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そういうことです。
少なくとも貴方は、私の中では『疑いの少ない方』でしたし。
[淡い笑みを見せて]
覚悟を決めるのに時間が掛かったのは謝りますよ。
まあ、それだけでなく…色々ありましたから。
[ゆるりと村を振り返る。
顔を向ける先は、ミリィの家のある方角]
それでは、私は一度診療所の方に戻ります。
昨日から自分のことに手一杯で、放り出してしまってある仕事も幾つかありますので。
『貴方が信頼できる方』にお話されるのは構いません。
私は『疑っている人』にお話するにはまだ躊躇がありますが。
必要とあれば皆の前で告げることも致しましょう。
[それだけ言うと、頭を下げて丘を後にした]
[抱き返されるイレーネの腕が心地良い。
それも相まってか、挨拶を返してくるイレーネに少し笑いが漏れた]
…ああ、おはよう。
……昨日の夜から、ずっと探してた。
ノーラ達のことと、ミリィのこと、聞いて…。
[僅か沈んだような表情で言葉を紡ぐ。
出来るだけ詳しく言わないような言葉を選んで]
……それはどうも。
[疑いの少ない方、という言葉に返したのは淡々とした言葉]
……覚悟なんてのは、容易く決められないからこそ、覚悟なんですよ。
[続いた言葉は、どこか自嘲の響きを帯びたが、果たして届いたかどうか。
診療所へ戻る、という背を見送りつつ、軽く、腕を組む]
……さて、これはどういう事になるのやら。
[零れ落ちるのは、小さな呟き]
[自警団員は、昨日の事を尋問してきたが。
相手が子供だからか、それともイレーネが自分の事を「人間」と言ったからか。さほど酷い扱いは受けずに開放される]
女将さん…ノーラ姉ちゃん…
[宿でいつも世話になっていた女将さん。フランツと幸せそうだったノーラ。2人の姿が脳裏に浮かぶ。そして…]
ミリィ姉ちゃん…
[正直、ミリィの事はあまり好きではなかった。それはあまりに子供じみた嫉妬心だったのだけれど。
けれど、子供にだって、お互いが好きあっていることくらいわかったのだから]
…オト先生、泣いてるかな…
[ぽつりつぶやけば、家に居る気がなくなって。そのまま家を出た]
−共同墓地−
[墓石の前に佇む。
其処に、姉は居ないと知っている。
土の下に眠るのは、顔も覚えていない父と母。
エーリッヒの前で口にしたように、墓参りにすら碌に来ていない。
しかしそれは、記憶が朧気だったが故ではない]
貴方達も、――…醜かったっけね。
[手向ける花はなく、投げる言葉は、
凡そ、両親に向けるものとは思えない]
[ノックというにはあまりにも乱暴に叩かれるドアの音。二日酔いでまだ痛む頭にその音が響き渡る。苛立たしくて思わず手元にあった枕をドアに向かって投げつけて]
うるせっ!たまには『清々しい目覚め』ってのを俺にも味合わせろっての!
[それにも怯まず『ドアを開けろ!』と殺気だった声が届く。渋々とドアを開けた先に居たのは案の定自警団の連中だった]
ああ?なんだよ?…ここに泊ったのは、さすがにあんな状況の家に戻りたくなかっただけで…はぁ?
…ノーラが殺された…?
ま、取りあえず。
今の話は、伝えておくべきか……。
[誰に、とは言わず、ゆっくりと歩き出す。
ここに留まっていても仕方ないし、というのもあるのだが]
[家の扉をそうっと開けてみる。そこに自衛団員の姿はなかった。恐らくは、軽い軟禁状態にしていたのは一時の戒めだったのだろう。
もしくは、他にやるべき仕事ができたのか。
ほっと息をついて、外に出た。]
アーベル……。
大丈夫かな。今頃、どうしてるんだろう。
[急ぎ足で、道を歩いてゆく。
殴られた頬は、幸い痛むことはなかった。
と、丘から診療所に向かって、誰かが歩いていく姿が目に入る。]
先生?
え、そんなに長く。
[そういえば昨日はミリィと…もう一人の人の事に感けていた気がする。別段ユリアンの事を忘れていたわけではないが、気がつけば夜中で会うような時間ではなかった故に。]
ごめんね、昨日は…
あ…うん。そう、ミリィの所に暫く居たから。
[昨日の事、を思い出すと表情は翳る。]
…ノーラさんたちも亡くなったんだよね…。
あ、あのねユリアン、私。
[ふと思い出したように顔をあげて。]
私が昨日『視た』のは、ノーラさんだったんだけど…。
駄目、だね。亡くなった人を見ても…。
[これでは意味が無い。その事実に申し訳なさそうに顔を伏せた。]
ああ、ユーディット。
おはようございます。
[小さく頭を下げて挨拶をする]
…どうしました、それは。
[腫れの残る顔を見て眉を寄せた。
様子をちゃんと見ようと近寄る]
おはようございます。
ええと……。
[昨日のアーベルの言葉を思い出す。
気になる、という評価。
気付かれぬぐらい、ほんのほんの少しだけ、身構える。]
……ちょっと、若かったんです。私が。
[笑ってみせた。]
…女将もかよ…。あぁ?気づくも何も…酒かっくらって寝ちまった時はよっぽどひでえ騒ぎにでもならねーと目が覚めねーんだよ…お前らだってそういう経験くらいあるだろが。
それともあれか?俺が犯人とでも言いたいのか?ああ、そうかもな。で?証拠はどこだ?
ねーんだろ?ならそこ退けよ。
[ドアの前に詰め寄る自警団を押しのけて宿の部屋から出る]
俺が泊った部屋調べたきゃ好きなだけ調べてろよ。
どーせ何もでやしねーんだから。
[立ち去ろうとするハインリヒの肩を自警団の一人が掴んで止めようとするが、その手をパシリと打ち払い]
…んな事より。他の奴らは無事なんだろーな。
[その言葉を聞いた自警団の顔が少しだけ歪む。そして続けて放たれた言葉は]
…ミリィもかよ。まさかテメーらが無茶したせいで自殺ってんじゃねーんだろうな。
[目に篭るのは微かな殺気]
[驚くような声に、ん、と短く返事をして。
続く言葉にはゆるりと首を横に振った]
いや……。
…そっか、傍に居てやったんだ、な?
[どのタイミングでミリィが亡くなったのかは分からないが、死した後にも傍に居たのだろうとあたりをつけ。
ノーラ達の話になると一つ頷く。
それから名を呼ばれ、イレーネの顔を覗き込んだ]
…ノーラ、を?
そうだったのか…。
……ノーラ達は人狼に襲われた、らしい。
となると、人でしかありえない、か…。
[申し訳なさそうなイレーネの姿に、抱き締めていた腕に力が籠る。
慰める言葉がなかなか出てこないため、その代わりであるかのように]
……、
同じ場所に逝ったのなら、逢えてるのかな。
[独り言ちるような、語りかけるような言葉。
応える声があろうと聴くことは叶わない。
感傷に浸っているにしては、言い様は淡々としていた。
眼を伏せると、踵を返してその場を去る。
足下に居た白猫が、ちらりと後ろを振り返りながらも、青年の後を追っていった]
[ともかくとして、宿を出る。ミリィの事を聞きオトフリートに会いに行こうかと考えた。]
先生さんならなにか知ってるかもしれねーしな…。
アーベルの奴も心配っちゃ心配だが。あいつはどーもなぁ…。
[宿から出たところで、一度だけ振り返りノーラとエルザの為に目を瞑り祈りを捧げた]
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