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― 宿屋/昨夜 ―
[ウェンデルに向けられた笑みには何を感じ取ったのだろうか。
細い目で見て返し]
だからこそ、やる価値があるんだろ。
人狼があの程度の傷で死に至るかね。
人であっても、化け物に加担してりゃ正気じゃねえだろうしなあ。
死んでも身の潔白を証明したかった、とかかねえ。
少なくとも、今あいつのために動いてる奴には有効なんじゃねえの?
[肩を竦めたところでフーゴーの声。
過去の系譜に話が触れられれば]
……まだいるかも知れねえってのかい。
[だとすればアーベルが、とは口にせず。
それは意味のないことだと知っていたからか]
何れにせよ、もう必要ないかねえ。
あいつを信じて、仲良く死にたいっつーなら。
仲良しごっこで救われるんなら、勝手にやってくれ。
俺は人狼に大人しく殺されるまで黙ってるなんてしないぜ。
自分の手で見つけて、殺してやるよ。
[やがてフーゴーが宿屋を出るのを見送ると、先に休むと次げてウェンデルに手をあげる。
足はいつもの角部屋へと向けられた]
[部屋へ戻り、取り出した木箱を開く。
小さな小瓶がいくつかと、真珠がふたつ]
[その片方を摘み上げ。
――真珠は美しく、黒の輝きを放つ]
俺は、自分さえ生きられれば誰が死のうと関係ねえ。
[ふと掠めたのは、約束*]
─回想・自衛団詰所─
[詰所へと向かうと、複数の団員達が詰所の中から出て来るのが見えた。彼らはフーゴーの姿を見つけると足を止める]
…うちに来るつもりだったか?
その必要は無ぇ。
……人狼を仕留めた。
つってもてめぇらが見ても判別はつかねぇだろうがな。
ともかく、今日の処刑は既に済ませた。
うちに来る必要は無ぇ。
[厳しめの視線で団員達を見返しながらフーゴーは言葉を紡ぐ。それに対し団員達は「本当か?」「じゃあもう人狼は居ないのか?」などと言いながら顔を見合わせている。「処刑の確認だけでもさせろ」と言われると、フーゴーは首を横に振る]
もう弔わせた、見せることは出来ねぇ。
……てめぇらもう顔出すな。
憎しみの連鎖に巻き込まれるぞ。
てめぇらは既にダーヴィッドを強制連行したことで恨みの対象になってる。
自分の身が可愛かったら、全部終わるまで大人しくしてろ。
それに、人狼は何匹居るか分からねぇんだ。
今回ので終われば良いが……な。
[否定の言葉に続いたのは脅すかのような言葉。たじろぐ団員達も多い。そんな中で怖いもの知らずなのか、人狼を埋葬したことに文句をつけて来る奴がいた。「団長を殺した奴を弔う必要なんてねぇだろ!」と声を荒げている]
……喧しい!!
人狼だって人だってなぁ、死んじまえば同じなんだよ!
人狼だった奴だって、普段は人だったんだ…!
[いつしか自衛団員達を見る目は睨みに変わっていた。過去の記憶が甦る。それが一層睨みに拍車をかけていて、その威圧感に声を荒げて居た団員も身を強張らせ、一歩引いた。しばらくの間団員達を睨みつけていたが、ふっと視線をそらし、背を向ける]
………もう一度言うが、騒動が沈静化するまで宿には来るな。
来たら……もしかしたら、俺がてめぇらを殺しかねねぇ。
[振り返らぬままに告げて、フーゴーは宿へと戻って行った。気迫に気圧され立ち尽くす自衛団員達。しばらく茫然としたのちに、宿へは向かわずに詰所へと戻って行った]
…胸糞悪ぃ。
連中、結社と同じようなこと言いやがって…!
