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[何だかずんぐりむっくりした影が横切って行ったような。
細かい作業の多い仕事柄、視力は然程良いわけでもない。
故に瞬いた間にいなくなったそれは見間違いとも取れたが、幻覚にしては色々と濃い。
辺りを見回すも、とうにその影はない。
目には未だ釈然としない色が*残っていた*]
しかしまァ、賑やかだったねェ。
お前にゃ災難だったが…おや、眠ってるのかいツィムト?
[片付け終えて皆を見送り、揺り椅子で腰を伸ばす。足元の寝床に丸まった薄茶猫は、去るティルを一睨みした後は眠ったようだった。飼い主の声にも耳を動かさない猫に静かに笑って椅子を揺らす]
さァて明日は表から来てもらう為にも裏口は閉めとくかねェ。
菓子作ってる最中に泥だらけにされたり箒振り回されちゃ堪らない。まァたお仕置きしなきゃ行けなくなるさね。
[言葉の割りに婆は楽しげに明日の手順を脳裏に浮かべる。
いつも開けてある窓から辺りに夕食の匂いが漂い始める頃、ようやく腰を上げた。
裏口にしっかりと鍵をかけてから、一人と一匹分の夕食を用意]
起きたらお食べ、ツィムト。
あたしゃ先に食べて寝るから、夜の番はよろしく頼むよ。
[ツィムトの分以外は片付けて、眠る準備の仕上げは一皿のミルク。いつも鍵を開けてある窓の外に皿を置いて、妖精へ短く感謝する]
妖精さん、いつもありがとねェ。
それじゃァ、ツィムト。おやすみ。
[のそりと動き出した薄茶猫に声を掛けて灯りを消し、二階の寝室へ上がる。月と星の光だけが照らす窓辺にずんぐりむっくりした影が過ぎり、皿のミルクを一気飲みして去っていく姿を見ていたのはツィムトだけだった*]
―森の中―
[ぐるりぐるり。茸の周りを廻ってみても答えは出ない。
気がつけば、空の端が淡い紫に燃えていて。
少女はあわてて村への道を辿り*始めた*。]
―― 早朝/森 ――
[青年の朝は早い。夜も明け切らぬ頃に目を覚まし、木々の合間に覗く深い青紫と鮮やかな橙の入り混じる空を仰ぐのが常だった。
森に住まう小動物の多くも、まだ寝床で夢に浸る時刻。
鳥の囀りも疎らで、木の葉のさやめきばかりが聞こえる。
朝露が地面に落ちる音すら響く気がした]
……さて、と。
[ぐるり、右肩を回す。腕に痛みはないものの、若干の熱は残っていた。
どうにも、魔法との相性は悪い。
その事実を知っているのは、ほんの一握りの者だけれど]
[……耳に届く音は静かなのに、森がざわめいている。
そんな奇妙な感じを覚えたのは歩み始めて少ししてからの事。
森の出口、村の外へと近付くにつれて、それは強まっていく。
首筋に手をやり頭を僅か左に傾けた。
眉根を寄せた表情には、困惑と、それより強い不快の色が窺える]
……。
[そっと近付いてみるも、音の原因となったものはもう通り過ぎてしまったらしく、何もいなかった。
小動物にしては大きな揺れと音。人だとしたら、大人にしては素早い。子供だとしたら、こんな朝早くにというのは少々不可思議で。
得体の知れない存在に、厭な予感が胸中を過ぎった。
そして恐らく、それは間違っていない]
─診療所・自室─
ふわ……。
[思いっきり、眠たげな声と共に目を覚ます]
うう……おかしな夢を見たのですよぉ……。
[ため息混じりに呟いて、ベッドから起き出した。
小さく欠伸を漏らしつつ、身支度開始。
しばらくお待ちください]
[丁寧に髪を編み、いつものように黒を基調とした装いを整える]
……さすがに、御師匠様も戻られてませんねぇ。
[帰ってきていたらそれこそ何者なのか、と突っ込む者はなく。
ともあれ自分と、鳥の分の食事を用意して済ませ、庭へと出る]
ブルーメ、何か、変わった事はありましたかぁ?
