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ん?
ああ。聞いておられましたか。
[穏やかな微笑。]
いやなに、悪い異端審問官が毒で『殺された』理由をね。
恋人の仇打ち、だったそうです。
人狼でもないのに、多数決で決められて撃ち殺されて。
……で。
復讐の矛先は、手を下した異端審問官に。
[グラスの中身を、一口。]
―広間―
えぇ、聞こえていたわ。
……そんなことがあったの。
そんなことをしてもなにも変わらないというのに
[とても悲しいことだと思う。
それから彼を見て]
はなしたいことって、なんだったのかしら?
わたしも、あなたに話したいことがあるのだわ
聞きたいことは一つだけですよ。
あなたは。
[数瞬の沈黙。]
『特別な力』を持っていなくても、相手を信じ抜く事が出来ますか?
仮定の話ですよ。直感で答えてくださって結構です。
[人の良さそうな笑みで。ローズマリーを見やる。]
[ヘンリエッタの言葉に、少女は困ったように微笑んで]
私は疑われたらそれはそれで仕方が無いと思っている人間なの――
諦め…ではないけど…ね。どうしても消極的になっちゃう。
[体を流して、湯船に身を沈めながら…]
実は私も…そこまで疑っている人は居ないの…。
楽観的よね…。アーヴァインさんが死んで…神父様が異端審問官として動き始めたというのに…。
誰一人として疑う人が居ないって言うのも…。
[微笑みは、薄紅色の唇を緩めて――]
[すっと伸ばした指先は――]
[ヘンリエッタの髪筋へ――]
ねぇ、ヘンリエッタさん…。今も…私の事が怖い…?
――ッ!
[軋んだ音。扉の開く音。人の気配。
心臓が跳ね上がる。
いつ誰が来るとも限らないのだから、あまり長居すべきではなかった。だが今更後悔しても遅い。
大丈夫、見ていただけなのだから――まだ]
[恐らくは背後にいるだろう人物に気取られないよう、息を整え。
それからそっと振り返る]
[特別な力。
彼は、しっているのだろうか。
わたしは、じっと彼の目を見る]
人によると答えたいのかもしれない。
でもわたしは、信じられないのだわ
……ママだってそうだったもの
[言わなければと思っていたこと。
すこし、口唇を震わせる]
わたしは、昨日。
……彼を判別したわ。
…………でしょうね。
[一瞬だけ見せた、寂しげな顔。]
結果は仰らなくて結構。
『今も傍にいる』事自体が、証明になりますからな。
[二番目の答えに対して。特に感情の色は見られず。]
[ようやくワインを飲み終わる。
テーブルに両肘を突き、そこに顔を近づける格好に。]
……で。
私の事は、『狼かもしれない』と思わないのですか?
[感情が全く見えない、眼鏡越しの目]
[ 室内には予想通り――或る意味では予想以上――幾つもの武器が並んでは居たが、其れは一見すれば美術館か何かの如くに見えた。然し注意して辺りを窺えば、周囲に漂う香りが僅かに散る黒ずんだ赤い色が其れらを否定し、此れらは美術品等ではない、“実用品”なのだと無言の意志を放っている。
其の只中に深い森を思わせる緑髪の少女は居り、今正に此方へと振り向くところだった。其の表情は薄暗に隠れ見る事は出来ない。]
……あ。今晩和。
[ 擦れた声が僅かに零れ、続いた挨拶は余りにも場違いだった。]
ママは。わたしを占ったもの。
わたしの友達だった子を占わなかったの。
いつも思い出すのだわ
……ママの首がわたしを見るの。
だから信じたいけれど信じられない。
それでももし彼が人狼だったとしたら。わたしは指を切り落としていたかもしれない。
でもあなたのことは信じているわ
異端審問官さん
異端審問官は、人でなければならない
ちがうかしら?
……昔ね
わたしの子どもの頃の話よ
異端審問官だった人をしっているの。
彼は、そう言っていた
それに……
わたしの仕事、あなたは嫌うかもしれないけれど、しっているでしょう?
