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―北の遺跡/夜―
[静まり返った夜の遺跡にふわりと現れ]
……彼は一体、何をしてましたかと。
[感じとった血の匂いに、ぽつりと呟く。
顔を合わせたら、問答無用の小言、決定]
[ともあれ今は、と陣を展開する。
書、そのものの力を辿るのは難しく。
また、影輝のように均衡の乱れを辿る力は彼にはない。
ならば、どうするか]
……移ろいを辿る……か。
[時の流れの中の、微かな力の移ろい。
その違和を、読む。
それならば、見付けられなくもないだろう]
大きな変化ではなく……小さな移ろいを。
[呟きに応じて。
鎖が舞う]
[ソファへ横たわり、無惨な姿を晒す(その寝顔に危機感は皆無で、また別の意味で無惨だが)ダーヴィッドの、額に巻かれた包帯。そこにも血が滲んでおり、乾ききらない血は乱れた髪とは違った色で、その下の傷口がまだ開いたままである事を示していた。]
[それを見たミハエルは少し、眉を顰め]
[ソファへ身を屈めて、血糊で額へへばりつくダーヴィッドの髪を剥がしはじめる。]
[包帯を解くと、血の止まる様子もない傷口。
抑えていた物が無くなって、流れる鮮血。
立ちあがる香りは甘露。]
[傷口に指を当てる。額を撫でるように、指先でなぞる。
傷口に溢れる血は、水。
凍らせてその流れを止める。]
[力あるものが立て続けに隔絶されたためか、町の中の力の移ろいは大きく。
その一つ一つを辿り、違和を探す。
書ほどのものを隠すのであれば。
いかなる手段を用いようとも、その瞬間には移ろいが生じるはず。
それも、自然ではない、移ろいが]
…………何?
[やがて、捉えた違和。
それが閃いた場所は]
……取りあえず……後で、場所の記憶を辿る……か?
[一つ、息を吐いて空を見上げる。
色の異なる瞳には、やや翳りめいた色]
ともあれ、もう一仕事はしないとな。
[呟いて、再び鎖を舞わせる。
崩れた均衡を正す術は持たないが。
そこから生じる歪みの時に干渉し、*そのうねりが暴れだすのを遅らせるくらいはできるだろうから*]
[ひとたび止血が終わった事を確かめる。
(彼は火のちからを持つものだから、やがて氷も溶けるだろうが)]
[包帯を解いた際に溢れた血が、額からこめかみへと伝っている。ソファへ落ちそうなその雫を、指先で拭った。ミハエルが自分の指を口許へ運んだ小さな動きは、アマンダやカウンターの方からは見えなかったろう。まして舌先で唇を拭った事も。]
[片手で頭を持ち上げ、もう片方の手で器用に包帯を巻いてゆく。始終空きっぱなしの口の中も凍結させようかと思ったが思うだけに留めた。]
…シャワーを浴びる程度の分別も無いか。
[溜息を吐き、カウンターへ。
ミハエルのまだ注文していないにも関わらず、既にアイスティーはカウンターの*隅の席へ。*]
−中央部・教会−
[祭壇の奥、神さまの御姿を画いた絵を、虚ろな緑の眼で見つめます。
礼拝堂のうちはがらんとしておりまして、誰も居ませんでした。魔の施した結界により皆の心の流れは変り、力のないものはそこに近寄らず、そして変ったことに気附かず、不思議にも思わないことでしょう。]
……主の、御心のままに。
[小さなくちびるは聖なる句を紡いで、左の手は絵に触れようと持ち上げられました。けれども、しゃらりと鎖が鳴ったものですから、びくりと震えすぐさま引いてしまいました。何べんか、左右に首を振ります。]
……なぜ?
[それは誰に対する、なんの問いかけだったでしょうか。]
どうして?
[ぐるぐると回って気持ち悪いのは視界でしょうか、からだを巡る力でしょうか、頭いっぱいに溢れそうな感情でしょうか。]
わからないよ。
[応えるものはありません。]
―現在・図書館―
[...は閲覧コーナーで本を読みふけっていた。
『精霊使い虎の巻』『サルでもわかる属性の秘密』などの題名が見て取れた]
[こっそり持ち込んだアンパンを食べながら、
今は「探偵手帳vol2」にいろいろ調べたことを纏めている]
[ここ二三日...の側に彷徨ってた蝶の姿はいない。
呼べばきっとすぐに来るはずだが...にその気はない]
しかし……むう。
全然わからない。僕ってサル以下?
[...は気を抜くとやってくる眠気と戦いながら、
*必死にページをめくる*]
−西の桜の大樹−
[アマンダはあっさり甘味を食べ終え、桜の樹へとやってきていた。
ミハエルには普通女性は食べられないどうこう言われていたが、アマンダは女性じゃないので気にしない]
…うん、大丈夫。
ティルはちゃんと生きてるよ。無事…ではないけど。
[アマンダに樹の言葉は判らない。
大地を通して感じた不安にも似た何かを宥めるように、幹を撫でる]
[アマンダは大地に片膝を付き、手の平を当てる。
花曇りゆえか人影はほとんどなかった。嵐が来るのかも、しれない]
…さあ、落ち着いて……、あれ?
[微かな違和感。
桜の樹の根元。
意識を伸ばして、撫でるように優しく触れる。硝子の感触]
[その硝子から伝わるのは、結晶の間に沁み込んだ――翠樹の力。
アマンダは細心の注意を払い、その硝子を手元へと引き寄せる。
手の平に収まったそれを良く見れば、ティルがいつも首から下げていた硝子の小瓶だと、わかった]
…どうして、ここに…?
ううん、そうじゃない…君はまだ、ここにあるべきではないんだよ。
[アマンダは、何かを内へと秘めた小さな硝子の小瓶に語り掛ける。
そして、大地と風の場を整えて。
それを終えれば、持ち主の下へと*小瓶を運んで行くだろう*]
[ゆると目を開く、苗床は、何を見るのか。
ダウン状態の火の竜は見ていないだろうか。
その頬に透明なしづくが伝い、]
“ ”
[昔あいした人の名がこぼれた。
*小瓶は今は手元になく*]
─喫茶室─
[とろとろと見るのは、浅い夢。
色とりどりのおはじきを乗せた天秤。
ちいさな指が、それをつまみあげ、
揺らいで傾ぐ秤に首を傾げる気配。
下がった方をひとつ摘むと、もう片方へと秤は傾いで。
ひとつとり、ふたつとり、右へ左へ秤は揺らぎ。
揺らぎが止まったその時には、秤の上はどちらも空っぽ。]
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