[玄関横で、普通の箒のふりをしている箒に小声で話しかけ。
返るのは、やはり、違和感を感じる、との返事。
むぅ、と言いつつ眉を寄せ、しばしその場に立ち尽くす]
……とりあえず、一巡りしてみましょうかぁ。
御師匠様の代わりに、往診もしないとならないですし。
[小さな声で呟くと、箒を軽く撫で、白い鳥と共に門を潜る]
あ、でも。
先に、色々と確かめた方がいいのかしらぁ?
[門を潜った所で立ち止まり、困ったように首傾げ。
とりあえず、村の中央にある広場へと足を向けた]
[先の茂みを過ぎると、音の原因と思われるものは見当たらなかったが、代わりのように、少し開けた場所に円を描いて生える茸があった。
ほんの数日前にはなかったはずのそれの正体を、青年は知っている。
宴の跡との説の根強い、妖精の作った環。
枯れた茸の作る円の内部は、秋になったというのに、外部よりも青さを増した草が茂っている。
妖精の祭りの後と考えれば、それらはなんら、不思議に思うこともないのだが]
─広場─
[行き交う人たちと挨拶を交わしつつ、やって来た広場。
祭りの名残は既になく、あるのはいつもの……よりは、どこか不安げなざわめきで]
おはようございまぁす。
[そんな中でも常と変わらぬ暢気な口調で立ち話をしている主婦たちに声をかけ。
けが人や病人の話はないかとか、その他色々情報収集開始]
[時間をかけて、色々と話を聞いたものの、今自分が聞きたい手合いの話は聞けず。まぁ、病人やけが人がいる、という話がなかったのは幸いだが。
それらが一段落した所で、またも始まるのは、一人で大丈夫なのかコール]
……本当に、大丈夫ですってばぁ……。
ボクだって、子供じゃないんですよぉ?
[そう言ってむくれる様子が子供っぽい、という自覚はないようです]
―店―
[早朝。
短い仮眠から目を覚ました。
簡単な食事を済ませて、他に作業のあるらしい家人への挨拶もそこそこに、昨晩の作業の続きに取り掛かる。
丸から輪の形へと変貌を遂げた薄青の石は、渡された時よりも光沢を増していく。
完成するまではそう遠くないだろう。
真剣にただ作業を続ける姿は、昨日見たものなど忘れたかのよう*]
んん……それにしても。
[主婦軍団のお喋りからどうにか離脱し、広場の隅で軽く腕組み]
この違和感は、他の方は感じていないのかしらぁ……?
確かに、そんなに強いものではないけれど……。
[ぶつぶつと呟き、紅の瞳を空へと向ける]
んんん、朝だね。
エーリ君、朝ごはん食べたかな。
昨日のシチューはおばちゃんには好評だったけど。
[伸びをして、活動開始。]
そういえば、昨日……あれって、なんだったんだろう。
へんな子っていうより、変な……妖精なのかな。
わかんなかったけど。
[窓の外を見るけれど、そこにその影はない。]
ま、いっか。
ちゃんと食べてから、今日の食材を確保しないと。
―朝/マッキンリー家の食堂―
ん、分かってるってば。
今日はちゃんと暗くなる前に家に帰るし、手伝いだってするよ。
[バターをたっぷり乗せたパンを口に詰め込みながらうんうんと頷く。
日の落ちた後に帰宅して、たっぷりとしかられたのは昨日のこと。]
べ、勉強もね。分かった。
[デザートのプディングを飲み込むと、延々と続きそうな母の言葉を遮るように立ち上がる。]
じゃ、取りあえず行って来ます!
これ、ウェーバーさんちに届ければ良いんだよね?
[食卓の脇に置かれた卵の籠を手に取ると、逃げ出すように家を出た。]
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