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[その日、起き出して最初にしたのは、ヨハナに会うこと。]
[まだ眠っているゼルギウスさんに毛布をかけて部屋を出ると、一階に向かった。]
[おばあさまはまるでいつだってずっとそこにいたかのように、そこにいる。今日は広間だった。]
[ばふっと、甘えるようにそのお腹に抱きつく。]
[そのまま、他の人には聞こえない声で囁きかける。]
イヴァンに結界が張った人がいるの。わたしたちじゃどうしようもない。
誰がそうか、調べて欲しいの。
…あと、ライヒアルトさんと、イヴァンさんのこと。
わたし怖い。
イヴァンさんの言うことは、嘘っぱちだったじゃない?でも信じちゃう人がいる。それはそれで怖いんだけど、イヴァンさんが嘘つきだったんだから、ライヒアルトさんもどうだか分からない、そうは思わない?
だいたい、「見極めるもの」、なんて彼が1人で言い出したことだよ。いきなり自分がそうだって。簡単に信じちゃっていいの?そんな力を持った人が、都合よくこの場に現れるなんて、そんなことってある?
アーベルさんは人間だって…だってたくさん証拠が揃ってたんでしょ?
わたしたちは、人狼を1人やっつけたって、思いたいんだけどなぁ…。
でもこんなこと言い出したら、わたしきっと疑われちゃう。ライヒアルトさんとだって、きっと険悪になっちゃうよ。
どうしたらいいかなぁ?
わたしや、「あの人」の口から言うわけにはいかないの。
どうしたら、いいかなぁ?
[囁き終わると、わたしは抱きついていた体を離す。]
…聞いてくれてありがとう、おばあさま。
[カツリ、コツリ。廊下に靴音が響く。
無理にも休めと言われたが。落ち着かない自分がいては休息の妨げにもなろうと部屋へは戻ったが。
当然のよに、まともな眠りは訪れてくれなかった]
アーベルは、人間。
やっぱり俺もそういう目で見ていたわけだよな。
[疑うのなら、親しくないものから。
それはある種当然で、されど不公平な判断の仕方]
イヴァン。
嘘はついてないし。信じられる、はずだけど。
[同居人を信じているのは、一番には過去の話との符丁の合い方から。幼馴染のそれには、そうしたものが無い。
その告発の仕方を非難するものが多い。ならばそれは一考するのに価するのではないかと。
見えたものが増え、思考は…更に複雑になった]
[部屋に戻ると、用意してあった食事をとった。そういえば、まともに物を食べるのは一日ぶりだ。]
ゼルギウスさんが作ってくれたの?
…ありがとう。いつもいつも…助けてくれるんだね。
本当にありがとう…。
[彼が起きていたなら、そんな事を*言っただろうか*。]
そうやって疑えば。
…ライにだって、確証は無い。
[足が止まる。同居人の部屋の前。
暫し躊躇ってから扉を叩く。返ってくる小さな応え]
起きてたか。調子は?
[中へと入る。寝台の上にある住人。
侘び言にはゆるく首を振る]
ああ、まだ起きなくていい。
それは気にするな。
俺に出来ることなんて殆ど無いんだから。
それにお前、軽いし。
[最後は軽口のように付け足して。
抗議が返っても背中で聞き流す。消えかかっていた暖炉を調節し。
とことことやってきたヴィンデの頭を左手で撫でる]
―二階・ライヒアルトの部屋―
…イヴァンが、ベアトリーチェを人狼だと。
[尋ねられたことに答える。
口調から、信じ切れていないことが伝わるか]
俺も一部始終を聞けてたわけじゃない。
細かいことは後で誰かに聞いてくれ。
一番近くに居たのはゼル。誰よりも否定していたけどな。
[そう、そこもまた引っかかる。
イヴァンが言い出した時にその場に居たのは、ベアトリーチェとゼルギウスのみだったはず]
何を信じていいのか。
聞けば聞くほど、分からなくなるよ。
[背を向けたまま、溜息を吐く]
もう少し落ち着いたら起きて来い。
俺が何か運ぶって言う方が、寝てられなくなるだろう?
