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[旅籠へ戻る道すがら、煙草に火を点けてくわえていた。
この後はまたしばらく、のんびりと吸えそうにない、という思いがあったから]
……さっさと片付けて、ゆっくり吸えるようにしねーと。
[やりきれねぇな、とぼやきつつ。
見えてきた旅籠の灯りに目を細め、そちらへと急ぐ。
扉の前に立てば人の気配と、話し声。
どうやら、何事も起きてはいないらしい、と安堵しつつ、扉に手をかけ、ゆっくりと開いた]
[目というのには軽く首をかしげながらも]
そうですか…いえ、いいんです。
外の人間ばかり襲われていたのを見て、薄々村の人間に取りついているのか…と思っていまし…
[涼の言葉というのを聞き、一度涼を見た後]
できることはありますか?
[蓮実の確認するような言葉に一つ頷いて。彼の視線が玲に向かうのを見ると、つられ玲に視線を向け]
時間が、無い…?
力ずくでも、って、止めるべき、相手は、誰?
[玲達が知った情報は、榛名は伝えられていない。それ故に誰を止めるのかが分からなかった]
[髪はタオルで水気を取ったものの、未だ湿り気を含む。
その合間から、一筋の傷跡が僅かに覗いた。]
また・・・も一つ喰えりゃ、少しは、
[気分の悪さを解消したくて、そんな考えに至る。
気絶していた涼が帰って来たことを、獲物であるヒトビトにその正体が知れ渡っていることを、
かれは未だ知らなかった。]
そう、なんだ…。
でも、無理は、駄目。
[大丈夫と言われても心配なのは心配で。少し強い語調で玲に告げる。
そんな中、旅籠の扉が開く音を聞き、視線をそちらへ向ける。そこには着替えてきた史人の姿。無事な様子に安堵の色を浮かべる]
涼ちゃんと、約束したの。
説得する間だけは、孝兄を視ないようにするって。
だから、涼ちゃんが説得しに行った相手が。
私が視ないと約束した相手が。
桜に魅入られてしまったモノ。
[玲と蓮実から止めるべき人物の名を告げられ、僅かに息を飲む]
孝博君、が……。
[驚きはあったが、同時に心に引っかかっていた疑問が解ける]
そ、っか……だから、あの時、綾野を、引き合いに、出したんだ…。
無意識、だったのかも、知れない、けど。
よ……ひとまず、何事もなく、か。
[そこにいる面々を見回して、一つ息を吐き。
丁度、耳に入った、止めるべきものの名に。
す、と表情を引き締めた]
……孝坊が、か。
[ぽつり、零れ落ちるのは小さな呟き]
[気配に顔を上げた。僅かな紫煙の匂い]
うん。
終わらせないとね。
私たちには私たちの大切なものがあるから。
[少し前、涼に言ったのと似た言葉を]
どんなに哀しいと思っても。
両方を取ることはできないから。
[もう一度。確かめるように口にして]
私は外のものではないと。そこまでしか考えていませんでしたが
[外のものが外のものばかり襲うのはいい手とは思えずにいて
後は利吉のいった相手だと…涼のことを思うならば真剣に考えてのことであろう。そして利吉が死んだということは
合致した玲の言葉と榛名の綾野を引き合いにという言葉で、軽く頷き]
これから、起こりそうですがね
[戻ってきた史人にはそういって考える
裕樹が琉璃を殺せたということは、殺せるということで]
ん、そうだな。
[顔を上げた玲の言葉に、頷いて]
終わらせなきゃならない……こんな事は。
これ以上、何も失わずに、奪わずに、済ませるためにも。
[それに、と。そこで一度言葉を切り]
……見守り、鎮め、そして諌めるが役割を、果たすためにも、な。
ま、起こるだろうな。
[蓮実の言葉に、軽く、肩を竦める]
後は、それを最後にできるかどうか……ってだけだ。
勿論、そのつもりでいるけどよ。
[言いつつ、服の上から確かめるのは、黒檀の短刀]
ダレに、殺されるッて。
オレが。
[苛立たしげな声が洩れると同時、扉は音をたてて開かれる。
ヒトの気配のほうへと足を進めた。
漏れ聞こえて来る話の内容など、ろくに耳に入りはしない。]
終わらせる…。
やらなきゃ、いけないんだよ、ね…。
[いくら魔に侵されし者とは言え、相手は村の人間、己も良く知る人物となれば表情は曇る。これだけのことが起きたと言うのに、何故か負の感情が浮かばない。在るのはただ悲しみのみ]
…私にも、何か、出来ること、ある…?
[誰に言うでもなく、不意に言葉が漏れ出た。皆やるべきことを、やろうとしている。自分は一体何が出来るのだろうか?]
でしょうね
[軽く言って史人と同じように肩を竦めるが]
史人。裕樹は私にとって大事な存在でした。
…ですが、あなたもそう。
だから、生き残りますよ。でないと許しません
[目を見てきっぱりと言い切り]
ま、私は臆病なので許さないといっても大したことできませんがね
[なんていって情けないような笑みを浮かべようとして、開いた扉を見る]
――!
[音に振り返る。開かれた扉の向こうから近付く人影]
私たちが。
あなたを殺すよ。
[薄汚れた白の懐に抱いていたそれを抜き出した。
葛木の技を見せてもらう、その一番最初に渡された一本の鑿]
これ以上は、もうさせない。
させるわけには、いかない。
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