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どうなん、でしょうね。
先の事は――… わかりません。
[移動するダーヴィッドを追いかけることはなく]
ただ、わかるのは。
起こったことは、変わらないってことくらい。
失われたものは、還らないってこと。
先生は、死んじゃったってこと。
[ようやっと認めたように口にする。
床を見つめて。
泣くことは特技だけれど。
今、しずくが眼から零れることはない**]
―広間―
[カルメンが小さく呟いた言葉は聞こえたのかどうか]
クロさん…
[ロミルダだって悲しくないわけじゃないけれど、やっぱり涙は出ない。
自ら確認した者が生きていたことへの安堵が、根底にあったのかも知れない]
[泣き疲れたカルメンを連れて行くユリアンと入れ違いのように、部屋の中に入る。
ハインリヒが出て行く背中をじっと見て。
残った2人の間で交わされる言葉を離れた場所で聞く]
…ぅ。
[ゲルダの鋭い言葉には、やはりびくりとして視線を揺らし]
…
できることをやって、…終わらせる。
[ダーヴィッドの言葉を、どこかぼんやりと繰り返した]
[しばらく経ってから、とぼとぼと椅子の下へ。
ゲルダはまだそこにいただろうか。
深い青色の紙を選び出して、作るのは海鳥のような形。
いつものようにスケッチブックに挟めた]
ふぁ。
[それから欠伸と、眠たげに目をこすって、2Fの部屋へ。
だから深い青の変化を見るのは、*もっと後のこと*]
─二階・個室─
[ユリアンによって部屋に運ばれたカルメンは深い深い眠りの中]
『カル』
[葦笛の音色は眠り深いカルメンの耳に届き、呼び起される大切な人との記憶。
その想い出に映像は無かったけれど、声は沢山聞こえて来て。
良くしてもらった、撫でられる感覚をも思い出す。
大切な想い出、傍に居てくれるのが嬉しかった]
[けれど]
『カル…ごめん……』
[最期に聞こえた声は自分に対する謝罪の言葉。
それが何を意味していたのか、彼女が何を思って口にしたのかは分からなかったけれど]
[視えるのに触れられない、触れられないのに視える。
矛盾は均衡を保っていた精神の天秤を大きく揺らし]
[その均衡を崩す]
[今までその矛盾を知らぬが故に保たれていた均衡。
それが崩れ、後に残ったのは残酷な事実]
<ああ、ちゃんと闇の者を探さなかったから…>
[想い出の声と入れ替わるようにして囁かれる言葉]
<ちゃんと闇の者を探さないと、もっと失ってしまうよ?>
[懐かしき声でありながら、嘲笑も含んだ声色]
<こんなことになったのは、全て闇の者──人狼が居るから。
さぁカルメン、お前はこの事態を終わらせなければならない>
[壊れた天秤を歪に直していく言葉]
<探せ、人狼を。
探して──せ>
[無防備となっていたカルメンの心に、その言葉は深く*刻み込まれた*]
─2階・カルメンの部屋─
[その場で眠るつもりはなかったのだけれど。
色々な事が起きたせいか、いつの間にか転寝に沈んでいた。
その眠りの中で、夢を見る。
父の事を知りたくないか、と問いかけてきた見知らぬ人。
揺れる聖印。
連れて行かれた先で向けられたのは、悪魔の子ではないか、という疑惑。
父親が全く知れぬが故に。そして、母が父について決して語らぬが故に、芽生えたもの。
確かめる、と称してなされた事。幾つかは痛みも伴って。
それらの後、彼らが向けたのは。
『神の力を授かりし子』という、真逆の言葉。
母の許に無事に帰され。
自分に謝りながら泣き崩れる母の姿を見た時。
『陸』の神など決して信じまい、と。
幼い心に決意を固めて、そして……]
……い゛、って゛っ!
