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─雑貨屋─
[ぽふり、と頭を撫でられる感触。
それ自体は、嫌ではない──のだけれど]
むぅ。
……もう、子供じゃないってのに。
[こんな気持ちも、同時に存在していて。
広場に向かう従兄を見送る様子は、拗ねたようにも見えたやも]
て、あ、ああ。
別に、構わない……。
[続けて投げられた問いかけ。
構わない、というより先に、青年は店内を見始めていて]
その刺繍は、ウチの幼馴染のゲルダの作品。
そっちの細工物はヴィリ兄さん……こないだ、酒場で話してたヒトの作品だよ。
どっちも、丁寧な作りだろ?
[問われるまま、品についての説明をする。
幼馴染の作品について語る時の口調は、特に誇らしげで]
誰かさんがやきもき……って。
……別にそんなん、ないと思うけどなぁ。
ん、その時は現金払いでよろしゅうに。
[また、と言う挨拶に、またね、と返し。
またしばらくは、掃除道具やら何やらを買い求める客相手に動き回って。
その合間を縫うように、菓子作りを進める。
自衛団員がやって来たのは、それが焼き上がる頃]
いらっしゃーい……って、あれ。自衛団の。
……旦那の宿に集まれ、って?
なんか、あったの?
[やって来た自衛団員の言葉に、一つ、瞬く。
なんとなく、嫌な予感めいたものが過ぎったのは、気のせいか、*それとも*]
─宿屋─
[粗方の仕事が終わると手持無沙汰でぼーっとする時間が増える。嵐のお陰で新たに島へやって来る者もおらず、島の者も自分達のことで精一杯なのか酒場は閑古鳥が鳴いていた]
………は〜ぁ。
[そんな中、フーゴーはオーナメントの手入れをしながら溜息をつく。余程船のことがショックだったのだろう。店の外装に受けた傷などに手を付けることは無く、それらはリッキーが拙いながらも直していた]
[何度目かの溜息を漏らした時、店の扉が開かれ自衛団員が入って来た]
いらっしゃい、飯か?
[気落ちした表情ながらも出迎えて、訊ねてみたが返って来たのは否定の言葉。聞けば後でここを貸して欲しいと言う]
そりゃ構わねぇが……何かあったのか?
[再度の問い。それには「後で団長から説明がある」とだけ告げられた。他にも何名か集められる旨と、更にはフーゴーにも参加して欲しいとの言]
俺もか?
まぁここぁ俺の店だからどちらにせよ居ることになるだろうがよ…。
説明、なぁ…。
[訝しげな表情を浮かべる。自衛団員は必要事項を告げると直ぐに店を出て行った。入れ替わりに入って来たリッキーが何事かと訊ねるも、フーゴーは首を傾げるしか出来ない]
とりあえず、この後ここを集会の場に使いたいらしい。
飲みもんと、つまむもんの準備くれぇはしとくか。
リッキー手伝え。
[手入れしていたオーナメントを元に戻すと、フーゴーはリッキーを伴い厨房へと向かう。そうして、他の者が集まるのを待つのだった]
―ゲルダの家→ヴィリーの家―
[剣と、黒地に金の装飾が入った鎧を担いで。案内されるまま、ヴィリーについていく。
途中途中で老人や子どもたちに声を掛ける様子に、「私にも出来ることがあれば手伝わせて下さい」と微笑んで告げた。
この島の様子も気になり、見て回りたい気もあるが。友人たちの心配をするヴィリーの気持もわかるので、ふわりと微笑んで応じた。]
かしこまりました。いってらっしゃいませ。
[ヴィリーを見送った後は、とりあえず何をしようか……と考えて。]
…………簡単に食事の支度でもしておきましょうかね。
[キッチンに入って食材を見繕い、*料理をしはじめた。*]
― 自宅へ ―
リディさんも、ですか。
[港へ向かう途中、自衛団に捕まると、
彼等は大した説明もなく
――「理由は後から団長が云う」
の一点張りでフーゴーの宿へ向かうことを強要する。
別段、深入りすることなく自分が向かうことには頷いたが、
リディもと云われれば首を傾げた。]
さて、あの子は何処にいるのでしょうね。
分かりました、探すだけは探して向かいましょう。
[彼等は学者を少女の保護者と位置付けていたようで、
それにしては淡々と保護者としてはあまりな言葉を吐く男を、
訝しげに見るも、当の本人は気にした様子なく。]
……もしかしたら、家に戻ってますかね。
[嵐の後だというのに、特に家の中を見て回ったわけでないので、
まさか少女が濡れ鼠のまま、部屋の隅で寝ていたなどとは知らず。
先程のアーベルとの会話もあって、
念の為、家の様子も見ておこうと、
ついでに云えば、幼馴染がやってくるような、
そんな虫の知らせも感じながら、元来た道を引き返す。]
おや、まぁ…――。
[そして家に辿り着き、内部を点検中に、
未だ部屋の隅でリディが寝ていたなら、
その様を見て、言葉としては意味をなさない呟きと共に、
ハタリと一度瞬きをするだろう。
居ないならば、点検後フーゴーの宿へ向かう心算。]
[どうやら、ライヒアルトが戻ってくるまでずっと眠ったままだったようで、少女は早朝と同じ姿だった]
みゅう……。
[小さく呟き、人の気配がすると身じろぎして、薄く目を開けた]
……。
[焦点が定まらない。
なんだろう。誰がいるんだろう]
……ん。
へくち!