[左手で胸元の服をぎりと握った。苦々しげに眉根が寄る。宿屋へと辿り着き、中へ入る前に一呼吸置いてから扉を開いた。戻った時にはもう人影は少なくなっていたか。リッキーに指示を出し片付けると自室へと戻って行った。その日もまた、壁に背を預けるようにして一夜を過ごす]
─翌朝・酒場─
[起きた時間はいつものように。客足が無いのが分かっていても、常の行動は崩せなかった。カウンターで溜息に似た息を吐いていると、酒場の扉が開いた。そこに居たのは血に濡れたヴィリーと、抱えられたゲルダの姿]
ヴィリー、おめぇその格好…。
[どうした、と問う前にヴィリーからゲルダが殺されたと聞かされる。人狼がまだ居る、と。瞬時に表情から色が消え失せた]
……まだ、居るか。
一匹じゃ、無かったんだな。
[可能性として考えてはいたが、これ以上起きて欲しくは無いと言う希望も少なからずあって。声にはやや落胆の色が乗る。ゲルダを寝かせる場所を、と頼まれると少し悩んでから、リッキーにダーヴィッドが使っていた部屋を空けて来るよう指示した。支度が終わればリッキーがヴィリーを呼びに来る]
外の壁にメッセージ、だと?
……そうか。
…ヴィリー、誰かの命を奪う覚悟があるなら、これを貸してやる。
純銀製の短剣だ、人狼には絶大な効果がある。
もちろん、人の命も奪える。
奪う覚悟があるなら、受け取れ。
[ヴィリーを試すように言いながら、腰に差していたスコルピウスを取り出し、彼の目の前に突き出した。ヴィリーが短剣を受け取ろうが受け取らまいが、そのやり取りの後にフーゴーは外の壁にあるメッセージを確認しに行く*ことだろう*]
─宿屋─
[リッキーから部屋の準備が出来た、と言われれば世話をかける、と頭を下げ。
ゲルダを連れていこうとした時、フーゴーに引き止められる。
そして眼前に出されたものは、彼の左腕に巻きついたものと同じ煌きを持つ短剣だった。
そして、覚悟があるなら受け取れ、と告げられれば、手を伸ばしかけて、一旦思い留まり。]
…俺に渡して…良い、のか。
俺が、人狼かも、しれないんだぞ。
[人間だという証を立てられているものは、フーゴーにクロエ、ユリアンだけだった。
自分のことを信じると言ってくれた彼女は、腕の中で冷たくなっている。
知らず、抱きしめる手に力を込めて、フーゴーを見つめ。]
[つかの間、沈黙が続き。]
俺が、疑わしいと思ったら。
迷わず、殺せ。
[そう言って。
改めて手を伸ばすと、差し出された短剣を受け取った。
命を奪うだけでなく、奪われることも念頭に置く。
それが、己の覚悟を示す言葉だった。]
…ダーヴィッドを殺したのは、自衛団員で。
ライを殺したのは、アーベルだった。
俺は、どちらも許せない。
だが、どちらの言い分も、解る。
…でも。
ゲルダを殺したのは、人狼で。
こんな、ことをしたモノを、俺は、許せない。
だから。
[そう言うと、短剣を懐にいれ。
ゲルダをダーヴィッドの部屋へと運び、そのまま傍を*離れないで。*]
―回想―
生きて…。
[手当てをしてもらったことで死の影は消えていた。
許せないと言った、その人物から言われた言葉は重たかった]
…ああ。分かった。
全力を尽くす。
[ヴィリーの顔を正面から見て頷いた]
―回想―
[ゲルダも近くにはいたのだろうか。
何か言われれば小さく煩いとか返しもするだろう。
ただ言い合いにはやはりならない。一抹の寂しさすら感じた。
それもまた自分のせいであると分かってはいても]
厄介をかけた。
…気をつけて。
[戻るというヴィリー、あるいは途中までついてゆくかもしれないゲルダに向けて言った。
そしてクロエと二人になってから。その問いは投げられた]
……俺が知りたかったから。
疑ってもいたんだろうな。もしかしたらお袋みたいになっちまったんじゃないかって。
