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−→Kirschbaum−
[アマンダは、ゆっくりと扉を開ける。
けれども来客を告げるベルは、小さく空気を振るわせる]
…こんにちは。
起こしちゃった、かな…?
[ソファーの二人に視線を投げる]
[未だ癒しの夢の中にある火の竜の邪魔はせず、小瓶の持ち主へと近づいていく。
瞬きに気付けば微笑みを。既に零れ落ちたしずくには、気付かない]
おはよう、ティル。
気分はどう? 何か、欲しいものはある?
[冷たいものでも、と傍にかがみこんで問う]
[アマンダは片手を伸ばし、ティルが起きるのを手伝おうとする。
ちょうど視界の端で、ダーヴィッドが手を額へと運ぶのが見えた]
…あ。…ゴメン、ダーヴ。起こしたかな?
[倒れないよう背を支えたまま、首をかしげて声を投げる]
[アマンダはティルが少しでも楽なように、その背をソファーへと凭れさせる。
そうしてから、彼の視線に気づき小首を傾げた。その表情の意味までは判らない]
ん? どうかした…ああ、先に水分かな。
ハーヴ、何か飲み物を…
[乾いた唇と小さな声に、水分補給が先かと判断し立ち上がろうと]
[アマンダは首を振るティルに、不思議そう。
けれど、手際よくカウンターに準備された二つのグラスの涼しげな音が小さく響けば、受け取るために足を踏み出し]
あ、そうだ。これ、届け物
[手が埋まっていてはグラスが持てぬと、ティルの手にそれを渡して]
もう、失くさないようにね
[それだけ言って、ソファーに背を向ける]
−中央部・広場−
[ベアトリーチェは広場に置かれたベンチのひとつに座って居りました。膝の上にはスケッチブックがあり、手の中には鉛筆がありましたが、肝心の紙はまっ白で、そこにはなんにもありませんでした。
眼は行交う人びとに向られていましたが、ここではないどこかを見ているようでもありました。]
[返された小瓶を見て、その瞳からふたたび涙があふれる。
それはしあわせそうでも……かなしそうにも*見えたかもしれない*]
ありがとう
[そうしておりますと、黒の猫がするり人ごみを抜けて、足もとまでやって来ました。左の手を延ばして触れ、ベアトリーチェはゆっくりとまたたきをしました。生きたものではないそれはあたたかいのかもよくわからず、ただ、きみょうな感覚がありました。]
[アマンダは耳に届いた声に、少しだけ振り返る。
翠樹から零れ落ちそうな透明な雫と、その表情に微かに息を呑んで]
……ん
[一つだけ頷いて、水分補給の為のグラスを取りに行く。
しあわせそうな、かなしそうなその表情に、気付かない振りをして]
[地に届かない足を、ぱたりと揺らします。]
……お腹が空いた。
[なんとなく声に出して云いますと、白い紙に円く線を引いてゆきます。今の季節にはない、赤の果物。ベアトリーチェはよく、そのままに齧ついていたのでした。]
[音のすぐあと、透明な光が舞ったのが見えた人は居なかったでしょうか。気附くとベアトリーチェの小さなてのひらには、すきとおるような赤いいろの果実が収まっていたのでした。]
[アマンダはティルの傍のテーブルに、そっとグラスを置いて離れる。邪魔をしないために。
手を貸して欲しいと呼ばれれば、直に傍へと戻るだろう。
そしてグラス片手にいつもの席へと戻り、喉を潤す。
岩清水は冷たく、喉の奥へと滑り落ちていく]
…や、おはよう?
[身を起こす気配に肩越しに振り向いて、空いた手を振る。
尻尾のような長い髪も、緩く弧を描いて揺れた]
―Kirschbaum―
[からん、と扉を開けて入ってきた...
翠樹の少年がソファーに座っているのを見て驚くが
すぐに駆け寄って、持っていた茶色の紙袋を手渡す]
これ、土産。
[流れ落ちる雫には気づくも...は話題に触れず
ただ袖口でごしごし擦って雫を拭き取る]
…おはよ。
[くしくしと、寝ぼけた目をこすると、乾いた血がぱらぱら落ちた。]
おなかすいた。
[相変わらず、緊張感のない反応。]
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