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止めて欲しかったのかね?
だけど、そいつは俺の役割じゃねぇよ。
おいさんそんな若ぇわけでも、優しいわけでもねぇからな。
[穏やかな笑みには、快活な笑みを返して。
腕輪を嵌める様を見つめる。]
羨ましいよ、お前らが。
[それでも願いをかなえると、はっきりと口にした心竜に、酷く穏やかに微笑んだ。]
―東殿/どこかの部屋―
[茶を飲み終えた後、生命竜が回復に努めるのと同様、青年も体を横にせぬまま浅い眠りについていた。
腕輪は今のところ所有者である青年を苛む事はなく、沈黙を保っている。それは精神と影輝のニ者が共にある為だろう]
――…そろそろ、動けるかな。
[二つの剣を一つにする為に、まずは邪魔をする力を持つ者を排除する必要があると寝台から降り立つ。上体が少しふら付いたが、壁に手を付く事なく姿勢を正した]
二つの剣を――…一つにする為に。
[秘なる書の青年は禁じられた知識と、かつての友から覗き見た秘密を引き出していく。二つの竜王。天聖と影輝。
十五竜王は結界の中に、ならば代理の、または新たな――…]
探さなくてはな、エレオノーレ殿を。
[足元には*影*]
―東殿・どこかの部屋―
[声に目を開ければ、アーベルがすでに立ち上がっており、ふらつく様子は辛うじて見えなかった。見ていれば、後に頼まれた事には従わなかったろう。
続くように自分も立ちあがる。
何度も繰り返した転移と治癒、そして剣を持ったときの反動と、三対の一つが欠けた影響は、こちらは頭痛と自己の回復方面に出たようで。
失った体力の戻りが遅い。今も完全には少し足りない80%といったところか。
目の前のアーベルよりは大分マシだとは思ったが。]
―東殿・どこかの部屋―
まぁ無理すんな。
怪我でなくとも、何かあったら呼んどけ。
[決意するような声にそう言いながら、自分はその場からゆらりと消えた。]
―――。
[ぱちりと目を覚ました]
……?
[少しだけ、何が起こったか分からないように、周りを見渡していたが、はっと気づくと、その身を起こした]
大地の!?
氷の!?
[叫んで、辺りを見渡すが、誰の姿もない。
……それどころか、いやに静かだ]
……どういうこと?
全て、終わったのかしらぁ?
[ざわつくような流水の気配は感じない。
いや。流水どころか、どの属性の気配すら、いやに静かで―――そこで、ナターリエは自分の体に残っていた氷の力が全て消え去っていたことに気づいた]
治ってる……?
氷のが、治してくれたのかしらぁ?
[疑問に答えるものはいない。
今はただ疑問を解消する術もなく、ナターリエが部屋から抜け出した]
……。
[カツン……カツン。
と、嫌に自分の足音が響いた。
部屋の外へと出てみても、やはり、気配はほとんどしなかった]
終わっては……いなそうねぃ。
終わっていたのならば、ここまで気配がしないほうが、逆に不自然、か。
[ならば、昨日の結果はどうなったのか。
「揺らされている」精神を止めることが出来たのか。
はたまた、大地のが所有している『力ある剣』が奪い取られたのか。
もしも、まだ騒動は続いているのならば……誰が今度は結界内に閉じ込められたのか。
考えることは山ほどある]
さて……どうしようかしらねぃ。
[一人で考えてるならば答えは推測の域を出ない。
全ての疑問に答えるような証拠が存在していないのだ。
当てもなく、ナターリエは歩き続け……やがて、食堂へと辿り着いた]
……一先ず。
喉の渇きでも潤しましょうかねぃ。
[食堂へ入り、そのまま足を台所へ向けると―――]
―――水の、気配?
[もちろん、台所ゆえに水の気配があるのは当然だが、それ以外に、水の力を使ったような匂いを感じる]
何故、こんな所で?
[それは、オトフリートが聖魔剣の場所を隠すために仕掛けておいたものだったが、聖魔剣が結界内に移動した以上、それを知る由は、もう無い]
……。
[いぶかしみながらも、トラップの類は存在していないのをナターリエが確かめ、まあいいかと無視して、適当に台所内を散策して、飲み物を見つけると、豪快にそれをラッパ飲みした]
……くはぁ!うまい!
[なんか、妙におっさんくさい]
それにしても、誰も説明してくれる人がいないのは困りますわねぃ。
[飲み物を片手に、ナターリエが適当にテーブルに腰をかけた]
うーむ。どうしようかしらぁ。
―結界の外―
[青年の気配は消せても腕輪のそれは消せないまま、結界の外へと歩み寄る。集中して剣がなく力を封じる銀を嵌めた右の指先を伸ばし、触れた]
………。
[ちり、と熱にも似た痛みに腕輪の気配が揺れる。
予想はしていたが、通り抜ける事は可能でも内部に入るのはあらゆる意味で危険と思えた。それでも試したのは万一の時の為]
< 海に抱かれるような心地がする。
それは生まれるより前、光と闇の合間を揺れていた頃に似る。
何も考える事なく、ただ、均衡を保つべく在った。
目も耳も口もなく、ただ、全てを写す。
遠く近く、静かな、声が聞えていた。青年の影が、滴を落とされたように微かに揺らめいたのは、灯りの所為だとでも思われただろうか。
名が一つ、紡がれる。
誘われる無い筈の瞳、一つめの眼を開くと、世界が見えた。
深い水の底に居るようで、遥か彼方の天を仰いでいるようだった >
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