[過去を彷徨う眠りを破ったのは、三度目の激痛。
衝撃が身体を震わせて、座っていた椅子からずり落ちそうになるのは、何とか堪えた]
「……ユーリィ!?」
……大声、上げんな……。
[慌てたような声を上げる鸚鵡を低くおし止め、立ち上がる]
……さすがに、こうも続くと……無関係、なんて呑気には構えてらんねぇよなぁ……。
[一度目の時は自衛団長が。
二度目の時はエーリッヒが。
それぞれ、命を失っていた。
と、なれば、また、誰かが、と。認めたくないものの、意識はそちらへと向かう]
……ロートスは、ここにいろ……いいな。
[低い声で告げると、廊下へ出て周囲を見回す。
相変わらず、どこが誰の部屋かは把握していないけれど。
他と違うその部屋には、すぐに気づけた。
微かに、扉の開いた部屋。
しばし、ためらった後、そちらへと向かい。
そ、と、扉を開いて、中を覗き込み──]
……っ!
……ちょ、これっ……。
[その真紅が、何によって作られているかは、問うまでもなく、わかる。
そして、その源──花弁の中央に倒れた、ローザがどうなっているのかも。
傷ついて見える箇所は、そう多くない。
首筋と、他にもあるかどうか。
特に酷く欠落しているのは、肩の辺り。
そこに、何か刻まれたものがあったとしても、今は紅の内に囚われてはっきりとは見えず。
いずれにしろ、その身に刻まれた傷痕は──人の手で成し得るとは、思い難いもの]
……なん……で。
[口をつく、呟き。
とはいえ、理由などはわからない。
ただ、わかるのは。
自分が──『阻めなかった』という事実、それだけ]
なんで、なんだよ……っ!
[責め立てるような痛みに、がくり、と膝を突きながら、呻くような声を上げる。
何に対してのものなのかは、自分でも定かではないままに]
[預かった赤子の面倒を見るために、睡眠と覚醒を繰り返す。
新たに一度、強い鉄の香りが拡がって、その更に暫く後に聞こえる足音。
赤子を抱いたまま、忍び足で部屋に近付き、拾う声は、ユリアンのもの]
[口の端を上げる。
服の内側にしまっていたナイフで人差し指の先を切り、流れる血で自身の口許を汚す]
…まだ、痛むのか。
ユーリ。
[膝を付くさまを見下ろしながら、開いていた扉を閉める]
[かけられる声に、数度、瞬く]
ダーヴ……?
うん……なんか、日毎に、悪化してるかも……って。
[答えつつ、上げた視線。
捉えたのは、不自然な紅の痕。
それが意図的になされたものなどとは、思いもよらず、瞬きの後、大きく蒼を見開いた]
悪化かぁ…。
ま、それも仕方ないといや、仕方ないか。
全然この現状、打破出来てないしなー。
[間延びした声で、何事もないかのように笑いかける]
どーした?
そんな変なものでも見たよーな顔して。
あれ?
ロートス、居ないのな。
[扉を背に立ったまま、世間話のように首を傾げる。
ローザについては、まるで一つも語らぬまま]
[間延びした声。
いつもと、変わらないような。
けれど、すぐ近くに亡骸がある状況では、それはどこか異常に思えた]
どーした、って。
お前、なんで、そんなに、落ち着いてん、だよっ。
[困惑と動揺。
違う、と、もしかして、がぐるぐると回る、回る]
……ロートス、は。
カルメンの、とこ。
ひとりに、しとくの、心配だから。
そりゃ、あらかた想像ついてたら、今更驚けない、と言うか。
[誰か、までは知らなかったけれど。
それすら知っていた、とも取れる物言い]
…ふゥん。
オオカミさんかもしれない相手のとこに相棒置いてくるなんて。
よっぽど、カーラちゃんのこと、お気に入りなんだねぇ。
[紅に汚れた口の端が、僅かに上がる]
…妬けるなぁ。
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