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―孤児院―
[教会での食事の時間の後。
土産を手にはしゃぐ子供たちを孤児院へと送り届ける。
応対に出て来た職員に、彼は他に聞こえないくらいの声で問い掛けた]
それで、この間の件ですが。
そうですか。
彼らの仕業ではなさそうですね。
…とすれば。
[万華鏡のようなものは見つからなかったし、子供たちが何かを隠している様子もなかった。
子供の扱いに長けている筈の職員の返答に、彼は考え込むように俯く。
そうして暫く後、頭を下げて教会へと戻って行った。
自警団長の失踪の話は、未だここまでは*届かない*]
─自衛団詰め所─
[団員から受ける説明。
戻るはずが戻っていない、という言葉は、容易に一年前を思い出させ、内心の不安を煽る。
そこに聞こえた、声。
それで彼がそこにいると気づいた事もあるが。
向けられた言葉は、意外なもので、やや戸惑った]
爺様が……攫われた?
聞いた話、って……。
[語られる、団長が掴んでいたという情報。その内容に、眉が寄った]
……そりゃ、そんだけ掴めば、邪魔にもなるよな……。
[ぽつり、呟き。
その後の申し出には、蒼の瞳を瞬いた]
……犯人捜し、やるよ。
俺は、最初からそのつもり。
[『護れなかった』と、気づいた時から、それはずっと秘めていたこと]
あんたが、何のつもりで俺にそう言ってるのかは、わかんないけど。
俺には、走り回る以外に捜す方法はないから……手は、借りたい。
[ここで、一度言葉を切って。
一つ、息を吐く]
なんにもしないで、諦めるのは……もう、やだ、から。
『護れなかった』事を後悔だけするのも、もう、やだ、から。
[続いた言葉に込められた意は、他者には届かずとも。
それは、自分の中では何より大事な決意の表れ]
―早朝―
[バタン!と派手な音を立てて、少女は自宅を飛び出した。
そのまま、翠のマフラーをはためかせて走る。
知り合いは目を丸くして、彼女を見るかもしれない。]
…――爺っちゃん、居るッ?!
[少女が駈けこんだのは、自警団の詰め所。
顔馴染みが、驚いて少女を見た。]
…え、此処にも戻ってないのか?!
[少女は翠の眼を目いっぱいに開き、聞いた言葉を繰り返した。]
起きてもいねーから、驚いてさ…
帰ってねぇって、なんで…っ?!
[青ざめた顔で、カタカタと小さく震える。
団員のおじさんの腕をぎゅ、と掴んでふるふると頭を振った。]
[パトロールに行って、戻って居ない。
一緒に行った仲間は、戻って居る。
別れてからの目撃者は、居ない。
それだけ聞くと、少女は弾かれたように顔を上げ、
詰め所を飛び出した。]
俺、目撃者捜してくるよ!
聞いてねぇ人だっているだろ?
[帽子を目深に被り、走り出す。
その表情は、口元まで引き上げたマフラーとそれに隠されて、団員からは、見えない。]
―翌日:大通り―
[家を出たのは朝早い。
相変わらず洒落っけのない格好。やけに瞼が重そうにしている]
……、眠。
[欠伸を噛み殺す。
僅かに滲んだ涙を拭い取った。
祭り前の街は今日も朝から賑やかではあるが、街の人間はあまり出歩いていないと気づくのは、昔から住んでいるからこそだった]
―大通り―
[すたたた、と、両手を下げて少女は走る。
路の端を走っていると、蒼い髪を見かけ。
キキ、と音がするほど踵でブレーキをかけ止まった。]
あ、おはよう!
[眠そうにする女性に、手を振って駈け寄る。
その表情に笑みは、浮かばない。]
―大通り―
[翌朝。
朝の祈りや朝食を終え、彼は教会を後にする。
少女の自宅へと向かう細い路地の手前で一度立ち止まり、少し悩んでから、そちらには曲がらずに自衛団詰め所のほうへと足を向けた。
街のあちらこちらで囁かれるようになった噂話を、彼は未だ耳にしていない]
あら、カヤちゃん。
[欠伸を抑えるために持ち上げかけた手が止まる。
覇気の欠ける少女に緩やかに首を傾げた]
……何かあった?
[零れる疑問は、自衛団長の失踪を知らぬことを示す]
爺っちゃんが、いないんだ。
[エルザに、縋るように手を伸ばす。
ふるふると頭を振る顔は必死に見えるだろうか?]
昨日、帰って来なくて。
詰め所で聞いたら、昨日パトロールから戻ってねぇって。
─自衛団詰め所/前日─
[宣言に、返された言葉は如何様か。
何れにせよ、蒼に宿るは揺らがぬ決意。
若さ故の先走りも感じさせるそれは、見る者に何事か思わせるやも知れぬけれど]
……とりあえず、俺、一度戻るよ。
何かあったら、風に乗せて『呼んで』。
なるべく聞き取れるように、今の内はおっさんに波長合わせとく。
[軽い口調で告げた言葉は、当人以外には今ひとつ不可解なもの。
理由を問われたなら、後で教える、と受け流して練習所へ]
[練習所に戻るなり、向けられたのは先の事への謝罪。
一瞬、きょとりとするものの]
……ああ。
俺も、悪かった。
[こちらも短い謝罪を返して。
その後は特に騒ぎもなく、練習を終え。
宿に情報集めに行きたくもあったが、あちこちから色々といわれているためか、その日は大人しく帰途についた。
それでも、やはりと言うか。
詰め所で聞いた事、知った事を周囲に話すのは躊躇われ。
食事が済むと、早々と自室に引っ込んでしまったのだけれど]
[部屋に引っ込んだ後、色々と考えすぎていたせいか中々寝付かれず。
朝、目覚めた時には、家に人の気配はなかった]
あー……もう、出たのか、な?
俺も、行かないと……。
[行く先は、練習所……とは、言い切れないのだが。
ともあれ、食事を済ませると、いつものよに飛来した隼とともに、大通りへ]
─ →大通り─
[翠眼が、ゆっくりと見開かれる]
――自衛団長さんが?
[伸ばされた手をしっかと取る。
眉間に皺を刻み、優しく引き寄せた]
昨日から、……そうなの。
お仕事で忙しい、というわけじゃないのね?
[柔らかな声音。
空いた片手が少女の背に回る]
[話し声を耳にし、顔を上げた。
そこに蒼い髪の楽師と、探していた少女の姿を見留める]
ああ、丁度よかっ…
[楽師のほうにも人形師とのことを伝えておくべきだろう。
それぞれに用件のある2人に対して上げかけた声は、だが耳に届いた必死な声に止まった]
…団長?
[楽師の視線がこちらを見たのを彼も見て、頭を下げた。
足を進め、2人との距離を縮める]
何かあったのですか。
[いつになく険しい顔をして、彼は問う]
うん、だって忙しい時は忙しいって、黒板に書いてくれるから。
詰め所も、誘拐だとか、騒いでて、だからオレ、目撃者捜そうと思って、
[背に回された片手が、やけに暖かく感じて、
少女はう、と喉を詰まらせた。
柔らかな声音が優しくて、肩を少し震わせた。]
…何か、知らない?
[エルザの腕を掴んだ侭、顔を上げた。]
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