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[だから、だろうか。
手当てをしようという気は、起こらなかった。
痕を追う理由は、わからない。
生存者を見つけようとしているのか、
死者を確認しようとしているのか。
ただ、窓の外の景色を眺めながら、歩み続け、]
―――…あ、
[人影を見つけた。
ヒサタカともマイコとも異なる姿。
「殺されそうだった」、そう言った。
ガラリと、反射的に窓を開けた]
[傷が大体癒えたと確かめた後、ゆっくりと立ち上がる]
……下ろしたばっかりなんだけどなあ、これ……。
[切り裂かれ、変色した紅で黒く染まった胴着に、ぽつりと呟く]
ま、この後使うかどうかもわかんないし……気にしても始まらないか。
[二階の廊下。当然だが、誰も片付けていないそこには、戦いの痕跡が残り。
窓から差し込む残照が、砕けたガラスを煌かせるか]
…………。
[僅かに、目を伏せ。しばし、その場に佇む]
[校舎を振り返ったのは唯の偶然だったのかも知れない。
音に対する感覚は鋭くても、聴覚が人並みはずれて優れている訳では無かったから。
周囲は、窓の開く音さえ聞こえるほど静まり返って居たが、それが耳に届いた訳では無かったのかも知れない。]
[見れば互いに何処かしら傷を追い、血を浴びた姿だ。
それがあまりに非現実的で、風景からかけ離れすぎていて、どこか可笑しくて少し笑った。]
[フユの衣服も奇妙に染まっていた。
その正体など、考えなくてもわかる。
わざわざ玄関に回る時間が惜しくて、
窓を乗り越えようと手を掛ける。
が、それは途中で止まった]
………何、…笑ってんの?
[行動を問うたのか、理由を問うたのか。
曖昧な言葉]
……お互い……なに、やってたんだろ、ね?
[不意に零れ落ちた、小さな呟き。
微かに掠める、苦笑。
ゆっくりと窓に近づき、下を見やる。
裏庭に、人影は見えない。
それを確かめると、そのまま窓から下へ飛び降りる。
血痕は、目に入ったものの。
今は、自分の状態を整えるべきか、と思い、外壁に沿うルートで、寮へと向かう]
[いるかなぁ、いないかなぁなんて思いながら、彼女の部屋をノックする。
人の気配はない。
答えもない。
片手に握っているバトンが、くるくると回った。]
どこだろー、本当に
…似合ったら、嫌だろ。
フユっちだって、似合わねえ。
手当て、しねぇの。
[身体を窓枠の上に持ち上げようと、腕に力を入れる。
傷口が痛みを訴えた。
眉を顰める]
[左腕に、肩口に、脇腹に。
確かに自分も、酷かった。特に、左腕が痛む]
…どっちもどっちだと思う。
[普段より苦労しながら、外に降り立つ]
せめて、なんか―――
あ。
[緋に濡れた手を服で拭いて、ポケットを漁り。
ハンカチを1枚、取り出した。
淡い青。それも、異なる色彩が移ってはいるが]
借りたまんまだった。
─寮─
[寮に戻ると、感じるのは人の気配。
食堂と、給湯室に生ける者]
…………。
[ただ、一方には。
微かに、嫌な感触。
それは、残滓のようなものか。
先ほど還した、もう一人の力の]
ん、…サンキュ。
[手伝われた事に驚いて、
目を見開いてから、そう返して]
そ。
いつ、借りたんだっけか。
なんか、すんげぇ前の気がする。
[こんな格好でするには、暢気な話だった。
いや、今だからこそ、だろうか]
ん。
[小さな布に、目を落とした。
そこには、既に乾きかけて黒くなった血の染みが在ったが。]
凄い前の事みたい。
まるでもういつだったか思い出せないくらい昔のこと。
[ハンカチを持ったショウの手を、彼に向けて押す。]
血くらい拭きな。
…そっちが拭けばいーのに。
[口を尖らせながらも、言われるままに、
乾き切らない血を拭う。
濃厚な緋色が、淡い色彩を塗り潰していく]
あー。
返そうと思ったのにな。
また、洗って、
[言葉は途中で止まる。]
―――…またなんて、あんのかな。
っ、せぇーな!
背のコトは、言うなっての!
[表情を歪めながらも、眉を吊り上げる。
手の中で、ハンカチをくしゃりと握った。
視線を上げる]
戻るつもり、ないって。
どうでもよくなんて、…ねぇだろ。
……どうでも良いって
言ったでしょう。
[声を荒げる。]
大体アンタ、いっつも煩いの。
教室でもはしゃぐし声はデカイし馬鹿だし
私は静かなのが良いって思ってたのに。
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