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[手の中で毟り取ったボタンを弄ぶ]
[軽く投げやれば、月光を受け、きらりと煌めいて]
[後ろから聞こえる足音を耳に留めながら、別荘への帰途に着く]
[帰宅後、彼は待ち兼ねていたフィリーネに思い切り抱きしめられて。
とんでもない――ある意味では予想通りの話を聞かされる事になるのだけれども、*それはまた別の話*]
─回想・親子喧嘩の結末─
「……と、言う訳だ」
[今回の一件の裏事情を語り終えると、王はにこり、と微笑んで見せた。
いつの間にかその姿は、長身の男性のそれへと変わり。
……そうやっていると威厳があると言うか何とか言うかだが、その実体は以下略で]
……あのなぁ……それで周りが納得するとでも思ってんのかよ?
[思わずもれる呆れた声には、返事はなく、ただ、笑みのみが返された]
[この騒ぎの原因はまあ、村にいた二人の妖精を見つけ出すための、妖精王の強攻策。
王は王でそれなりに焦っていたようで。
ダーヴィッドの行方捜索を女王にせっつかれた事もあるのだろうが。
……五年前、人の手によって深く傷つけられたまま、行方をくらましていた我が子の事も、強く案じてはいたらしい。
最初に団長を連れ去ったのは、二人への警告だったのだという。取ってつけた感は否めないが。
エーリッヒの連れ去りに関しては、本人にも言っていた通り個人への興味が大きかったようで。
……ユーディットに関しては、曖昧に言葉を濁していたが。
その際、追求ついでに踵が数回落ち、何度か幼児化したのは言うまでもない。
それでも言わなかったのは何かを感じたからだろうか]
にしても、なぁ……。
[なんでこんな回りくどくかつ、ややこしい事をしてくれたのかと。
突っ込みを入れれば、王は静かに笑んで]
「……開いてゆく人の子との距離を、戻せるか否か。
その可能性はあるかなきか。
それを見極めたかった」
[こう、平然と言い返して]
「そして、お前が人の子への憎しみを消せているのかどうかを、知りたかった」
[最後にこう、付け加えて、また、笑った]
[人の子への憎しみ。
確かに、それを抱えていた時期はあった。
邪妖精に変化する可能性を抱えていたのは、否定できない。
ここにたどり着くまでは。
『災いを呼ぶ者』として。
剣で切り裂かれた直後は。
……一時的に記憶を失い、ここで人の温かさに触れた事で。
そんなものは完全に忘れていたのだけれど]
─広場─
……っとに……。
[静かに進む神事を遠くに眺めつつ、はふ、とため息をつく。
近くには黒猫と幼児化した王がちゃっかりいたりするが、敢えて視界には入れていない。
向こうも向こうで、勝手に状況を楽しんでいるようだし、気にしても仕方ないだろう、と割り切ったのだ]
……助かった、と言えば、助かったわけだけど……。
[呟いて、またため息]
『ユーリィ、考えすぎー。
またここにいられるんだから、いいじゃないかー』
[そんな彼に、相棒がこんな突っ込みを入れてくる]
[……飛び出した事情はともあれ、そしてここで妖精王がやらかした事はさておき。
彼ら二人は妖精の森からの逃亡者であり、その理由は必ずしも正当とは言いかねる訳で。
……何かしら、罰は受けるべし、というのが王の(というか主に女王のらしいが)意向で。
彼に与えられた『罰』というのは……この地の守護者となること。
……事実上、森からは追放という扱いになるらしい。
それはそれでいいのだが]
……ていうか、ぜってー、面白がってる……。
[また、はふ、と息がこぼれた。
ダーヴィッドに与えられる予定の『罰』の内容は余りにも凄絶というか悲惨というかに思えたので。
何とかならないのかと文句を言った所。
……まあ、王としても、やはり面白くはないようで。
女王と相談の上、代替案を一つ、提示してきた。
即ち……]
さっさと身を固めろとか……絶対、遊んでるよな、親父もお袋も……。
[何度目か、わからない、ため息。
ダーヴィッドの罰を軽くする代わりに提示された条件と言うのは。
祭りの神事に則って、彼に伴侶を娶れという内容で……]
……頭、いてえ。
[あからさまに、遊ばれている気がして。
前髪をかき上げつつ、右手を額に押し当てた]
取りあえず……どーすっかなぁ。
[額から、手を離して。
空を、見上げる。
一応、例の花冠は、持ってはいるのだけれど。
……周りからも散々突っつかれてはいるのだけれど]
悩んでても、仕方ねぇ、のかなぁ。
『……一度自爆してるしね、ユーリィ』
……言うな。
[相棒の突っ込みが。
ものすごく、虚しい]
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