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―村の通り―
[さて、妻はいつも通り差し出した手を取ってくれたか否か。
そして、燦燦と輝る太陽の下、
少しばかり噂した少年と逢えるか否か*]
―雑貨屋―
[カウンターに置かれた茶葉はダージリン。
満足げに頷きを向けて青年はゲルダから品を受け取り
飾り気のない布袋へと仕舞いこむ。
弟の話となれば青年は微かに目を細め]
……嗚呼。もうそんな時期か。
逢いに行ってやるといい。
そうだな、此方でも祈りを捧げておくよ。
[肩に掛かる銀の十字架を軽く握った]
[茶の誘いに一寸迷うような表情が過る。
けれど、次の瞬間にはふ、と笑みを浮かべ]
折角の誘いだ。
有り難く頂くとするよ。
[ゲルダに頷き一つ向けて留まる事にする。
帰って遣らねばならぬ仕事は無論あるのだが
誰かに咎められるほど長居はせぬ心算――
要領よくあるのが青年の在り方だった**]
”お前さん”と言う事は、他にも物思う人が居たのかな
[紅茶缶を包みながら問うのは先ほどのことで>>56
紙袋に仕舞い終りライヒアルトに手渡すと貰ったクッキーの包みを覗きこみ]
僕…ピスタチオ、好きなんだ
ライヒ君はこういうの、相変わらず得意なのだね…
[娘は淡く笑むと何処となく尊敬のまなざしを送る。
青年が必需品を探す様子には「ごゆっくりどうぞ」と言の葉を添えた。]
夏場は仕入れ先の目録に眼を通すのが忙しいんだよ
他の季節に後回しする訳にもいかないし
…もう少し掛かるから、弟にはごめんねって伝えて呉れれば嬉しい
[十字架を手にする彼を見、そんな甘えごとを伝えた。
娘の心境は如何程か計り知れないもので。]
この間立ち寄った行商さんが呉れたのだよ
少し好いものの茶葉らしくてね
[売り物ではない茶葉の缶を指し悪戯っぽく笑む。何処か少年のように振る舞う娘は子供の内緒話のようにひそりと青年へ打ち明けた。]
皆には内緒だよ?
[ティーカップに琥珀色の液体が注がれ店内には花や果実のような甘い香りが広がった。]
甘い香りの紅茶は許せるかどうかは分からないけれど
変わった物も偶には好いと思うのだよ
[屈託なくほほ笑むと青年の意見を求めた]
自衛団長が、な。
声は掛けなかったがえらく悩ましい顔をしていた。
[ゲルダの問い掛けに軽く答えるのは
通りすがりの自衛団長の考え事などさして気にせぬ風]
好きなら良かった。
得意、と言えるのかな。
まぁ、作るのは苦ではないが……。
[ゲルダから向けられる眼差しに軽く頬を掻いた。
照れ隠しであるのか曖昧な笑みが浮かぶ。
結局他に足りぬ物は無かったのか
陳列される物に触れる事は無かった]
忙しいなら仕方ないと理解して呉れるだろう。
嗚呼――…、伝えておくよ。
[言伝を請け負いゆるく頷く]
[ひそりと囁かれた言葉に青年は興味をひかれる。
ゲルダの注ぐ琥珀色を見詰める翠が緩やかな弧を描いた]
へぇ、それは愉しみだな。
[広がる香に期待は増し
誘われるようにカップへと長い指先が伸びる。
軽く含めば甘い香りが口腔に広がった]
美味しい。
これならお茶請けは必要無さそうだ。
[クツと咽喉を鳴らし意見を求める娘に笑いかける]
有り難う、ゲルダ。
[束の間の贅沢な時間を呉れた彼女に礼を言い
青年はカップの中で揺れる琥珀を味わう**]
自衛団長なら店にも来ていたよ
煙草を買いに来たにしては、少し様子が可笑しかった気がしたけれど
[甘い紅茶を口にしながら先ほどの彼へと想い馳せ。娘を見る目も少し変っていたかもしれないが真意は見えぬ儘。ピスタチオのクッキーをひとつ口に頬張ると甘さと香ばしさが口腔に広がり。世辞ではなく素直に美味しいと御得意様の青年に、にんまりと微笑む。]
手作りを貰えるのは嬉しい
温かみが有るというのかな、作った人の気持ちが在るじゃない?