情報は伝わってくるわ。いろいろと
[振り返る直前、聞き覚えのある声が降ってきた。振り返ると予想通りの青年の姿が目に映り]
あ、ああ。
…こんばんは。
[あまりに普通の挨拶の言葉だったことにやや面食らったか。
それでもなるべく平静に聞こえるよう、言葉を紡ぐ]
それは光栄。
何せ、他の皆様方は大抵疑心暗鬼に囚われていましてな。
昨日の話も、どれだけ真摯に聞いてもらえているのか。
[弱弱しいため息。]
……私はね、疑う事に疲れ始めているのです。
何せ、私の武器はあまりにも限られている。
そして、何よりも。
情が移ってしまった。異端審問官としては、失格なのですよ。
異端審問官は、人で……。
[その言葉を反芻する。]
ああ、その事ですか。
[ぽむ、と手を打ち。]
いえ。買う方は軽蔑しますけど、売られる方を軽蔑する事はありません。
まあ、体にも心にも宜しくないお仕事ですから。
足を洗う事をお勧めしたいのですがね。
[苦笑い。]
……凄い数の、武器ですね
[ 片手には抜き取った鉄錆の鍵。何をしていたかと問うのは余りにも愚直だった。力を行使し生を絶つ為の品々を眺めながら云うも、少女から一定の距離を保つ青年の表情も叉陰になり相手には見えまいか。]
―広間―
このような状況なのだもの、皆は信じたくないだけかもしれません
信じなくてすむのなら……
ん、いいえ。
人が人に情を覚えるのは当然だわ異端審問官としては失格かもしれないけれど……
ねぇ、わたしにあしたがあれば
あなたの情が向く先を、判別しましょうか?
……いいのですか?
[右手で顔を覆う。顎の先を伝う、一筋の涙。]
では。
ウェンディさんを。
私に涙を見せ、父と慕ってくれるあの子を。
[涙を拭い、決意したように。]
まあその人の意見、かもしれないけれど。
幼いわたしには残ってしまった言葉だわ
[それから意外そうにして]
まぁ、かまわないの?
驚いたわ
でももう手遅れね。わたしにはあの仕事をやめることはできない。
それがわたしの……
[懺悔は止める。薄く笑う]
待遇も悪くはないもの
ですね…
…こんな部屋だったなんて。
[改めて部屋に並ぶ数々の武器に視線を巡らせながら、独り言のように、或いは青年に向けた言葉だったのかは定かではない。
彼は偶然、ここを通り掛かったのだろうか。ちらと伺うも、表情は見えない]
今日は、無理だけれど。
あした……で良い?
[名を聞いても顔は浮かばず、しかし続く言葉にわたしはあの子かと思う]
今日は。
トビー君なの。
この指で。
[右手の小指を撫でる]
ええ、構いません。
むしろ、願いを聞き届けてくれた事に感謝したいくらいです。
ローズさん、その。人狼の事なのですが。
[逡巡するが、言葉を続ける。]
人狼が多重人格者、というケースはありうるのでしょうか?
[少なくとも、私が出会った中にはそんな者はいなかったのだが。と付け加え。]
[ 扉を離れれば外から注いでいたランプの光も消え失せる。然し其の刹那、部屋の片隅に置かれた短刀に気付いたか。一歩、其方に足を踏み出して、]
……取りに来たんでしょう。力を欲して。
[“貴女も”と極々小さく先に添えられたのは無意識だったろうか。]
神父様は大袈裟だわ。
[くすくすと笑ってしまう]
……多重人格?
[わたしは困惑する。
すこし、聞いた話の数々を思い出す。]
人狼としてのその人と、人間としてのその人がいるとか、聞いたことはあるかしら。
くわしくは知らないけれど……夢でうなされるんだと言っていたわ。
狼の人格なら、悔いずにすんだのに、とか。
[彼はわたしの背に涙を流していたっけ。
顔は覚えていないのにそんなことばかり覚えてる]
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