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―エルザの家―
ミハエル!エルザ!いるか!?
[ユリアンとともに駆けて来て、家について開け放たれている家に入り言う。家の中はがらんと暗く静かで、誰も居ない。ただ中庭に続く扉と漂う濃密な香り。それを辿るように中庭へいけば
そこにはあったのは濃密な香りの下である咲き乱れる桃の花。]
…あ……あ…ぁ……
[ユリアンが壁を殴る音もどこか遠い。
信じたくない。それ以前に考えたくもなかったのに。そこにおかれている絵を見て言葉をなくす]
どうして、笑うのって?
不思議な事を、聞くのね?
[ふふ、と笑いながら
鞄を抱えたまま、ゆっくりと立ち上がる。
白いワンピースについた土や白い綿毛が、ぽろぽろふわりと落ちた。]
不幸じゃないときは、わらっていればいいの。
そうしたら、不幸もしあわせになるのよ。
[笑みは絶えず、浮かべたまま。
不思議そうに首を傾けた後、また、わらった。]
[頭が白く。音が遠く。ただ妙に己の心臓のなる音が高く聞こえて]
……馬鹿が…そんなに空に…
[いきたいのか。といいかけて止める。手段は褒められたものではない
でも己だって空に行きたくて。その想いが叶うかどうかわからずいた…いや、心のどこかでは諦めていたかもしれない。とも思えて先がいえなかった。ただ]
空には…外には…何があんだろな
[己にとっては必要以上に明るいかもしれないし、何もないかもしれない。今より楽しいのか辛いのかさえわからない。
だがそんな実物ではなく。エルザは空に何を夢見たのか]
……――っ
[ミハエルの言葉にはっと息を飲み表情を硬め、
くるりと後ろを向き、走ろうと足を踏み出す。
回った表紙に白いワンピースがふわりと広がった。]
[ぎり……。歯噛みする口からは一筋の血が滴り落ちる。]
……何で、だよ。
何で……リディも、エルザも。俺に何も言ってくんねぇんだよ。
[──ぞわり。右腕の呪いの模様が蠢き、]
……そんなに。そんなに、俺のこと信じれなかったんかよ!!
【びしぃぃぃっ!】
[右手を叩き付けた壁。そこを中心に蜘蛛の巣状の亀裂が壁全体に走る。]
待って!
[制止の声を飛ばす。
その背が駆け出す前に、腕を掴もうと手を伸ばした]
今ならまだ、誰にも言っていない。
誰にも、言いませんから。
[悟る者はいたかも知れないけれど、それは事実]
…だから、返して。
[呆と。絵を桃の花を見ていて、そのせいか。いつもなら絶対しないように心がけているのに左目でヒカリゴケを捉えてしまい痛みと軽い頭痛が襲う。
反射的に左目を手で覆う。気持ち悪い。深く息を吐く。
だがおかげで正気に戻れた。だから]
あの馬鹿娘が何を思ってたって関係ねぇ。
[後何人の力を封じたら伝承にあるとおり登れる?町にある全ての人間を描いてもできないかもしれない]
…はたいてでも取り戻す
[腕をつかまれて
髪とスカートの裾が、ふわりと体から遅れて戻る。
急な制止に、たたらを踏んで止まり振り返る。
ふるふると、顔を横に振り]
…いや。
せっかく、もらったのに。
[ミハエルの目を、じいい、と見た。]
なっ!?
[自身が招いたその結果を呆然と見る。]
……う、ぐぅっ。
[同時に襲い掛かる、ぞわりとした悪寒にその場に座り込む。
ガクガクと震えていたが、脂汗を流しつつ立ち上がると、]
……行かねぇ、と。
[そう呟き、歩き出す。向かう先は、綿毛草の畑。]
そんなん知るか。戻して、問い詰める。そんだけだ
[直後にユリアンが壁を殴った光景にはさすがに呆然として]
おいっ!無事なのか………まあいい。ちょっとぐらい無理しろ
今は、な。
[どうせあそこだろ。と向かうのは綿毛草の畑]
うん、そう。
あたしが、もらったんだもの。
[こくり頷いて、
鞄を胸で抱く腕に、力を入れた。
つかまれた片腕を抜こうと、引く力を入れる。]
─綿毛草の畑─
[右腕を押さえながら、たどり着く白の世界。
そしてその只中で対峙する蒼色と金色。]
エルザァァッ!!
[声の限り叫ぶ。]
[手を掴む力が緩んだ隙に 腕を強く引いて抜き、
直後、ユリアンの声が聞こえたけれど、その声が鋭く聞こえたから、
振り返らずに、駆け出した。]
やだ、…!
[土の上、白の中、力いっぱい走ろうと足を出す。]
─綿毛草の畑─
………
[ユリアンが叫ぶ声を横に立ち入り禁止とされている境を飛び越えて走り、駆け出したエルザを捕まえようと手を伸ばす]
…ユリアン?
アーベルも、どうし、
[響く声に、目を見開いて振り向き。
振りほどかれた手]
…ッ、待…
[逃げ出す背を追いかけようと、駆け出そうとして、
ふ、と視界が白く染まる]
[考えてみれば、朝からまともに食事も取らず。
それで今まで走り回っていたのだから無理もない]
く、
[戻った視界に遠ざかろうとする蒼が映るけれど、すぐには動けず。
その場に膝をついた**]
[アーベルの腕に手を取られ
勢いが殺されてくんと引き戻され、
一度体は浮いて、地面へと倒れる。]
…や…!
[ぱっと、白い綿毛が、散った。]
[エルザが倒れた勢いで腕は外れたが、それでもすぐに、逃がさないように寄って]
なんでエルザはそこまでして空に行きてんだ
[絵筆を出せ。と言うより先に出たのはそんな言葉]
[地面にぺたりと座ったままアーベルを見上げ、
きょとり、ぱちぱちと目を瞬いて]
だってあたしは鳥だもの。
だから、空へ帰るの。戻るの。
[言って、
――わらった。]
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