]
(…俺が最後に視たオッサンの記憶はなんだった?)
(視たのは事件絡みのものだけ)
(オッサンが誰かに聞き回ってる記憶──)
[術で垣間見た記憶を思い出す]
[そう言えば、最後に視たのは単なる見回りの記憶ではなかったか──?]
[思い当った違和に再度頭の中の記憶を整理する]
[見回りの最中、驚きの声と表情]
[その直後にぶつりと記憶は途絶える]
[垣間見えたそれに、まさか、と小さく呟いた]
……浚われた可能性は高い、か。
[もう一人、詰所へと駆け込んで来る人物の応対をしている団員の中]
[その呟きは周囲にも聞こえただろうか]
[呟きの後、団員の説明を受けている青年へと視線を向ける]
(このタイミングでオッサンが浚われる理由)
(嗅ぎまわるのを邪魔に思われたか、何かを目撃したか)
(どちらにせよ、俺に矛先が向くのも時間の問題かも知れん)
[裏の人間を始め]
[いくつか会話を交わした者には己が事件を調べていると言うのが知れている]
[その中に犯人が居るのなら、いつ手が伸びてきてもおかしくはない]
[そんなことを考えながら、隻眸は青年を見つめ続け]
[今までの彼の言動を思い返す]
[記憶の限りの言動で、不審な部分は無かったかどうかを見極めるように]
―???→―
[少女はベランダや屋根を直走り、自宅へと戻る。
首から提げた財布はぴたりとした服の中、揺れ音を鳴らすことも無い。
小柄な少女は誰にも見つかる事無くことを終えて。
養父の帰らない自宅、自分の屋根裏部屋へと戻った。]
[自警団長が姿を消したのは、仲間とのパトロールが終わって詰所へ戻る途中。
仲間からは、パトロール最中の健在と、報告に戻る筈が未だである事が聞けるだろう。
彼が何処に消えたのか、彼がパトロールの路を外れて何処に向かったのか。
残念ながら目撃者はまったく居ないし証拠も綺麗に消えているのだ。
まるで魔法でも使ったかのように。]
[彼女は、養父が戻らぬ家の屋根裏部屋。
キラキラと光る硝子細工の沢山並んだ部屋で
大分長い時間、ひとりで 過ごしたのだった*]
―広場・露店―
[良音とは言い難い鈴の音]
[止まる足は好奇からのものが多いだろう]
そろそろ片付けようか。
[声を掛けた頃も広場は未だ賑やか]
[ただ祭りの時期にしては少し人の減りが早かったかもしれない]
[一番新しい噂までは届いていなくても]
ここから宿までなら大丈夫かな。
用事が出来たから先に戻っていてくれるかい。
[朝と同じだけの荷物を持って]
[向かったのは一軒の工房を兼ねた家]
はい、随分とご無沙汰しました。
[突然の来訪に驚いている女性に謝る]
忙しい時期だとは分かっていますが、こちらも祭りが終わって離れる前に欲しいものがありまして。俺は楽器のことは門外漢だから信頼できる人に頼みたかったんです。
お願いできませんか、モニカ。
[宿に戻る頃にはすっかり暗くなってしまう*かもしれない*]
……視るまでもねぇな。
余程の演技者じゃねぇ限りは。
[ふ、と短く紫煙混じりの息を吐いた]
[先日の自衛団長とのやり取り][去り際に聞こえた言葉]
[青年が犯人ならば、あのような言葉は出て来ないことだろう]
[今のところ青年を疑う必要はない]
[しばらく探し回っても見つからないのであればあるいは、と言う判断を下した]
…おい小僧、良く聞け。
自衛団長は失踪事件の犯人に浚われた可能性が高い。
俺が団長から聞いた話を教えてやる。
[相手の反応もお構いなしに自衛団長から聞いた情報を青年へと伝える]
[犯人の人数、街の有力者が関わっている可能性]
[それを己に伝えた後に姿を消したこと]
[途中から詰所へと戻ってきた団員から、パトロールの間は一緒に居たことも伝えられるだろうか]
…一人になった隙を狙われたか、もしくは誘き出されたか。
どちらにせよ、団長の存在が疎ましくなった線が濃いな。
さて小僧。
団長まで掻っ攫った犯人探し……やるか?
やるなら、手ぇ貸してやらんでもねぇぜ。
[隻眸を青年へと向け、そう申し出る]
[青年の感情を利用し、あわよくば矛先のスケープゴートにしようとしている部分は*あるかもしれない*]
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