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[視界に映るのは、カルメンと話すオトフリートの姿。
何の話をしているのだろう。
彼は、呂律が回らなくても、何か必死にカルメンに訴えようと、顔面を引き攣らせながらも、話をしながら……
そのうち、カルメンの反応がなかったのか、薄かったのか、ふっと止めると、ついっと後ろに下がっていく……。]
………。
[そのあと、小さく、カルメンが(せんせ…)と呟く声が聞こえた。]
…っ
[体内に侵入する薬物に軽い眩暈。思わず足に力を込めるけれど、それでは意味がないと頭では理解したが先に足が動いた。]
…!
[動いた?]
足が…
[変色していた足、その色は徐々に薄くなりやがて消えていくだろう。その様子を見ていた者は注射器が本物と気づけるだろう。]
皆にも…これを、…
後、誰かベアトリーチェに…お願い。
[傍に来た人には注射器を差し出していくだろう。]
[僕もまた、それを眺める。
カルメンは、静かにオトフリートに近づいて、
その視点の合わない表情や、呂律の回らない口を眺めていただろう。
そして、また、(せんせ)とだけ呟いて……
その細い指を、オトフリートの首に絡ませたかもしれない。]
カルメン?
それは駄目だ……。
[カルメンは、小さく震えながらも、確かに笑って……
その手をオトフリートの首に食い込ませていくだろう。
一瞬どうしていいかわからなくなる。]
[女の力は思ったよりもとても強くて……。
引きはがそうとしても、かえって、その華奢な指を折ってしまいそうになる。]
カルメン……駄目だ、……離れて……
[オトフリートの首に絡みついて、それは離れない。
段々と、オトフリートの顔が虚ろになってきただろうか…。]
あ………
[千切れるベルト……きっとそれは、それまでも、彼女が自分自身で引っ張っていたせいだろうか。
ゆるんで、いとも容易く……]
カル……
[そして、目の前で彼女はみるみる石化していく。]
―衣装部屋―
[石になったカルメンを見て、ただ、呆然としていた。
が、ふと、我に返る。
そして、手に握っていたバンドを再び彼女につけようと……
つけようとして、それはぽとりと落ちた。
そう彼女は石のまま……。]
………ッ
[それからはじかれるように立ち上がると、部屋を出ていく。もしオトフリートが呼んだとしても振り返らずに…。]
[そして、部屋を出た瞬間胸に痛みを覚えて一旦蹲るが、
荒い息をしながらも、すぐに立ち上がり、のろのろと移動する。
三階への階段を上る。エーリッヒの石像は上った先にあっただろうか。
それを見ると、顔を伏せ、先によろよろ歩いていくが…
やがて、その途中でやはり胸を押さえて片膝をついた。]
どうして、…
[皆、居たのに。
目の前で、石に。
誰が。ピューリトゥーイ。ゼルギウス。
何がしたいのだ――何が。
階段で立ち尽くす。
震える唇を手で覆った。
繋いだ手も、震える。
ノーラの眸は濡れていて
ベアトリーチェも、
其処に居たならゲルダも泣いていて
けれど、――ノーラの眸は確かな星を宿す。]
─ 階段 ─
[皮肉な事に回復薬は12本。目の前のエーリッヒを除外した全員分あった。
階段を降りて来たブリジッドに、ヘリ内にあった手紙を無言で差し出し、]
ロシアンルーレットでは無いと、
私は考えるよ。
[回復出来る人数と、ヘリの定員が異なっている事が根拠。
これが実験か、悪意あるゲームならば、被験者同士が椅子の奪い合いをしなくては意味が無いだろう。]
ご丁寧に自打ち出来る形態の注射器が、12本。
──人数分ある。
ベアトリーチェに打つのは、
私は怖がらせてしまいそうだ。
[と言って、一番適任そうなハインリヒを見た。]
―階段―
[ヘルムートにメモを差し出され、
ブリジットは包帯に包まれた手でそれを受け取る。]
――“ゼルギウス”
[眉を寄せた。常緑樹の眼の奥に湧き上るのは憤りか。]
どういうつもりなの――この、ひとは
[誰かがメモを見たいというならば、直ぐに渡す。]
12 で 人数 分 ?
待って 足りないわ
……、―― まだ 13人、居る でしょう?
[彼が居なくても、とは謂えなかった。
ずっと、姿を見ていないけれど。カルメン。あの、ナイフを持って居た、虚ろな目の(いつか、の 自分と重なるような)女性。何処へ。]
―3階階段前―
ブリジット…、…
[人が増えれば少し窶れた顔を彼女に向けて
白い花、気になって、違えばよい。だけど僅かな不安。]
…、――みせてもらうわ。
[新緑は深く、彼女を視ただろう。]
私も最初同じ事を考えた。
ユリアンだ、ブリジッド。
だが、エーリッヒがユリアンだった場合は
──その通り。数が足りない。
それに、ヘリはついさっきまで閉じていた。
[ノーラが落ち着き、研究室の方へ行くのを視送る。自身はエーリッヒの像の側を離れずに。
ノーラが戻ってきて注射を打つのをじっと聞いていた。
12人分。エーリッヒはもう、いない]
あと一本足りないわ。ああ。
ユリアンさんはいらなかったっけ。
[呟いた]
[出来得る限りの速度で下る階段に、響く靴音がやけに大きく感じられる。
否、靴音なのか自身の心臓の音なのか。ずっと続いている頭痛が鮮明だ。それに身体がさっきよりも重い。手足に痺れがあるのは、石化が脇腹の傷口から内臓に到達しつつある所為か、それとも市販薬が合わなかったのか。ヘリポートから走っただけでこうなのか。それとも──。]
ダーヴィッド。
──死ぬな。
[名前を呼んで、すぐ目の前にしゃがみ込んだ。
閉じられたダーヴィッドの目蓋。誰もがそうだったが、色の悪くなった皮膚。
指を伸ばし滑らせるのは、ダーヴィッドの首筋。
バンドの数値を確認するため。
──触れた男の首筋は、]
嗚呼。
まだ温かいな、ダーヴィッド。
[息を漏らして、目を伏せた。数値もさほど変わっていない。]
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