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[ネリーの言葉に腕の中の少女の伏せられた睫毛に視線を落とす。]
…ええ。
停電の前に、彼女に狼が憑いたと。
あの太ったお坊ちゃんは──違うと。
[慌てて戻って来たギルバートに、]
人狼は一夜につき一人しか襲えないって本当?
なら、シャーロットはこの部屋じゃなく、二階に寝かせても構わないの…かしら。
あたし、さっきの出来事と目の前のシャーロットに告げられた事と、上手く結びつかなくて。
[褐色の…この辺では見かけない色の肌。
包帯の巻かれたその身体に、ネリーの手によって服が着せられていく。
痩せ細っては居ないが引き締まった小柄な肢体。
胸の部分が多少余る。]
ギルバートさん、私は霊を見る事は出来ません。
…ネリーさん以外の全員に尋ねてみてはどうでしょう?
[メモを貼って聞いてみてもいいと思います。と、彼はつけくわえた。]
私は、ネリーさんが本当の事を言っていると思っていますけれど。
―台所―
痛く…ありませんか?
[適度に筋肉を身に着けた、引き締まった体に触れるとき、巻かれた包帯とその下の傷に何度か気を奪われる。
気になっていたのは寧ろその傷の由来の方で]
一体どうされたんですか…。
[答えが得られるとは思わないが、小さく訊ねてみる。
下着の上にブラウンのワンピースと、それから少し使い古したサンダルを足へ履かせながら。
彼女の肌の色には似合わないと思った]
アーヴァインさんは、覚悟を決めているようには見えませんでした。
[彼が覚えているのは、何事かのデボラとの口論で頭に血が上ったアーヴァインに頬を殴られた事や、銃を突きつけられた事。──ギルバートも、BARで一緒に食べた時に銃を突きつけられたと聞いたと思い出した。]
[シャーロットの顔色を確かめながら、誰にともなく話を続ける。
どうやらユージーンへの返答のようだが、ただデボラ自信の中で堂々巡りしているようでもある]
そう、どうしてこんなことになったのか。
狼の魂は確かに鎮めたはずだった。人々も救われるはずだった。
なのに、狼たちは鎮めたのに、人々の魂のほうが呪われちまった。
むかしむかし……あの時、婆たちが正しく祭りを終わらせなかったからだろうか。
なあ、墓守の息子よ。
魔物……狼が生まれるのは、人の世の摂理とは別の力によるものだ。
だがな、鬼は人が産むものなのさ。
むかしむかしのお話のように、怨みを後には残すなよ。嘆きの島を泣かせるな。
[ユージーンを見て、静かにうなずく]
確かにそうするべきだろうな…
[苦笑して]
疑い深い奴だと思っているんだろう。
オレだって信じられるなら信じたいよ。彼女以外に霊を見ることが出来る誰かなんて、現れないでいてくれたら、と。
ただ、オレはみんなに尋ねて、答えを聞いてみたい。それまではネリーのことが分からない。
…悪いなネリー。
[薄く目を開けるが、その目にはネリーは映っていないようで。
うわごとのように唇からこぼれる微かな声は、他のものが理解できる言葉ではないようだった。]
キャロル、だったか?
そのシャーロットって子の素性は分からないが、やわらかいベッドで寝かせてやるのがいいと思うよ。
二階に運ぶなら、その子は男のオレが担ぐぜ?
[自分に警戒を向けるキャロルへ苦笑いを向けて]
……うむ。
婆の見たところでも、傷や病の気はないな。
あんた、診たての心得がおありかい。ならば婆の出る幕でもない。
静かなところへ連れて行って、寝かしておいてやっとくれ。
そう…。
陽気なフリをしているのに、本当は疑い深いんですね。…でも霊が見える人が居るって信じて、馬鹿だとか、変だとか、気味が悪いとか、そうやって言わないんですね。
[ギルバートの声に応えてカミーラを、肩で支えて台所へあった椅子へ座らせる。
彼女の髪を少し直しながら]
…デボラさんはカミーラさんの言葉が分かるんでしたっけ。ねえ、あなたは人狼に襲われたの?それとも、人狼なの。それともその傷はただの怪我なの…?
[シャーロットという彼女がもし人狼なら、一人で置いても襲われることはないわけだが…。
デボラ婆さんの言うこととミッキーの言うこと。いったいどちらが真実なのか。今はそれも分からない]
んで、その子運んだらオレ寝るわ。頭がパンクしそうだ…。
デボラお婆さん、狼の亡骸は本土にあると聞きました。
狼として嘆き島に祀られたのは人だったと。
だからこそ、鬼が嘆き島に住まう事になったのだと。
お婆さんが話しているのは、過去の話。
鬼を鎮めるために行う事は、更なる贄ではありますまい。そして、狼の魂は既に鎮められたという。
お婆さん、あなたは昔間違った方法でしてしまった祭事をもう一度やり直そうとしているのではないでしょうね?
これが祭事と言うならば、一体何のための祭事なのか。
[ギルバートに僅かに苦笑して頬笑む。]
大丈夫…力は…あるの。
あたしが女に見える…のね。
あんた少し、いい男かもしれないわ。
[デボラに至ってまともに話し掛けられて、]
…ごめんなさいね。
でも、怖くて。
あたしはただ殴られなれてるだけ…よ。
二階へ…行くわ。
夜が明けたら、シャーロットにも話を聞かなきゃ…ね。
[ユージーンの前髪に触れかけて止めた様に、一瞬ギルバートの肩に手を置きかけ、止める。]
『あたしが男だと気付いたら、気持ち悪がられる。』
[キャロルのことは、多少骨太な女性と思っている]
女に重いもの持たせるんじゃない、ってオレのアニキ分がいつも言ってたんだよ。
遠慮するなって。
[シャーロットを担ごうとキャロルの前にしゃがみこむ。背に乗せろと言いたげに]
あんたはこの子を着替えさせてやってくれよ。
[そうしたらオレは寝る、とあくびした]
[何か言いたげなカミーラの目をじっと見つめ、努めて穏やかな声で話しかける。
時々頭を振っては、言葉を組み立てなおす。
さすがの老婆も急激過ぎる話の行く末に翻弄され、頭がまとまらないようだ。
それでも、どうにかこれまでの話をまとめ、娘の理解していない部分を補ってやり、そして……]
“……あなたは、何かを言いように私は感じた。
ネリーに、あなたを害するような何かのことがあるのだろうか”
[キャロルが立ちすくんでいるので不思議そうに見上げた]
ん?…ああ、オレのこと怖いの?
それもそうか。あんたから見たら、オレも化け物って可能性あるんだもんな。
[ギルバートにまた困った様に頬笑む。どうせ、性別なんてそのうちばれる事なのに。
悩んだ末に、シャーロットを彼の背に預けた。二階へ向かいながらネリーを振り返る。]
…幽霊が見える。
それってどんな気持ちなのかしらね。
あたしには見えない…。
『ママもグレンも』
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