[くしゃみを一度してから、目をこすってもう一度よくそこにいる人物を見つめた]
……ライヒアルト……?
― 自宅 ―
はい、ライヒアルト=クラインベックです。
おはようございます、リディさん。
[おはようと云うには既に陽が高いなと思いながら、
常と変らない調子で挨拶を。]
濡れ鼠のままで寝てしまったのですね。
風邪、引いてしまいますよ。
[眼を擦る相手に、碧の眸を合わし首を傾げる。
くしゃみをしているところから、既に引いてるのでは?
と突っ込みを入れてくれる人は、残念ながら今は居ず。]
一先ず、お風呂で温まったら良いです。
――そう云えば、着替えありましたっけ?
[そして、今更ながらの質問を一つ真顔で尋ねた。]
[少女の脳裏に浮かんでいるのは森の中。
自分は綺麗に切られた切り株の上で丸くなっていて、その先に見える背中をなんだかよく分かんない感覚で見つめていた。
───現在、そこにいるのは少年でも、背中でもない。こちらを向いて立っている青年の姿。
それを確かに確認できたとき、少女は目に涙を浮かべながら、大きく叫んだ]
───嘘つき!!
[耳の奥までキーンと響くような声]
……約束……したじゃない。
[目からポロポロと涙が流れた]
私はずっと───。
[あの森の中で]
───待っていたのに!
[───待っていたのに]
[思い出の中と現実のセリフがリンクする。
幼き頃の記憶など誰が鮮明に覚えていられるだろうか。ましてや目の前の少女があの時とは全く違う姿になっていたのならば、なおのこと。
そして、決定的に違う点として、あの頃は約束なんてしていなかったこと]
― 自宅 ―
[少女の甲高い声が、鼓膜を震わせハウリングする。
その感覚に、学者の男は僅かに表情を動かす。
――正確に云うならば、眉が3mmほど中央に寄った。]
…――約束、ですか。
[リディの涙には、それ以上表情は動かず、
かわりに『約束』の言葉を受けて逡巡する仕草。
くの字に曲げた指を顎に当てた。]
嗚呼、昨晩はフーゴーさんの所に行けませんでしたね。
申し訳なかったです。
[少女の昔は知るところでないから、
今の彼女と交わした『約束』らしいものを思い出し、
無表情で謝り、頭を少し垂れる。]
……昨日食べれなかった分、
今日、デザート2品でも頼んで宜しいですよ?
[そして、おそらくピントのずれた提案を零した。]
ううう〜。
[ライヒアルトを凄みが全く無い瞳で睨みながら唸り声を上げた]
やっぱし、憎い。ライヒアルトは憎い。
もっと、もっと復讐してやるんだから。
[少女にとっても、昔の記憶など曖昧だ。
たまに閃光のように思い出される記憶だとて、すぐに忘れる。それに、覚えていたとしても本当の記憶がどうかでさえ定かではない。
それ故、今の焦点はデザートに収縮するわけで]
……2品は昨日と同じだもん。3品より下には負からない。
[完全にピントはずれた]
― 自宅 ―
復讐は構いませんが、胡椒はもうやめてくださいね。
スープが味気なくなってしまいますから。
[胡椒に関しての、一番の重点はそこだったようで。
凄みのない視線を受ける頃には、3mm寄っていた眉も元に戻り。]
嗚呼、2品というか、同じものを2杯でしたね。
…――お好きになさってください。
どの道、フーゴ―さんの所には行かなくてはならないようなので。
[相変わらず説明を省いた言葉を紡ぎながら、
視線を少女の上から下に滑らせた。
そして、結論。]
とりあえず、お風呂にどうぞ?
着替えがないなら、私のを貸しましょう。
うん。
ご飯が美味しくなくなるのは嫌だから、胡椒はもうやんない。
[復讐云々よりも、気になるのはそちらのほうだったようだ。
なんか変なところで似ている]
わ。やった。
食べれるだけ食べてやるんだから。約束だからね。
[そう言った後、風呂を勧められると素直に頷いて、そちらへ向けて歩き出した。
───が]
わ!
[足がもつれてこけた]
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