[振り返った顔は、一見穏やかに。
色の鈍った翠は前髪の間から見え隠れ。
立ち上がると再び背を向け入り口へ]
……お前は違うのかもしれないが。
一人で抱え込むなよ。
抱え込んで壊れていったり。しないでくれ。
[一度足を止め、ボソリと告げる。
そのまま扉を開けて部屋から*出た*]
[いつものように、いつからいたのか分からないうちから、広間の隅に老婆が座っている。
その顔は穏やかなままで。
まるで、事件など何も起きていないかのように、佇んでいる。
その老婆の目が写したのは、廊下から此方へと走ってくるベアトリーチェの姿。
勢いは止まらずに、少女の体は老婆の体へと抱きついてきた]
あらあらまあまあ。
一体どうなされたのですか。
[目を細めながら、ベアトリーチェの体を自らも抱きしめると、聞こえてくるかすかな囁き]
……。
[老婆は、顔色一つ変えることなく、ベアトリーチェの告白を聞いた]
……そう。『守護者』がねえ……。
[続く言葉にも、老婆は静かに聞き続け、最後にベアトリーチェの頭を優しく撫でながら言った]
……分かりました。
私のほうから、なんとか考えておきましょう。
だから、貴方も最後まで希望を捨てないで頑張りなさい。なんならば、この場にいる人や、村にいる人たち全員を皆殺しにするぐらいの気概でね。ふふ。
[穏やかな表情。穏やかな声音のままで、そんなことをさらりと老婆は口に出した]
……。
[会話が終わり、ベアトリーチェが離れていくと、老婆はしばし熟考]
[実のところ、守護者が誰なのかという予測は、この時点である程度までなら絞れるのである。
何故ならば、イヴァンを襲撃しようとして、イヴァンが守られたというのならば、イヴァンを信用しているものの中にいる、ということだから。
昨日のあれからのやり取りを思い出す。
その場ではっきりと。
イヴァンを信じると言ったものはたった二人。即ち、ゲルダとナターリエ。
もちろん、表面上でだけ疑っており、内心で信頼しているものが守護したという可能性も考えられるが、それでも、やはり二人のどちらかが守護者である可能性はとても高いと言えた]
……ここまでは、多分「あの子達」も気がついているでしょうねえ。
後は、私が確信を引き出せるかどうか、かしら。
[老婆は微笑む。
いつも通りの笑顔で。
ずっと変わらない表情で]
[イヴァンのことを聞かれると]
ああ、俺が知る限りでよければな。
[ライヒアルトに対処手段がないか聞いたこと、そのときライヒアルトからは見る力と守る力があるのことを聞いたこと]
あの時、イヴァンに唐突に言われたな。自分が見ることができるかもしれないって。
[それはライヒアルトの話を受ける前だったか、後だったか記憶はさだかでない。
その後に続いたイヴァンの母の説明、そして…]
なんでも力が強すぎるときは人狼に味方するようになるらしいな。
俺が知ってるのはこれくらいか。
[なるべく事実を伝えたつもりだが、果たして情報はうまく伝わったであろうか?]
そうだ、後で他の皆にもつたえようと思うのだが、
[鎧の欠片をゼルギウスに見せてから]
アーベルが殺される前、
廊下で落としていったんだ。
今さらだが、あそこで捕まえたままでいてやれれば、ああはならなかったのかもな。
[かすかな自責の念、
ライヒアルトの力とアーベルの事は伝えるべきか迷ったあげく、伝えることにし、]
事実なら、はめられたってことかね?
どこまでが真実なのか…、
[呟き、その後二人で情報交換を行い、
考えを話し*合ったりした*]
─回想─
今は眠ってる。
発作も起きずに済んだから今のところは大丈夫かな。
[ベアトリーチェについてを簡単に説明し]
[訊ねたことの回答に耳を傾ける]
[先に返ってきたのはイヴァンについてのこと]
[粗方話を聞いて最後の言葉を聞いた時]
[薄らと、口端に笑みが浮かんだ]
そう、強すぎると人狼に。
[小さく、それだけを反芻する]
それを、アーベル君が?
[示された鎧の欠片]
[思い起こされる記憶]
[検死をした時に鎧が何箇所か欠けていたことを思い出す]
物的証拠はあったわけだ。
だったらアーベル君が人狼だったんじゃないか?
そうなると、それを人と判じたライヒ君は嘘をついたことになるか。
でも彼はどうやってアーベル君が人狼ではないと判じた?
証拠がないなら、信じられないね。
[否定の言]
[はっきりと目に見える証拠がなければ信じないと]
[真紅を細めながら言葉を紡いだ]
[記憶のページはゆっくりと一枚一枚捲られていく]
[本人の意思とは無関係に] [知らず知らずのうちに精神を蝕みながら]
[人狼なんてどうでも良い]
[彼女を護れればそれで良い、と──]
…あの時、イヴァンの奴、片眼が異様に充血してた。
もし本当にあいつが見極める力を持っているとしたら。
力の制御が出来てない可能性があるんじゃないか?
得た力が強すぎて、見えぬものも見てしまったりしてるかも知れないぜ。
[小さな疑惑の種]
[先程聞いたイヴァンの力についてを交え、自分が見たことをマテウスへと告げた]
[話し合いの最中でゼルギウスは、イヴァンとライヒアルトの両名を信じぬ旨をマテウスへと告げる]
[確固とした証拠がないことがその理由だった]
[粗方話し終えるとマテウスと別れ、ベアトリーチェの部屋へと戻る]
─回想・ベアトリーチェの部屋─
[部屋に戻るとベアトリーチェはまだぐっすりと眠っていた]
[傍らに置いた椅子へ腕を組みながら腰掛ける]
[しばらくの間紅茶を飲みながら眠るベアトリーチェを眺めていたが]
[徐々にうとうとと舟を漕ぎ始める]
[腕を組んで椅子に腰かけた体勢のまま、意識は闇へと落ちて行った]
[眠りの奥底]
[記憶の靄が晴れていく]
[あの日見たのは愛しい弟の無残な姿]
[病を患い、それでも健気に生きようとしていた弟]
[弟の病を治すために彼は薬師になった]
[必ず治すと] [弟を護ると]
[強く決意していたのに]
(ああ、どうして──!)
[弟は何者かに殺された]
[共にいた両親も殺されていた]
[紅く染まった部屋で彼は慟哭する]
[その光景が信じられず、彼は記憶を閉ざした]
[これはお伽噺の出来事なのだと]
[人狼の仕業なのだと]
[現実と認識せず]
[彼は記憶に強固な鍵をかけたのだった──]
─二階・自室─
[夢現。
漂い見るのは。
遠い過去。
未だ少年から抜け出せぬ時分。
数年ぶりに会った師父、そして、兄弟同然の友。
再会の喜びは、数日後には、紅の惨劇に染め上げられた。
蒼花を咲かせた友。
見極める力を持つと告げた師父。
しかし、師父の言葉は偽りで──]
……レィ……ネ……。
[真実の力を宿した少女は腕の中。
ただ、痛みを残して、息絶えた]
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