…作るのが苦じゃないのなら、またおねだりしちゃおうかな
[今日は紅茶だと言わんばかりに勧めると座っていた椅子の背凭れに身を預けた。]
…弟の御墓掃除にも行けてないから、怒ってないと好いのだけど
ライヒ君が伝えて呉れるなら好かったよ
済まないね
[甘い紅茶の琥珀色に娘は自分の姿をゆらりと映し伏し目がちな貌を合わせる。
カップの中も空になればカウンターにコトリと置いて。]
御茶受け要らずでも、僕は甘いもの多いほうが好いな
ライヒ君、またよろしくね
[くすくす笑んでねだりの言の葉を送り。
青年のカップ持つ手を子猫のようにつんっと突いた]
お礼なんて好いよ
喜んで貰えたなら淹れた甲斐もあったものだよ
[カウンターに両肘付け、手遊びながら翠の眼差しを送り。
目許だけで笑むと、マルコポーロと書かれた紅茶缶の蓋に触れた]
[カップも冷めたころ合い、
品物の目録に眼を通しながらも思考の隅には弟の存在がある。
10年前、夏のあの日を想い忍ぶのは毎年の事。
村が夏場しか他との交流を育めないことから雑貨屋も今のうちにと買い付けをしなければ成らず、店をあまり空けられないのも事実。
其れでもこの季節に墓へ足を運ぶのは如何しても憚られた。行きたくないわけでも、弟の死が吹っ切れていない訳でもない。
そんなことを想う内に目録を読む手がぴたりと止まった**]
─村の通り─
[メモから目を離し道を歩き進む。
ややあって前方から二つの人影が向かって来るのを見止めると、駆け寄るでもなくいつものペースで二人に歩み寄った]
御機嫌よう、ノイエンドルフ夫妻。
揃ってお出かけかな。
[社交用の笑みを浮かべてゼルギウスとイレーネを順繰りに見る。
重装備とも言えるゼルギウスの姿には軽く笑いが込み上げそうにもなったが、それは押し込めて]
細工の依頼をしたいのだが……時を改めて伺うとしよう。
ここで立ち話と言うわけにもいかないだろうからな。
[言いながら、視線は一度身重のイレーネへと。
彼女を気遣っての言葉と言うのは伝わるだろうか]
では僕はこれで。後程工房を訪ねさせて頂く。
[子供らしくない口調で挨拶をすると、他の細工師の工房へと歩き*始めた*]
―村の通り―
あれはHorai工房の夫婦に、湖ン別荘の坊ちゃんか。
まだこっちに居たんだな。
[見かけた顔を記憶と一致させた]
どーも。今年もまたよろしく。
[声が掛かればそんな挨拶を返して、かっぽかっぽと宿屋へ向かう]
─宿屋─
[久しぶりの帰郷の挨拶。
外を歩き回る伯父は、もしかしたらこちらの『本業』の事も知っているのかもしれないが、外で何をしているのか、の話題はへらりとすり抜けて]
ん、ああ、そんなに長居はできないと思うんだけど。
……そーゆー事なら、伯父貴が戻るまではいるよ。
[長居をしたくない、というのは、故郷に外での騒動を持ち込みたくないからなのだが。
とはいえ、自分がここの出と知る者はそう多くはない。
だから大丈夫だろう、とも思えたから、素直にこう頷いた]
―雑貨屋―
[自衛団長の様子をゲルダの口から聞けば
ふむ、と一つ相槌を打ち]
何か問題が起きたのかもしれないな。
まぁあちらさんで何とかするだろ。
[自衛団からの話は修道院の方にはきていない。
ライヒアルト当人も其れらしい話は聞いていないから
関わりのない事だとばかりの言い様。
クッキーを頬張るゲルダからその感想を聞けば]
お気に召したようで嬉しいよ。
気持ち、ねぇ……。
主への感謝なら溢れんばかりに在るかもな。
また気が向いたら持ってくるさ。
[本気とも冗談とも分からぬ音色でそう紡いだ]
墓の掃除なら心配する事はない。
此方でも定期的にしている事だ。
済まないと思う事はない。
[少なくとも青年は自分がその言葉を受け取る訳にはいかないと
ゆるゆる首を振りゲルダを軽く制し話を切り上げる]
ゲルダは甘党だな。
……嗚呼、わかったよ。
[ねだる声と仕草に降参だとばかりに空いている手を上げた。
紅茶が冷める前に其れを飲み干し
空になったカップをテーブルへと置いて]
ご馳走様。
また来るよ。
[贈り物の紅茶缶を弄ぶ仔猫のような娘に
常のように声を掛け来た時と同じ音を鳴らし店を出る]
―宿屋―
お前もお疲れさん、ナーセル。
部屋借りてくるから少し待っててな。
[宿屋の前に繋いだ旅の仲間からは元気な嘶きが返ってきた。
首を撫でて労ってから扉を潜る]
おーい。今年もお邪魔するよ。
厩舎と、親父はいないから小さい方の部屋ひとつ貸してくれ。
[食堂兼酒場にいつもの姿が見つからず、奥へと声を張り上げた。
まさかそっちに苦労の元凶までいるとは知る由もなく]
[伯父との話の後は、僅かな荷物を下ろして身軽になり]
……さあて、とりあえず、どっちから回るかねー。
[どっちから、というのは、帰郷時に顔を出そうと思った二箇所のどちらから回るか、という事。
そんな事を考えつつ、とりあえず食堂の方へと戻りかけた時。
何となく、覚えのある声が聞こえた。
ような気がした]
……げ。
[なんか嫌な予感がした]
―宿屋食堂―
お……ぅ?
[主人か看板娘に向けるつもりの笑顔が強張った。
奥から出てきたのが予想外の人物だったからだ]
なーんで諸悪の根源がここにいるのよ。
……狼。
[じと目になって賭博師を見てしまうのは仕方がないと思う。
仕入れに手間取って到着が遅れたのも、一人と一匹の旅になったのも、誰かさんが起こした騒ぎに端を発してるのだから。
呼び方がそっちになったのも、声が低くなったのも当然で偶然]
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