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やっと…追いついたか
[言葉通りやっとアーベルに追いつく
血がついているようであるが、それは傍らに倒れる骸の血であって、別に外傷は今のところないようだ。
最も正常でないことなど当たり前であるが
そっと傍により、骸を拝見した]
こら、やんちゃするな――
[冷たい風が流れ込む。
澄んだ空気ではなくて、澱みを孕んでいた。
何の匂いかと判断する前に、白い大地へと降り立とうとする痩躯を追おうとして、窓枠に強く突いたのは、またしても慣れた右腕だった。
動きが止まる]
[その間に、陽のひかりに似た金色が駆けていくのが見えた。
声からして、エーリッヒだろう。
自分に体力がないのはよくわかっていた。感情はなおも追いすがろうとしたが、彼に任せたほうがいいと、理性は判断して、窓から離れる]
[室内を見渡した]
……あ。
[名を呼ばれたような気がした。
それから、人の気配。
蒼の瞳が、ゆるり、と瞬く]
……。
[何か、言おうとしたけれど。
言葉に、ならなかった]
…何故。
これを持っていたのは姉様なのに。
姉様の朱花は。
もう失われたのに。
[頭痛が思考を切り裂こうとする。
それでも目の前に現実がある以上、最早それも役には立たず]
[シスターの制止も、ハインリヒの怒声も。][今は遠く聞こえない。]
[ミハエルにも追い返されなかったので。][そのまますぐ後を走り出す。]
[そしてようやく。][金と白以外の色が見えた。]
[それは、それは。]
[――――― 一面の 赤。]
――――――――――――――――――――――。
[悲鳴すら、出ない。][手放してしまいそうになる気を辛うじてつなぎとめたのは。]
[薬師、ローグとしての、誇りだけ。]
[慌しく動く流れにどうするべきか戸惑い]
[そして、どこか混乱した様子のイレーネの側に寄る]
イレーネさん?
ここが判る?わたくしがわかるかしら?
[そっと、彼女を驚かさないように声を掛けて]
[窓枠の上、手を掴まれ引き止められた。振り返る。]
だって、いないんだもん。
せんせーも、ベルにぃも、ユーリィも、
探しに行かないと。
[うわ言のように言葉は落ちる。
頭の芯がくらくらとした。]
村を守るとか抜かしながら勝手にしにやがって……戻るぞ。アーベル。
[それは食い漁られた無残な死体のギュンター
呆然としているアーベルにかける気の利いた言葉など浮かばずにただそれだけで]
なんだ…ミハエルも来たのか。
[若干のあきれを込めて、そう呟いた]
[大きな背中がひざまづくのが遠くに見え。唸る。
アーベルの姿も見えて。]
ああ。
[追いすがって、彼らに追いついて、勿論できることなどない]
……。
[シスターの声にのろのろと顔を上げる。
真っ青な顔のまま、問いには答えずに]
…私の花は。
咲かなかったのに。
咲かなかったから。
兄様は私には。
[どこか違う光景を見ているような瞳で]
……でも、まだ。
[マテウスの呼びかけに零れたのは、こんな言葉]
何にも、聞いてない、から。
なんにも。
たくさん、聞いたのに。
じーさん、一つも、答えてない、から……。
[だから、行けない、と。
ぽつり、呟いて]
[同じように少女を引き止めようとしていた青年が動きを止め、その後ろから飛び出して、少女の腕を掴むと、半ば外に落ちかかっていた身体を引き戻そうとする]
みんな戻ってくる!お前は待ってろ!
[少女の口にする中の一人が傍らの青年であるとは気付かずに]
[ミハエルの先に見えた、二つの人影に。][赤い雪の脇を通り、近づいて。]
…アマンダさん、マテウス、さん。
[声は掠れ、顔は青ざめたままだったが。]
これは、これって…。
[状況が、読めない。][否、読めているのだが、理解するまでに。][酷く、時間が。]
[追いついた先に広がるは、赤。]
…はじまっちまった。
[祭りの開始を告げる、獣達の血の宴。
贄に捧げられるのが自衛団というのも、あの事件と奇妙に一致して。
役者は揃い、舞台は整い、そして幕は今さっき開いたところ。]
…さっさと戻れ!
どの道もう助からない!
[先へ行ったものへと声をかけ、銃を抜く。
死体に群がる獣達が、生者に興味を持つ前に戻らないと。]
アーベル。戻るわよ。
おじいさんは、明日まで待ったって答えないの。
[かける言葉などないのだけれども、
誰かが言わなければ彼は帰らないのだろう。ならば]
ブリジット。近くにきちゃだめよ。
あなたも一緒に帰りましょう。
[できるだけ、やさしい声をかけたかった。
でもきっと、失敗している]
[結局来た、アマンダや、ブリジットを視界に納めながら、呆然と、いけないと呟くアーベルを強引に立たせる。
爺さんといっていたのがギュンターであることは察していて、ショックなのだろう。
だが酷ではあるが、他の自衛団員を食事している飢狼がいつこっちに牙を剥くかことになるのかを考えれば悠長なことなどしているつもりはなく]
もう聞けねえよ。アーベル。あの爺さんは頑固だからな
…なんでそうなったかは。後ででいい。今をどうするか、今はそれが重要なのはわかるだろう
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