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涼ちゃん。私、言ったよね?
涼ちゃんが、例え説得してくれたとしても。
見逃すことは出来ないんだよ、って。
[静かな兄の声。それに続けて]
哀しくても。
新しい悲しみを作らせ続けるわけには、いかない。
だが、君の中に魔はいない。
しかし、孝坊は、そうじゃない。
……だから、鎮めなきゃならないんだよ。
[涼に向ける言葉は、あくまで静かに]
……巫女が関わりないなら、尚更、ほっとけねぇな。
[ついで、孝博に向けたのは、鋭さを帯びた言葉と、視線]
だって、やだって、言った。
私は、人だって、言ったよ。それでいいって
――え?
[孝博を見る。]
なん、で?
巫女さんが、咲かせてって、言ったからじゃないの?
そう、これは私の我侭。
死にたくない。死なせたくない。
[蓮実の声を聞いて。孝博の方へと目を凝らす]
魔を開放してしまうわけにも、いかない。
独りよがりと笑われても。
[涼の言葉に少し息を詰まらせる。巫女は悲しみ、その願いを涼達に伝えた。それを叶えるために彼女達は動いていたと言う。気持ちは分からないでもない。
でも]
悲しみは、悲しみを、生み出す。
連鎖し、伝播する。
巫女の悲しみ、望み、それにより発生した、憎しみの、連鎖。
それは、いくつもの、悲しみを、引き起こす。
……そんなの、続けちゃ、いけないんだ。
[ぽつり、小さく呟く。自分に孝博を止める力は無い。前に居る皆に頼るより他ない。
だから、願う、祈る。全てが、悲しみから解放されることを──]
[涼の視線。見えないからこそ、感じた]
思うかどうかじゃないわ。
そうしなければいけないだけ。
[もう一つの冷たい視線に、僅か身動ぎながら。
それでも構えは解かない]
思ってなかったら、言わねぇ。
[冷えた視線を向ける孝博に、ふ、と笑んで]
そして、俺は、やると決めた。
葛木の血を継いだ者として。
ただの俺として。
……これ以上、何も失わない、奪わせない。
[右手は既に、懐の黒檀を掴んで]
[切欠は、確かにコエだった。
最初に犯した殺人も、或いはその為だったかも知れない。
それでも、]
オレはなァ、
愉しけりゃ、
何だってよかッたんだよ。
[続けたのは、かれ自身の為。]
それが一番の問題ですね
[このような惨劇の舞う陸の孤島に法などというものはない
単純に強いものが勝つわけで、孝博の言葉は己にはしっかりと当てはまるが]
別に全員にそれがあてはまるとも限りませんしね
[涼をつかみ引き寄せ、孝博から離す]
[男の人の力に、今は逆らうこともできず。
ただ、見る。
――それでも、孝博が本当に危険だったら、かばってしまうんだろう。
そういう風に、ちょっとだけ、思った。]
こんな状況じゃ、自信過剰な位の方が、生き易いぜ?
[くく、と笑う。
口調は冗談めくが、瞳は険しさを帯び。
漂う桜の香に、それは更に強くなる]
咲いた桜は散らせばならぬ。
凝りし魔を散らせばならぬ。
[その構えは素人のもの。
けれどその意思は連綿と受け継がれてきたもの]
負けることなんて。考える暇、無い。
[均衡の崩れる一瞬を待つ]
[言い捨てて、それきり彼女からは興味を失ったように。]
じゃァ、
――やってみりゃ、イイんじゃねェの?
[顔から手を外し、同時に地を蹴った。
向かう先は史人。
力で言えばかれより上であろう琉璃ですら、殺されてしまったということは、今は意識には無く。
無辜の者を殺したときとは、明らかに状況が違うことにも気づかない。]
そうですか。自分の意思ですね…では同じです
単に道が外れただけですが
[愉しければと口にする孝博に軽く頷き]
涼さん…いい子にしててもらえますかね。
できれば死んでもらいたくないですから
[こちらへと駆ける、孝博の様子に、ふ、と笑みを浮かべ]
……遅いぜ、孝坊っ!
[右手に、ぐ、と力を入れる。
走る痺れは意識に入れずに、刃を抜き放ち。
その勢いに乗せるよに、短刀を斜め上へと大きく振るう]
[孝博のことばの意味なんてすぐにわかった。
ただ自分はいらなかったんだと思った。
だからはっちゃんに止められても、止められなくても、動けなかったのは本当だ。
でも、――私は魔に染まりきってはいないけど、その要素もあって。]
――…
[空耳だと思う。でも確かにまた、桜を咲かせてと願う声がきこえた気がした。]
[孝博と兄が交錯する。
その隣でザ、と一歩横へ踏み出した]
………。
[動きを追えている訳ではない。
ただその気配だけを読もうとしながら]
ッと。
[振るわれた刃の軌跡に合わせるように、上体を逸らす。]
ダレが、遅いッて?
[上がった手を掴み取ろうと、片手を伸ばす。]
[もはや別人のような孝博の姿。昔慣れ親しんだ彼は、もうここには居ないのだろうか]
人が、死ぬのは、もう、嫌。
ここに居る、誰も、死んでは、欲しくない。
でも、それじゃあ、終わらない…。
終わらせる、ための、代償が、必要。
私には、手を下す、力も、勇気も、無い。
出来ないから、出来ることを、する。
見届け、背負う、覚悟を。
[命は須らく平等。命を刈ることは他者の生を背負うと言うこと。自分は他者の命を刈る勇気は無いが、それを止めることもしない。だから、刈る者と同じように、その者の生を背負わねばならない]
[史人へと踏み込む孝博。2人の動きをじっと見つめ。この惨劇が終わることを、ただひたすら願う]
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