夢に生活を蝕まれてるんじゃないかってさ。
[近しい相手でないと視れそうになかったのも嘘ではない。
けれどやはりそれだけでもなくて。
天井の一点をじっと見つめ答えた]
占いは親父との接点だから…もう二度とやらないつもりだったんだ。それでも、やらなきゃいけないんだと思った。
最初は前の日にフーゴーの親父さんを視ようとしたんだけど、手が動かなかった。どうしても集中できなかった。
だから仕切り直して。集中してたら…クロエの顔しか浮かばなくなってた。
[ハ、と嘲う]
馬鹿だよな。いくら似てきたからって、クロエはクロエなのに。
見方が一つ違っただけでこのザマだとか。
お前のことしか考えられなくなるとか、よほど俺の方がお袋と一緒だ。
―昨夜・宿屋内酒場―
――……人狼は、人でも、ある。
[フーゴーの言葉を反芻し、眼を伏せる]
[同じ様な言葉がアーベルによって囁かれたのも耳に入って]
[けれど、其れ以上、其の事について口を開くことはせず]
[成すべきこととばかり、死者に向き合う]
必要そうなら、手を、借りるかも。
[人狼に貸してくれる手があるかは分からないけれど]
[誰にともなく、そう告げた]
[ふたりをとむらったのは、森の奥ふかく。
あまり人目につかないだろうことと、かつてライヒアルトに取材をしたとき、こういった場所を好んだのをおもいだして]
――……、ずっと、いっしょね。
[ふっと、うかんだ言の葉を、思うまま口にだした。
組んだゆびさきは、いのりのかたち。
月明かりをみあげたのなら、そこから去って]
―翌朝―
[目覚めて、袖を通したのは、これまでのドレスでは無く]
[男物の服]
[黒の色彩の其れは、教会へ向かう時や]
[死者を悼む時に男が着るもの]
――……血の、香り。
[別荘を離れて、宿に近付いたのなら香る其れ]
[足を止めて、路地の奥を見た]
─酒場─
……おめぇが人狼なんだったら。
どうして自分が手に掛けた者を大事そうに抱く。
どうして大事な者を手に掛けた相手をそんなに憎める。
おめぇが人狼だとしたら、矛盾しすぎてんだよ。
もしそれが演技だとしても……俺はおめぇのその眼を信じてみたくなった。
[短剣を差し出したままヴィリーの隻眼を見つめる。しばしの沈黙の後に、ヴィリーは彼なりの覚悟を口にしてから、銀の牙を手にした]
…ああ、勿論だ。
[覚悟にはヴィリーを見据えたまま承諾の意を向けて。続く言葉も静かに耳にする。それには何も言わず、ゲルダを部屋へと運ぶヴィリーを見送った]
………甘い、よな、俺も。
この歳になってまだ一時の感情で動いちまう。
おめぇの眼に突き動かすものを見たってことにしといてくれや。
[ヴィリーが居なくなってから、彼に短剣を渡した理由を呟く。これで身を護るものは無くなった。無いことも無いが、それは本当の最終手段]
…残る人狼は、誰だ。
[身の証明の立っていない者と、一時的に人間と言われた者。それらを思い浮かべながら、フーゴーは右手で左腕を擦った。そうしてから宿屋の外へと出て、壁のメッセージを確認しに行く]
[其処に死者の姿は無い]
[唯、大きな血溜まりと、二つの紅文が遺されるのみ]
酷い、状況……。
[持ち上げた指先が、白手袋越しに唇に触れた]
―回想―
馬鹿なことをしたのは、分かってる。
冷静さを誰より失ってたのは俺だな。
誰より先に水底に沈んじまうような奴だ。
[けれど、と続けて]
それでも最後まで抗う。
ヴィリーにもそう言ったからな。
[クロエを見る。その顔にも疲労は見て取れた]
後は大人しくしてるから。
クロエも休めよ。
[ついてる、と頑固に言い張られれば苦笑して。
眠った振りで相手が眠るのを待ち、毛布を掛けたりもするだろう]
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