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[そっと][頬に][口付けて]
[落ちたままの腕を][咥えた]
[あまり強くならないように]
[傷つけないように][そっと]
―→一階―
[裏口から外へ出る]
[ここから入った][自分をおいかけていただろうハインリヒは?]
[まだ森の中だろうか]
[壊れてしまったのだろうか、と思う]
[そっと][白い雪に、少女の体を横たえる]
本当は、棺に入れて
[言いながら、スコップを取る]
[自衛団たちからは離れた場所で][サクッ][雪を退ける]
[人の力ではなく][狼の力が馴染んでいる]
もっと、安らかに眠れるように……
したかった
[掘り進める][土が回りにたまってゆく]
[それでもずっと][深く深く]
[そして掘り進められた穴の中に]
[少女を横たえる][額に口付ける]
……私も、すぐに、逝きますから。
[微笑んで][土を][被せる]
[祈って]
[そっと天を見る]
……月
[今日も][疼く][ほしいと]
[それを手のひらを傷つけておさえ]
[*踵を返した*]
―裏庭→エーリッヒの部屋―
―二階・空き室―
[目を覚ませば其処に食器棚はなくて。
代わりに大分見慣れた…けれど模様の違う天井があった。
ぱちぱちと幾度か瞬きを繰り返し]
……ぁれ?
[額に手をやれば指先に頭の布の感触。
起きなければこれは巻いていない筈]
……あー…
[また運ばれたんだ。
そう気付いて頭を抱える]
[本当に、役立たず]
[床に木屑も道具も散らばってなくて、この部屋が何時も使っている部屋ではないと知る。
誰かが使っている部屋だろうかとも思ったが、見た感じではその気配も感じられず]
…礼、言わねぇと…
エーリッヒと…あと、どっちかわかんねぇけど…
[病弱な彼では裏口まではともかく二階までは無理だろうと考え、オトフリートとハインリヒのどちらかが運んでくれたのだろうと推察する]
[ベッドを降り、シーツを簡単に直し。
この時間なら階下に居るだろうか。
部屋を出て居間へと向かう]
―→一階・居間―
[居間に辿り着けば、ソファに横たわる老人の姿。
随分綺麗に毛布がかかっている]
ザムエル?
珍しいな、こんなところで寝て…
[歩み寄って、気付いた。
毛布の一部が赤く染まっていることに。
漂っていた血臭に]
[ぐらりと視界が揺れる。
けれど、痛みは襲ってこなかった]
[当人が気付かずとも、それが気付いた]
[ザムエルは人狼に殺されたのではないと]
[そっと頬に指先で触れる。
明らかに生きてはいない、ひやりと硬い感触]
…どうして…
[捲り上げた毛布に隠されていたのは、唯一点の赤]
……どうして……っ
[人狼の仕業ではないと、さすがに気付いた]
[暫くその場に立ち尽くしていたが、腕を差し入れてその体を抱き上げる。扉を押し開き、集会場の裏手へと]
―→集会場外・裏手―
[月光を弾く雪の上、それに気付いて足を止める]
[盛り上がった、剥き出しの土。
その上に立てられた木の枝。
そしてその傍にある、恐らく一人分の足跡]
…誰…?
[問うのは、その土の下に居る人か。
その墓を作り上げた人か]
―二階・自室―
[ベッドの中、半分目覚めた状態で]
[ドアの外。ドアが開く音、閉じる音、話し声、足音]
[ブリジットを起こさないようにそっとベッドを降りて]
[部屋の外へ]
―→二階・廊下―
[聞こえていた話し声は途絶えていて]
[男の声、二人の…それが誰かを察して]
[廊下を歩く]
[不意に、微かな、血の匂い…]
…まさか……
[その、匂いのもれてくる、ドアを、開ける]
[床に広がる赤い染み、それだけが見えた]
誰が……
[誰が死んだのか、誰が殺したのか]
『Who killed Cock Robin?』
[そんな歌がよぎって]
[戻る、部屋に…ブリジットの元に]
―→自室―
[ブリジットは眠っている]
[彼女では無い、彼女はずっと自分と居たのだから]
ブリジットじゃないわ…この子は…違う……
[たとえそうだったとしても]
この子は何も悪くない…この子に…あんな事が出来る筈がないもの。
[たとえ、彼女が、だったとしても]
あなたには、何もさせないから……
[ブリジットの寝顔を見つめて]
[その髪をなでながら]
[彼女だけは守ろうと*誓って*]
―エーリッヒの部屋―
[ベッドの上で、この部屋の主は苦しそうで]
[そっと近づく]
[月の光は見たくなかった]
[甚振ってしまうのは嫌だった]
[だから]
[そっと頭をなでる]
─二階・個室─
[いつの間にか、うとうととしていたらしい。
途切れた意識。
頭を撫でられる感触が、それを再びつないで]
ん……。
[目を開ける。
身体を苛む激痛は、未だに消えてはいない]
─二階・エルザの部屋─
[百年の眠りについているかのようにブリジットは眠り続けていた]
[涙の白い痕が微かに残っている]
[エルザが眠っている間にも起きなかったし]
[エルザが立ち上がっても起きる事はなかったけれど]
[エルザが帰って、幾らかの時が経つと]
[もぞもぞと身を動かす]
[微かに口元に浮かんだ微笑み]
[目を開ける様子に、微笑んで]
大丈夫ですか?
[そうは見えないけれど][尋ねる]
[先ほど見た月の影響か]
[瞳があかく][緋く]
ああ。
[問いに、笑みを浮かべて返す]
大丈夫じゃねぇけど……大丈夫だ。
[解放してくれるんだろ?と。
緋色の瞳を見つめながら、問いかけて]
[微笑んで][そっと][額に口付けを]
[昔の習慣は][ここには少しそぐわなくて]
痛いかもしれませんけど
[そういって、そっと、右の肩に触れる]
─二階・エルザの部屋─
エルザ…ママ………ずっと、一緒…
ママ…
[むにゃむにゃとわらって呟いて]
[ややあって、睫が震えて瞼が開いた]
[室内の灯りが眩しくてすぐ眸を細めたけれど、エルザの顔がすぐそこにあるのに気づくと安心しきったようなほほえみを向けていた]
[額に触れられた瞬間、ふと過ぎるのは子供の頃で。
変わってねぇな、などと思い、苦笑が過ぎる]
かまやしない……。
今だって、全身、激痛走ってんだ……。
[かすれた声で言いつつ。
右肩に手が触れれば、それでも笑みが浮かぶ]
―集会場外・裏手―
[毛布をかけたまま、ザムエルの上に土を乗せる。
全てを覆って、暖かい土の中へ]
[新しい木なんて彫ってない。
だから、墓標代わりになるものなんて何もないけど。
盛り上がる土は意外に目立って、判り易く]
……ごめん。
[謝罪は何に対して漏れたのか]
[少し離れた位置にある木の枝をちらりと見遣り。
集会場の壁にスコップを立てかけて、裏口から中に入った]
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